変新(へんしん)クラガリに行こうぜ! 

低迷アクション

変新(へんしん)クラガリに行こうぜ! 

変新(へんしん)クラガリに行こうぜ!


イラクに米軍が侵攻し、昔のベトナムみたいな泥沼突入3年目くらいの夏、

俺は高校1年で不良共の腰ぎんちゃくポジを謳歌していた。


その日はムシムシという文字がそのまま出てきそうな熱さで、鬱憤晴らしの玩具を

探していた俺達は、オタク風のメガネを路地裏に連れ込み、サンドバック宣言をしてやった。


こーゆう時の一番槍は俺の役目、リーダー格の“タケ”の指示の元、卑屈と熱さがイイ感じに合いまった“ウザ面”のメガネに一発見舞おうとした俺の手は、


そいつがこっちに差し出した定期入れ兼財布のカード入れ部分で止まっちまいやがった。

清楚な白のフリフリ衣装。顔の半分くらいがデカいお目をしたアニメキャラクター。

確か…


おじゃ魔…違うな?だが似ているし、これは最近見た、子供向けアニメのキャラクターだ。俺等が小学校後半の頃から始まったシリーズ、あの楽器みたいな感じのアニメは、

あまり好きではなかったが、


小学卒業まじかに始まった特撮覆面ヒーローの平成版を見た時と同じよな衝撃を

味わった気がする。


(まだ、続いてたんだ。なんて名前だっけ?確か…)


思春期高校男子が名前に出すのは非常に恥ずいネーミングだ。そもそも


そんなモンは、とっくに卒業していた筈だった。中学時代やバラエティにドラマ、

青春の代表?である部活に明け暮れた俺だ。


中学生にもなって、子供向け、可愛い系アニメを見る“アキバ系な連中”とは

疎遠になったし、軽蔑もしていた。(これらを萌え系と言うのは後で知る事になる)


だけど…ケースに入った美少女?という奴を見ていく内に何だか心の臓あたりがいてぇ。

嘘だろ?グラビアや先輩が隠してたエロ写真見た訳でもあるめいし…


いや、何て言うかな?このキャラ?この子、ほらフリフリなスカートとか、まつげ長いとか

あーもう、語彙力が足んねぇ。学がねぇ、けど!!

とにかく


(可愛い)だ!


そう思ったら、後がいけねぇ。昔から、居場所探しに苦労する性分。安住の地を探して、

体育会系、生徒会、はたまた、塾なんかの習い事をさまよい歩き、

どれも性分に合わなくて、不良共にへーこらするしかなかった自分。そんないい加減な

野郎が何だか、この子を見たら、しっくり来た。本屋とか、遊園地では見た事はあるけど、

世間一般的じゃぁ決してない。


(勿論、子供とか対象年齢があってる奴はいる。ちなみにこの時は同人とか

深夜アニメのジャンルを知らなかった)


子供狙ったロリコン犯罪が起こると、真っ先に犯人の部屋に置いてあるモノ、そんな

反社会的な存在に


(一目惚れしちまったらしい)


こうなったら、もう駄目だ。怯える眼鏡の肩をトンと押し、路地奥の抜け道を示してやる。

何度も振り返りながら、走る奴さんを見送り、元仲間の方へ振り返った顔面に強拳一発。


近くのゴミ箱に頭をぶつけ、転がる俺を見降ろしたタケと、周りの取り巻き共がヘラヘラしながら、近づいてくる。どうやら、サンドバックが変わったらしい。


明日からの学校生活や、今後の不安が広がる筈の思考は殴られたせいで、可笑しな方向に

進んでいく。こんな時、最近、御無沙汰のアニメや漫画ではどうなった?


