新しい絆、新しい傷

北きつね

第1話


 僕の左手首には、古い傷がある。

 手首に横一文字に切られた傷だ。リストカットをしたかのように見える。


 高校受験のときに、担任から傷の事で注意を受けた。

「平田。その傷は隠しておけよ」

「なんでですか?」

「俺は、お前が自殺なんてしていないのは知っているが、始めて会う人には伝わらないだろう?不快に思う人が居るかもしれないからだ」

「そんな高校には行きたくありません」

「お前な」

「だってこの傷は、ママが僕を守ってくれた証拠です」


 最後までしっかり言えたと思う。思うけど、涙が出てきてしまう。


「わかった。わかった。内申にそう記載しておく」

「ありがとうございます」


「平田。それから、面接では、”私”と答えるように、僕はダメだからな」

「はい!」


 僕には、両親が居ない。ママは、僕が子供のときに、僕をかばって死んでしまったと、祖父母に教えられた。パパも、そのときに死んだと教えられた。

 僕は、祖父母に育てられた。優しくも厳しかった祖父母はもう居ない。祖父は、僕の中学校の入学を見届けるように病気で死んでしまった。祖母は、中学二年のときに乗ったタクシーの事故に巻き込まれて病院から帰ってこなかった。

 パパの事はよくわからない。祖父母に聞いても教えてくれなかった。つらそうな表情を見せられるので、それ以上聞くことが出来なかった。


 祖父母は、生前に死んだらこの人を頼りなさいと言い残してくれている。

 毎年”ママ”宛てに年賀状を送ってくれている人だ。旧姓松原美和。今は森下美和となっている。僕と同い年の女の子が居る女性だ。弁護士をやっている。ママの同級生だと教えられた。


 祖母の葬儀を終えて、その事を思い出して連絡をした。

 隣町に住んでいて、すぐに駆けつけてくれた。そして、遺産相続や学校の事、これから発生するであろう事を教えてくれた。


 美和さんの予想通り、パパの親戚を名乗る人や、ママやパパの友達を名乗って貸した物を返して欲しいと言ってきた。来るのがわかっていれば対処もできる。知らないと突っぱねる。それでも帰らない人は、名前と連絡先を聞いて、美和さんが話をしてくれる事になった。


 そして、僕はパパの名字ではなく、ママの名字の”朝日”を名乗って高校受験する事になった。


 志望校に合格ができた。ママと祖父母に報告をした。


 学校近くのマンションで一人暮らしになっている。

 高校でも友達は出来なかった。両親も祖父母に居ない事から腫れ物に触るように接してくる。


 僕は左手首に付いた、ママから貰った古い傷を触っている。

 この傷を触っていると、ママが側に居てくれるような感じがして落ち着くのだ。


 僕が入った学校は、部活に入らなければならなかった。バイトも禁止されている。

 でも、僕はバイトしなければ生活が出来ない。部活をやっているとその時間が取れないのだ。美和さんが自分の所で事務の手伝いをしないかと誘ってくれたが断った。美和さんには十分良くしてもらっている。

 今の部屋も美和さんが借りてくれた部屋だ。祖父母の遺産とママが残してくれた預貯金で、僕が高校と大学卒業するくらいまでは家賃は生活できるらしい。美和さんから説明されたのだが、僕はお金にはなるべく手を付けたくなかった。

 お金は預かってもらう事にした。祖父母の家は広いけど、学校から遠かったので、市内に部屋を借りてそこから学校に通っている。家賃は払えそうになかったので、美和さんにお願いして遺産から払ってもらう事にした。


 家賃はしょうがないとしても、生活費はバイトで稼ぎたかった。


 理由を申請すれば部活の免除とバイトの許可をくれる事がわかった。僕は学校に申請を出して、許可を貰った。

 友達と遊びに行く時間は殆ど無い。部活にも入っていない。

 友達を作るチャンスは殆ど無い事になる。僕は、別にそれでいいと思っている。ママがくれた傷を馬鹿にするような人たちとは仲良く慣れるはずがないからだ。


 高校2年の夏休みに僕にちょっとした事件が起きた。

 バイト先がTVで紹介されたのだ。それは問題はなかったのだが、大将が出す料理が美味しいと評判になって、取材を受けたのだ。大将の所は、奥さんの2人しか居ない。お子さんも居たと常連さんが言っていたが、詳しい話は教えてくれない。どうやら、なにかに巻き込まれて殺されてしまったということらしい。

