パンチ乱舞?

低迷アクション

パンチ乱舞?

パンチ乱舞?


「軍曹、不味いっすよ。」


スポッター(狙撃観測手)の“ジャックス”が、こちらを窺う。シューター(撃ち手)の役目を担う“ローチ”も、スコープから目を離さず、横目でこちらをチラチラ盗み見る…


「ブラボーより。チャーリー、ハク(迫撃砲)の準備は整ってる。いつでも撃てる。ボカスカやろうや。」


威勢の良い声は、この山岳地帯の向こう側、隣の山側に待機する第2小隊の砲兵部隊だ。

味方からの掛け声に軍曹と呼ばれた男は顎を静かにさすり、続けて軍帽を抱えた。


確かに、彼等の気持ちはわかる。軍人としては当然だ。だが、だけどだ。


「なぁ、皆…」


「…?…」


軍曹の低い声に部下達が訝し気に、こちらを見た。


「どうにも、要救出対象が“要”というより“幼”で、何かやる気がでねぇんだけど…」


彼の言葉に、部下達は眼前に繰り広げられる“武装勢力に拘束された魔法少女達”を改めて見直した…



 どうやら、世界は“どうにかなってしまった”らしい。いつの間にか、

空をスーパーヒーロー、ドラゴンや特殊能力者達が闊歩し、魔法だって当たり前の世界が

到来した。人々はこれらの存在を受け入れ、世界の平和と技術発展に寄り添い、

尽力していく事を決め、


その証として、各国連合国家“統合政府”の樹立はを宣言した。これで、世の中“平和”になるかと思えば、そうではなく、特殊な能力を持つ者達を利用する輩に、能力者自らが

自利益のため“悪”を名乗る始末。


ましてや、核以外の存在で、世界を灰燼に帰す事だって“可能”な世の中の到来…

戦いは否応がなく激化の一途をたどっていく。


軍曹達が所属する統合政府連合軍も(通称“統合軍”)人知を超えた敵との戦いで、連日、

多くの始末を出す現状。


実際の所、これは“第三次世界大戦”の様相を呈しているのでは?と惑う始末である。


今作戦も小規模の作戦でありながら、責任は重大。最近、力をつけてきた武装勢力に対し、

統合軍所属の魔法少女隊(どうみても、全員、高校生以下の女の子達、軍曹としては非常に頭が痛い)


が討伐のため、派遣された。軍曹達は念のためのバックアップとして、追従。

ブリーフィング(作戦会議、概要説明等)の際には、


「現用兵器で武装している連中には、通常の兵士を交戦に当たらせるべきでは?」


との意見(もっぱら、軍曹が主張)も出たが、


「魔法少女達の持つ不思議な力の方が確実優位、かつ迅速に任務を完遂できる。」


との見地から却下された。そうして迎えた当日、3人の魔法少女の内の1人(ドジっ子系)が躓き、二人の頭にマジカルステッキを、それぞれ直撃させ、自身も転んで頭を打って気絶。


カラシニコフ銃と覆面で覆った武装兵士達をマスク越しにわかるほど、多いに困惑させ、

現在に至っている。


「軍曹、何が、幼いですか?早く助けんと、偉い事になりますよ!!」


「ジャックス、そうは言うけどな。見ろ。囲まれちゃいるけどな。ちゃんと椅子に座って、食事も食べさせてもらってんじゃん。大丈夫だよ。何か“ほわわ~ん”な雰囲気じゃん。

大丈夫だよ。多分、このまま解放だよ。」


統合政府が指揮する作戦が始まった時、能力者同士の戦いは除き、テロリストや独裁国家に対し、投入された魔法少女や変身ヒーロー達が偉く歓迎され、そのまま問題解決という

パターンも少なからず起きていた。


これは恐らく、世界が異常をきたす前に、世界を座間した東洋のオタク文化

“クールジャパン”の影響が大きく影響していると考察される。


誰もが、ゲームやテレビ、スマホで嗜んだキャラクター達が現実のモノとなって現れる…

それに戸惑い、同時に感激しているのだ。


そんな事を想う軍曹の横で、望遠スコープを覗くローチが悲鳴に近い声を上げる。


「軍曹、不味いです。奴等、彼女達の変身コスチュームを引っ張ってます。不味いぜ、18禁同人パターンだ。」


「いや、大丈夫だって。アイツ等、偶像崇拝禁じてるから、あんまそーゆうのに興奮しないよ。きっとあれだよ。武器持ってないとか、確認だよ。確認!」


「何言ってんすか、あれは嫌らしい感じですよ。“えっ、スカートの中、えっ?どうなってんの?”って言うあれですよ。」


「こちら、ブラボー、いつでも撃てるぞ?」


いきり立つ味方に軍曹は頭を抱える。“何で?コイツ等、こんなに順応はえぇの?可笑しいよ?かなり、ありえなブレイクシチュだよ?”と言いたい。


確かにピンチかもしれない。だが、軍曹にはイマイチ、この現状に馴染めない。フリフリの衣装を着た少女達が戦場を闊歩するなど、悪い夢の延長みたいだ。


しかし、仲間達の手前もある。戦場においては、彼等の連携と信頼が大事だ。何か、

キッカケを…そうだ。彼等に選ばせよう。いかにも漫画的なシチュエーションを提案し、


それの結果次第で交戦か、傍観かを決めようじゃないか?頭で1人会議を繰り広げた

軍曹はコホンと咳払いしつつ、部下達を見回し、言葉を発す。


「よし、わかった。お前等。あれだ。一つ提案しよう。もし、あれだ。いわゆる漫画的

シチュエーションで言う“パンチラ”なるモノが起きてだな。彼女達の下着の色が、えーっと…」


「白!」


「ああ、白ね。まぁ、変身ヒロイン系は清楚じゃないとね。そうだよな?わかるわ。

(ジャックスの血走り声に若干引きつつ)じゃぁ、白だったら、救出、それ以外だったら、

しばらく状況を見る。それで行こう。いいな?」


こちらの言葉に味方が頷く。ほっと一息をつく軍曹、スポッターのジャックスによれば、今日の気候は無風、強めの風が吹く事は万が一にもない。仮にパンチラ現象が起きたとしても、彼女達の履き物が“白”だなんて、そんな漫画みたいな偶然…


いや、漫画みたいな出来事当たり前の現世…不味い…ハッとする軍曹の耳に、鈍い砲声と弾の滑空音、そして爆発と共に起きる一陣の風…しまった、通信を切るのを忘れていた…


冷静にスコープを覗いたローチが青褪めた自分に報告を入れる。


「パンチラを確認、色は白。救出支援を開始します。」


その言葉に軍曹は自身の銃のスコープを覗き込む。強風にあたふたする兵士の真ん中で

“ハわわ”な顔をした可愛い子ちゃんの、きらびやかな衣装のスカートが大きく捲れ、


艶の良い、生肌足の真ん中焦点に光るのは純白の三角…


「ちっくしょう…」


軍曹が呟くと同時に、砲声と銃声が連続して辺りに響き渡った…(終)


 

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