思い出せ。ヒーローにヒロインはきっとピンチにかけつけてくれる。こんなダメダメの俺にだってきっと…いや、無理か…散々、馬鹿にしてきたもんな。中学では、漫画とかアニメ


話してる奴等をイジメてきたし、仲間外れにだってした。当然の報いだ。もはや、妄想か

現実の境を取っ払ったような予測と展望を繰り返す俺の眼前で、予想に反した動き!?と

至福?いや最高の瞬間が訪れたやがった。


タケの腰ぎんちゃくが俺の傍を抜けて、吹き飛ぶ。今度は連中が後ろを振り返る。

「マジかよ…本当に来やがった」


腫れた頬っぺたをどうにか歪ませ、ヤケクソ半笑いの俺に救いの何かが来やがった。


路地の入口に二人の学生が夏の日差しを背に、映画みたいなカッコよさげシルエットで

立っている。


それが、今後の話の主となる男達“アカ”と“アオ”そして俺の面合わせの瞬間ってな感じ、漫画、アニメで言えばファーストコンタクトになった…



 「何だ、オメェら?」


タケがブルドックみたいにひしゃげた面をさらに歪ませ、威嚇ありきで吠える。

だが当の二人、少し茶髪かかったヒゲ面と痩せぎす、表情真っ青系の二人は

完全無視で話を進めていく。


「オイ、アオ、ジェットストリームアタでよろしく勇気だぞ?」


「アホ、二人しかおらんやろ?アカ?」


「ゴミ箱で伸びてるの加えりゃ、3人だべ?」


「元ネタ通じんかったら、どうするん?」


「あーもう、わかった。じゃあ、俺ゲンググ。ビームナギナタは俺持ちな?」


「あっ、ずりぃ。じゃぁ俺。フリーダム!」


「お前、種中かよ?しょーもねぇ。」


「懐古厨はだまっとれや。カッコよけりゃぁ、何でもええ!いくで?」


電波系というのだろうか?まるで意味不明の会話に戸惑う俺と不良共を尻目に茶髪が

近くに転がる壊れたモップを片手に持ち、中国拳法にみたいにグルグル回し始める。


うろたえる腰ぎんちゃく達だが、タケの前で躊躇すれば、どんな制裁が待っているか

わからない。何人かが、近くにあった木片や鉄棒を拾い、茶髪に殴り掛かる。


「ザコとは違うのだよ!ザコとは!!」


威勢よく吠えた茶髪(恐らくアカという名前だ)が回転した棒で巧みに腰ぎんちゃく達の

武器を絡めとり、鋭い一撃を頭部に加えていく。


慌てて残った奴等が間髪入れず飛びかかるが、

それをアオと呼ばれた方の男が手刀と蹴りを繰り出し、流れるように、

突き出される拳を全て躱して確実に仕留めていく。


気が付けば、立っているのはイカレタ二人とタケだけになっていた。

両手を広げ、相手を迎え入れるような、意味不明のファイティングポーズ(?)

をとるアオの後ろで、棒を持つアカが不満げな声を出す。


「アオ、余計な助太刀はいらんぜ?だいたい、エースの資格は5機倒さねぇと意味がねぇ。」


「遅いんだよ。オメェは、魂が重力に縛らなんたらだ。」


「コイツ等…イカレてるぜ…クソッ、オイ!お前等!!」


想定外の光景にビビるタケが、地面に転がる仲間を起こし、路地奥に消える。俺に憎しみの

一瞥をそれぞれ投げていくのだけは忘れていない。さて、明日は酷い事になりそうだ。


これから家に帰るまでに今後の学校生活の算段と対策を早急に巡らせる俺の前に

件の2人が立つ。


「おたくは白好きか?確かにあれは、エロい。だが、定期入れとかに入れちゃぁダメだ。

まだまだオタク狩りが厳しい我が地元。殴り返すガッツがなけりゃぁ、


海ドラのダークエンジェル、ギャラエンじゃないぞ?みたいに隠れるっきゃねぇさ。」


確か、アカと呼ばれた方が俺に手を差しだし、かける言葉に、申し訳ないが首を捻った。

高校生には見えない、ロック歌手みたいな染め髪に、ヒゲ面ガッシリ体格、まるで熊。


しかし“ザ・ワイルドっていうよりは、熊のなんたらさんの方のアカ”だ。


そして目が優しい。その顔が困ったように傾げられている。


思わずこっちまで悪い気になってしまうってもんだ。


「アカ、ちげぇよ。白のカードを持っていたのは、助け求めに来たメガネだよ。

名前忘れたけど。コイツはそうだな。一杯いるけど、今は思いつかんから、あれだ。


トランスなフォーマーのジェットファイアだよ。面が似てるだろ?