 奥さんは僕にすごく良くしてくれる。手首の傷も何も言わないで受け入れてくれた。

 優しく撫でてくれるのがすごく暖かくて、すごく嬉しかった。ママに撫でられたらこんな気持ちだったのだろうとさえも思えた。


 新しいママとパパとさえ思えた。


 そのバイト先の大将の店がTVで紹介された。

 僕が住んでいる場所は夕方の情報番組で美味しい店や話題の店を紹介しているので、TVに出る事は珍しくない。

 僕が”事件”と表現したのは、奥さんが僕を真ん中に入れて挨拶をしたいといい出したのだ。


 撮影前に、学校には許可を求めた。学校名をどうしたらいいのか確認するためだ。担任が学校側に掛け合ってくれて許可がもらえた。


 放送時に、学校名はふせられた、学校はどちらでも大丈夫という事だった。TVの演出なのかわからないけど、制服で真ん中に入ってほしいと言われた。奥さんもそうしてほしいと言ったので素直に従った。


 放送後に問題が発生した。

 僕の事情を知らない。他の科の先生が、バイトは禁止されているはずで、両親の店と言っても、バイトは許されないといい出したようだ。僕の担任は僕の事情を説明してくれたが、振り上げた拳は簡単におさめる事が出来なかったようだ。

 僕は、関係がない科の職員室に呼び出されて説明しなければならなくなった。


 ヒステリックに怒鳴る女性教諭の前で2時間怒られ続けた。

 僕がなに言おうとしても聞いてはもらえない。僕が全面的に悪いということだ。馬鹿らしく思えてきた。態度に出たのだろう。女性教諭は、手をあげそうになった。そこに、丁度居た体育の教諭がそれを制してくれていなかったら殴られていたかもしれない。


 その事を、担任に相談した。


「先生。僕、バイト辞めたほうがいいですか?」

「朝日は、辞めたら困るだろう?」

「うん。生活ができなくなるから、学校やめるかもしれない」

「それはダメだ。せっかく入ったのだし、学校も許可をしている。気にするな。俺から、あの人には言っておく」

「ウンノ先生。お願いします」


 どうやら、あの科の女性教諭は今までも同様の問題を起こしている。

 ただ粘着質だから気をつけろと言われたが、僕に何ができるわけではない。


 TVの影響なのか、僕に話しかけてくれる級友が増えた。

 友達とは言わないとは思うが、僕の新しい人脈ができた。美和さんと大将と奥さんの数名の常連さんと大家さんと不動産屋さんとよく使う店の連絡先しか入っていなかった連絡帳に、新しい連絡先が登録されてた。

 部屋に帰ってからそれを見るのが日課になっていた。連絡をするわけではないが、並んでいる連絡先が何故か嬉しかった。

 僕の連絡先が相手にも登録されているのかと思うだけで嬉しく思えた。


 高校3年生になった。

 僕は進路を決めかねている。担任の話では、大学への推薦が取れるという事だ。


 僕が相談できる大人は、美和さんと大将と奥さんと担任だけだ。

 でも、やはり他人なのだ。皆が僕の意思を先に確認してくれる。当然の事だが、なんだか寂しい感じがする。美和さんが、娘さんを紹介してくれた。幼馴染だと言っている男子も一緒に紹介された。


 学校以外では初めての同世代の知り合いだ。


「ユウキさんは進路はどうするのですか?」

「真帆。だから、僕の事は、ユウキって呼び捨てにしてよ。友達でしょ?タクミの事も呼び捨てでいいからね」

「ユウキ。朝日さんが困っているだろう。お前は、いつもそうなのだから距離感って物が有るだろう?」

「タクミは黙っていて!」


 2人が口喧嘩を始めるが、お互いに信頼しているのだろう。

 陰険な感じがしない。本当に相手のことを思っているのだろうとさえ思えてくる。温かい空気の中に入りたいとさえ思った。


「僕は、就職かな?真帆は?」

「私は、まだ悩んでいる・・・のです。篠崎さんは大学ですか?」

「ん?俺?俺は、大学には行かないよ」

「そうなのですか?」

「あぁ大学に行くよりも面白い事がありそうだから、オヤジの手伝いをする事になっている」

「あのね。真帆。タクミ、ママの所を手伝ったり、克己さんの下請けのようなことをするみたいなんだよね」

「おい。ユウキ!」

「え?どこかにお勤めになるのでは無いのですか?」

「あぁ会社はもう作ってあるし、暫くやって、ダメならそこから大学に入ろうかと思っている」

「え?会社ってそんな・・・?」

「そうだな。俺とあと一人くらいなら食べていけるくらいは稼げると思うからな」

「え!」


 ユウキが下を向いて顔を赤くする。

 そういう事なのだろう。


 実は、2人の関係は美和さんから聞いている。

 一軒家を篠崎さんのお父さんたちから渡されて、そこで2人で生活する事になっているようなのだ。


 羨ましくもあるが、僕が求めている物とは違う。

 彼らの側は心地よさそうだけど、何かが違う。


 大将に相談した。

「大将」

「なんだ?」

「ちょっと相談したい事が」

「進路の事なら俺は何も言わないぞ?」

「あっわかっています」


 厨房にいた奥さんから声がかかる


「真帆。このままうちの子になる?部屋も空いているから、歓迎するわよ?」

「え?」

「おい。真帆が困るだろう。冗談はほどほどにしろよ」

「あら、私は冗談じゃ無いわよ。貴方もそうでしょ。真帆なら歓迎だって言っていたでしょ?」

「おい!今、そんなことをいうな!」


 大将と奥さんの話が信じられなかった。

 僕を?子どもに?え?