自分の信念に従って、俺達サイドを選んだ奴だ。コイツもな。そうだろ?」


ちと細くて常時具合悪そうな、例えるなら、調子が優れない“ヒョロヒョロブルースリー”のアオが自身満々で解説する。


さっきから会話内容がサッパリだが、とりあえずダチ公を裏切り、

新たな居場所を探している自分としてはありがたい解釈だ。そろそろ口を開いた方が

よさそうだ。


「そう思ってもらえると助かる。オタク等、この表現が気に食わないなら訂正する。

仲間のメガネを助けて、明日からクラス内サンドバック確定の俺だけど。別にいい。


スッキリしたよ。だから最後に一つだけ。さっきの子、メガネじゃなくて、

あいつが持ってた、あの子の名前は…」


言ってて、口を噤む。暑さとパンチ一発で、頭がイカレた。まだ真昼間の往来で

アニメの女の子の名前、それもキャラ名を聞くなんてどうかしている?


そこまで駄目になったか?俺。いや、駄目じゃないか?


恥ずかしさとふがいなさで、立ち竦む自分とは対照的に、妙に明るいアカとアオが

笑いながら顔を見合わせ、その直後


「〇〇ホワイトォォォ!」


とハミングの効いた合唱をかましやがった。


呆然と口を開く俺。通り入口の一般人達の視線は釘付け。それにお構いなしの二人と

多分、同類項に当てはめられた俺だ。もうここまで来たら、腹をくくるしかねぇ。


「ありがとうよ…とりあえず可愛い名前だな。」


「ああ、とりあえず一緒に来いよ。」


笑う二人に、とりあえず続く事を決め、俺は路地を出た…



 「こんなモノがあるなんて…」


狭い地元を、まだまだ俺は何にも知らない。いや意識しなかっただけだ。

それを改めて自覚した。


帰宅前の“お決まりコース”そう説明された“オタクルート”は

新鮮で素晴らしいものだった。駅前ビルの一角にあるアニメショップ。


店頭に並ぶ、冊子やポスター、備え付けモニターの映像に、

さっきのキャラクターと同じような子、いや、様々な姿や様子に

ただ圧倒された。騎士風の少女に耳が生えてる子。俺達みたいな制服を着た子、


胸が大きいのや、小さいの。加えて、子供の頃見ていた、ロボットアニメを

もっと細部にこだわり、リアルな造形群のプラモデル。怪獣の玩具に特撮ヒーロー、

全てが新しく、甘美で素敵な世界だ。


陶然と陳列棚に食い入る俺を眺めたアオが、楽しそうに話しかけてくる。


「その分だと“アキバ”にも、まだ行った事がなさそうだな。ここより、もっと凄い。

そいつは次回にしよう。そして、ここじゃちと値段が高い。次の店に行こう。」


笑うアオに俺もすぐに頷ずき、笑みを返した。


「知らないかもしれないが、ここら辺の古本屋は全部で5件、深夜営業をやってる店も

ある。閉店時間の最長は深夜3時でね。こーゆう萌えなグッズも冊子も、DVDもある。


俺達、文無しにとってはありがたい事にだ。」


アカがそう言いながら、説明した、いくつかの本屋は、外見は地味で、

普段なら見逃してしまうような場所にあった。


しかし、内容の充実度は変わらない。先程のアニメショップ程、派手に、ポスターや

映像を流している訳ではないが、蔵書量が多く、何より安い。通常600円~800円の漫画が、ここなら、350~100円のものだってある。


進められるままに何冊かの漫画本や“特価”と大きく描かれたポップの付いたワゴンから

アニメのDVDを購入する。


かなり扇情的なモノも多くあり、一介の高校生男子としては、非常に興味を持つが、

アカ達の手前、大っぴらには出来ない。


ズッシリとした袋に確かな重みと満足感を抱き、営業時間を確認した俺は、夜の再訪を

誓い、本屋を後にする。携帯で時刻を見れば、5時。日は明るいが、そろそろ帰るとするか?