「真帆!」


 大将が僕の肩を掴んだ。


「・・・」

「真帆。俺達夫婦は子どもは居ない」

「はい」

「真帆が、どこまで聞いているのか俺達は知らない」

「・・・」


 何を大将は・・・。

 


「大将?」


 奥さんも厨房から出てきた。

 僕の肩に置かれていた大将の手を優しく掴んでから、僕の肩から離した。僕を近くの椅子に座らせてくれた。

 それから、お茶を持ってきて、大将の僕の前に置いた。奥さんは、大将の隣に座った。


「朝日真帆。ううん。平田真帆さん」


 奥さんが、僕の旧姓?を呼んだ。久しぶりに聞いた。パパの名字だ。


 どのくらい時間が経ったのだろう。

 何もしゃべらない大将と奥さん。僕は、そんな2人の前で冷めていくお茶を見ている。湯気が減っていく。冬の日差しが差し込んできて、明るかった手元が少しだけ影になったときに、店のドアが開いた。


 美和さんと大家さんが店に入ってきた?


 美和さんはなんとなく解る。でも、大家さん?確かに、僕のことを気にかけてくれている。部屋も相当に格安で貸してくれているはずだ。必要ないのに、駐車場もキープしてくれている。


「望月さん。ご連絡いただきましてありがとうございます」

「いえ、先生。急にお呼びだてして申し訳ありません」

「構いません」

「海野先生も申し訳ありません」

「かまいません。それに、私にも関係している事です。私からお願いしたいくらいです」


 大将と奥さんが望月なのは知っていた。

 海野?マンション名が”シーフィールド”だから、大家さんは海野なのだろう?でも、大家さんが先生?


 僕は、頭の中でいくつもの”?”が飛び交うという漫画のような経験をしている。


「望月さん。海野さん。真帆さんが混乱してしまいます。ご説明はまだしていないのですね?」


 大将と奥さんが、罰が悪そうな顔でうなずいている。

 すっかり冷めきってしまっているお茶をすすっている。奥さんが新しいお茶を淹れてくれる。


 僕の前。大家さんの前。美和さんの前。大将と自分の前。そして、あと3つの湯呑を持ってきている。僕の両脇においた。

 そして、大家さんの横に一つ置く。僕の両隣は、両親の分なのだろう。両親にも関係がある話なのだろう。


 店のドアがまた開けられた。

 え?なんで?


 入ってきたのは、担任の”ウンノ海野先生”だ。

「おふくろ!どういう事だ。真帆に話すって!俺に任された事じゃないのか?!」

「馬鹿だね。お前がさっさとしないから、望月さんたちが動き出したのがわからないのかい。いいから、座りな!真帆さんごめんね。家のバカ息子が担任なんて災難だったね」

「おふくろ!あんたが校長を動かしたのだろう!?今更何を言っている!」

「そりゃぁそうだよ。事情も知らないクズがいる学校に、大事な大事な真帆さんを一人にしておくわけには行かないからな。あんたも納得していただろう」

「当たり前だ!俺達は、真帆に返しきれない恩がある!」


 え?


「海野先生。真帆ちゃんが混乱するだけだから順序立てて説明しましょう」


 美和さんが僕の方を見て笑いかけてくれる。

 そして、美和さんがバッグから少し古い新聞の切り抜きを取り出して、僕に見せてきた。


 え?

 なに・・・これ?うそ?


 うそ・・・だよ・・・ね?


 ママ・・・パパ・・・?