そう思う自身にアカとアオが最後のお決まりコースを案内する。ゲームセンター、

以前、タケ達と来た時は、クラスの女子とプリクラか、ユーフォ―キャッチャーだけだった。


しかし、彼等が向かったのは店頭ではなく、地下一階、照明は薄暗く、タバコと香水に体臭、よくわからない匂いをごっちゃまぜにした空間に、ネオンのような明かりを瞬かせた

いくつもの光源が点在し、そこに向かい合う学生や社会人風の人間で溢れかえっている。


アカの説明で、ここは格闘ゲームやシューティングに、シュミレーション“音ゲー”の

エリアらしい。


「音ゲー?」


「ダンス何とかって、リズム踏んで踊る奴あるだろ?あれの楽器バージョン、ドラムと

ギターがある。ドラムを打つスティックは、備え付けじゃなくて、

実際の楽器屋で買う奴もいるぜ?」


そう言っている間にアオが、カバンから自らの“マイスティック”を出し、

ドラムを叩き出す。実際の演奏のように激しく打つのも凄いが、流れる映像に俺の目は

釘付けになった。アカに聞けば、流れる曲はメジャーなモノもあるが、

中にはまだ売れていない、


これからメジャーになるバンドやアーティストの楽曲提供もあるとの事だ。PVの

イラストや映像も同様、意味不明?ナンセンスな映像群や歌詞も多いが、それらが表現する事はただ一つ。


「近頃、そろそろ限界~♪ルールなんて関係なぁ~い♪こんな腐れた気分捨てて、

今すぐ飛び出そ~う♪決められた道なんてないし、全部、自分次第だし、後悔なんてしたくない壊れたって構わない♪」


「だぁって、創造の甲斐なし、平和な時代に埋もれてちゃぁ、戦いを知らない、存在もない

無知の群れ♪抜け出したきゃ、戦えよ!全て失う前に♪」


「たぁった一つだけ愛を、求め、僕らは今、飛び立っていく。フロンティア、待っていろ。

いつかぁ~辿り着く…」


アニメばりな描写の女の子がドン引きな色合いの町をバイクで走る爽快な映像、

カボチャの群れを倒し、進む恐らく兵隊な恰好の少年の冒険譚。

あらゆる動物と乗り物を乗せた飛行船が空を駆けるモノなど


言葉の羅列のような歌詞とトンデモ映像が繰り返し、俺に叫び、ぶつけてくるのは…


(こんな所で絶対に終わらない!終わってたまるか!!)


だ!!


「スゲェッ…」


思わず出た言葉にアカが笑う。アオの演奏を褒めているのだと思ったのだろう。勿論、それもあるが、この空間全てに俺は震えていた。


光、明るい場所を求めてさ迷った自分、華やかな青春、友人達と好きな先生や女子の話題で騒いだり、部活動で汗を流してもいい。女子とゲーセン行ったり、付き合ったり、地元の

祭りに、夏は海、冬は初詣。そんな行事も遊びもきちんとこなす3年間を過ごすのが、

当たり前の高校生活と決めていた。


それが出来ないのは負け犬、日陰者。その後の人生一生真っ暗コース。

明るい表を歩く奴等を羨む毎日。俺は正直怯えていた。


だから、そんな奴等を迫害し、時には暴力を奮い“自分は違う。こんな情けない奴等じゃねぇ。”という事を証明しようとしていた。無理やりに明るい場所に居続けようとしていた。


心の何処かで無理をしている、満たされない自分がいる事に気づいていながらだ。


それが今日、全て解消した。いや、まだまだ不安があるが、それも良い。この通常青春とは

絶対の真逆コース、友人達と好きな先生や女子(漫画、アニメ&ゲームキャラ)で

盛り上がり、


文科系部活、もしくはアニメショップ、古本屋、ゲーセンとオタクフルコースを闊歩し、


恐らく女子とは付き合う事がないから(この時代、オタクの女性と男性には、かなりの隔たりのある地元だった)


年間行事は全てスルー、多分、アニメイベントとか

(コミケとか、即売会の話は、この時点では、予備知識すらなかった。)

そこら辺が補ってくれるだろう。そんな一般社会から指さされる事確定の

アウトロー&アウェイな“クラガリ”に俺は踏み込んでいる。


「なりたい自分になればいい~♪自分で決めた道~♪もう迷いはいらないー♪」


タイミングの良すぎる歌詞が流れてくる。コイツは僥倖、正に“アニメみたい”だ。

周りの奴は気づきもしないだろう。しかし、俺の中じゃぁ、ヒーロー登場の映画や

天空の浮かぶ城見つけた、国民的アニメの名シーンと大差ない。


光どころか、暗闇街道まっしぐら、だが俺にとっては眩しすぎる入口に

進む事に決めた、自分物語、最大の変換シーンだ。


「今日はありがとうな。俺は帰るよ。」


リズムに乗って、小刻みに体を揺らすアカに声をかける。


「そうか、俺達はもう少しここにいる。」


「ああ、じゃぁな。」


袋を引っ提げ、暗い地下から、明るい場所、これから向きあわなければいけない世界へ

足を踏み出す。もう迷いはない。戦うと決めた。


「オイッ!」


演奏を終えたらしいアオが声をかける。振り返る俺に定期入れのような束を放ってくる。

受け取った手元を見れば、先程の〇〇ホワイト。これは…


「さっきの眼鏡がお礼だってよ。“同志への餞別”とも言っていたぜ!」


熱いモノが込み上がってくる。正直、迷いはないが、出来れば一声欲しかった。最高の

賛辞だと言えるだろう。立ち竦む俺にアカの声が続く。


「俺達はいつでも、ここにいる。暇ん時は派手にやろう。もうお前はダチ公だぜ?

そうだろ?ご同輩!」


頷く俺はカードをそっと袋に入れ、その場を去った…



アカとアオに助けてもらい、お先、真っ暗、だけど明るいぜ!こん畜生なオタクライフに

どっぶり浸かる事を決めた俺だが、そのために“やるべき事”があった。


危惧していた、クラス内サンドバックは回避された。アカとアオの強さを見たタケは、

小悪党ばりの小心ぶりを発揮し、俺に手出しはしなかった。


しかし、それとは逆に、クラスどころか、学級内からの一斉無視が始まった。

1年の始めという事もあり、他のグループ、いわゆるオタクの集まりを探す事も考えたが、


自分の腰ぎんちゃくぶりは知れ渡ってるし、そこをハブられた身、


「ざまぁみろ」

と思う奴しかいないだろう。


やはり仲間になるなら、アカとアオ、あいつ等に限る。転校したっていい。最も、

今読んでいる漫画によれば“転校”という言葉は、不吉なワードこの上ないらしいが、

今は関係ないだろう。


自身なりのケジメをつける。それが俺の“やるべき事”だ。

チャンスは向こうからやってきた。


放課後の帰り道、古本屋に寄った後、アカ達のいるゲーセンに向かう予定を立てる俺の

背中に、鈍い痛みが走る。


「こないだの変人二人は、助けに来ねぇぞ。俺の先輩達があいつ等を探してる。

見つけ次第半殺しだ。お前もな。」


馬鹿の典型、タケの台詞が終わる前に振り返り、手近にいた腰ぎんちゃく二人の顔面に

漫画本入りの重いカバンをぶつけてやる。戦いのシュミレーションはアニメと漫画から

学んだ。


更に加えれば、これは漫画を参考にする訳でもないが、一度顔に泥を塗られた不良や悪漢は絶対に報復を考える。それなりの準備をしてだ。その予想は目の前の現実で大いに当たった事がわかる。


だから、先に取り巻きを潰して、大将首。と思ったが、そこは現実、

タケの鋭い拳が顔面にめり込む。鼻から血を吹き出し、のけぞるが、倒れない。


ここで弱気を見せれば相手の思うまま。取り巻きは地面に転がってる。状況はこちらに

有利。活かさない手はない。


再度、鞄を持ち上げ、構える。元特殊部隊保険調査員の作品で主人公が言っていた。

北米のインディアンの戦闘術で片手に持った武器に注意を引きつけ、もう片方の拳を

繰り出す。


現に相手は鞄の動きに注意している。そのまま飛びかかり、鞄を横に投げる。

一瞬、タケの視線が逸れたのを見逃さない。方頬を勢いよく張り飛ばす。


仰け反った奴だが、小悪党魂健在とばかりに、鋭い蹴りを腹に入れてくる。

見事に決まった蹴りのせいで、転がる俺に、タケがのしかかり、何度も、何度も

殺意を持った拳が顔にキマッていく。


痛みと一緒に、ここ数日読み深めた漫画やアニメの台詞がフラッシュバックのように

脳裏をかすめる。


ある東洋の殺し屋は、強大な権力に対し、何故?抗うかを問われ、こう言った。


「強者が定めた決まりに従う者は、それに恭順し続ける限り、一生弱者のままだ。」


その通りだ。何もしなければ、変わるモノなどない。


口元に笑みが広がってくる。次は自分より超強い看板娘に挑み続ける自称格闘家の言葉

だってこうだ。


「目の前にチャンスがあるなら、自分が折れない限り、それはいつまでもチャンスのままだ。

無理かどうかの裁定を下すのは、他人じゃない、俺だ。俺自身の心だ。」


自分はまだ、諦めちゃいない。息もしてるし、戦う気概が満帆だ。それに見ろ。

タケの目をビビってる。ここまで殴られて、泣き言を言わない俺に、超ビビってるぞ?


「手を撃たれても、足を切られても、頭を潰されても、倒れない?何故かって?

簡単だ。心はまだ死んじゃいない。だから、おめえは俺を殺せねぇのさ。」


ノスフェラトゥの主人公の台詞を思い出した所で、タケの顔に渾身の一撃を打ち込む。

仰け反った奴のダメージはあんまりなさそうだが、恐怖に怯えてる。俺にアカとアオ、

同じモノを見たのかもしれない。


「イカれテルよ。コイツ。」


叫び、取り巻き二人を起こして逃げていく。こないだと全く同じパターンだ。

痛みと一緒に沸き起こる歓喜を存分に楽しみ、自分への精一杯の賞賛を呟く。


「やりゃぁ、出来るじゃねぇか?俺…」



 いつものゲーセンに顔面傷だらけで現れた俺にアカとアオは何も言わなかった。

俺も自分の武勇伝をひけらかす気はしない

(ちなみにタケが言っていた二人の先輩は異様に強い“よくわからないキャラ名?に

扮したオタク二人”に返り討ちあった事が後日わかった)


俺の帰るべき場所は決まった。2人のいる学校への転校先のプランも決まっている。

これも元は漫画ネタだが、今は何処も半そでのシャツ。小さい校証なんて、誰も気にしない。

それを利用して…いや、これはまた次回の話だな。


今日の二人は格闘ゲームに夢中だ。画面を見れば、紫ベレー帽にヒラヒラスカートを穿いた

女の子が画面を、所せましと、飛び回っている。ヒラヒラしたミニスカは今にも中身が…

いや、ここは覚えたばかりのオタク的な感じで聞くとしよう。


興味津々な俺の様子に二人が笑う。俺も同じくらいの嫌らしい笑みを努力し、こう切り出した。


「なぁ?この子のパンツは何色だ?」…(終)

 

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