 16年前の日付の新聞だ。

 アクセルとブレーキを踏み間違えた車が、ショッピングセンターに突っ込んだ。よく聞く話だ。

 この後が違っていた。運転していたのは、高齢の夫婦だった。夫婦は胸を激しく打って死亡したと書かれていた。その後が問題だ、後部座席に座っていた、男性が車から降りて暴れたのだ。持っていたのか、ショッピングセンターにあったものなのかは書かれていないが、包丁を持って、店の中に居た客や店員を切りつけたのだ。

 運転していた夫婦を除く死亡者6名。傷者2名。

 犯人は、その場で殺された。現行犯逮捕されたのは、犯人に奥さんを殺されて、娘の手首を包丁で切られた男性だった。男性は、犯人から包丁を取り上げて、犯人を刺したのだ。


 怪我をしたのが、僕と担任の先生だ。僕は産まれてまだ2歳にもなっていない。先生もまだ未成年だった事もあり名前は書かれていない。

 死亡した人の中に、望月一歩。海野和幸。海野花菜。の、名前がある。大将の娘さんと、先生の父親と妹だと教えられた。


「美・・・和・・・さん?」

「そう、貴女のお父様は、このときには死ななかった」

「え?」

「貴女のお母さん。朝日さんは、死ぬ時・・・ううん。死んでからも、貴女の手首を掴んで離さなかった。私が事件を聞いて駆けつけた時に、沙菜さんから聞いた話では朝日さんが貴女の手首を抑えて止血していなければ・・・」

「そう・・・なのですね。僕は、本当の意味でお母さんに救われたのですね」


 先生が僕の方を向いて


「真帆違う。真帆だけじゃなくて、俺も、そしてそれより多くの人が、真帆の両親に救われた。俺は、あの場にいた。あいつが俺を見て笑ったのを今でも覚えている。あいつが俺に包丁を向けたときに、助けてくれた真帆のお父様は俺のヒーローだ!」


 大家さんが先生の頭を殴る。

 落ち着かせて、座らせる。


「この子の話は別にして・・・。真帆さん貴女のお父さんはこの子を息子を救ってくれた。そして、犯人ともみ合って殺してしまった・・・ごめんなさい。謝って済む事ではないのはわかっている。わかっているけど、私には貴女に謝るしかできない」


「大家さん・・・ちがう。ぼく・・・ばかだけど、わかる。大家さんも先生も大将も奥さんもわるく・・・ない。わるいのは・・・この犯人。僕。美和さん。パパは?捕まって刑務所?殺人犯?」


「いいえ、逮捕はされたけど、正当防衛が認められた」

「それじゃ!!」

「・・・」

「美和さん?」


 皆が一斉につらそうな顔をする。

 祖父母にパパのことを聞いた時と同じだ。


「美和さん!」

「森下先生。俺から話をしていいか?」


 今まで黙っていた大将がにが虫を数百匹噛み潰したような顔をしている。

 その顔で、パパにはもう会えない事がわかった。


「真帆。お前の父親は、無罪になった」

「うん」

「でもな、マスコミを名乗る無責任なゴミどもが面白おかしく騒いだ。正当防衛だと言っているのに、俺はその場に居られなかった。娘が殺された立場だ。それでも、真帆の父親がお前と多くの者を守ったのは解る。それを理解しようとしないコメンテータとかいう奴らが無責任に言い立てる。真帆、父親が何をしていた人か聞いた事はあるか?」


 首を横にふる。


「そうか、真帆。お前の父親は、元自衛官だ。任務中の怪我で退官して、タクシーの運転手をしていた」


 そうか・・・マスコミが好きそうなネタだ。

 自衛官が家族を僕を守るために、民間人を殺した。そう報道したのだろう。


「それで?」

「想像できるだろう」

「うん。でも、それなら、パパは生きているの?」


 大将は首を横にふる。

 パパは、無実になった後もマスコミからの取材という狂気にさらされながら生活をしていた。僕を祖父母にあずけて、娘も死んだことにしていた。足の悪かった、祖母を病院まで送り迎えしてくれたいつも決まったタクシーが居た。あれが・・・パパだった。

 僕は、パパに守られていた。そうか、祖母の事故はパパのタクシーに乗っていた時・・・で、パパも一緒に・・・。


「パパが祖母を殺したの?」

「違う!違う!真帆。それは違う!」


 先生が怒鳴るように訂正した。

 まくしたてるように説明してくれた。パパのタクシーは後ろから酔っぱらいの車に追突されて、そのままタンクローリーを巻き込んだ事故になってしまった。パパは、後ろに乗る祖母を車の外に出すだけで精一杯だったようだ。

 パパはその場で火にまかれて死んでしまった。祖母は、事故のショックから悪かった心臓が悪化して、手術中に死亡した。


 そして・・・その車を運転していたのが、ヒステリックに怒鳴り散らす先生の弟だった。

 あの先生も、その事故の前ではまともな先生だったらしいが、事故の後でマスコミに追いかけられて性格が変わってしまったという事だ。先生は、つらそうな顔をしながら、”あの人は不幸だが、そこで止まってしまった”

 そうなのだろう。マスコミの狂気にさらされて、狂気が正しいと思ってしまったのだろう。


 皆が僕に一歩引いた距離感で、僕にすごく良くしてくれた理由がわかった。

 僕は、ママに命を救われて、パパの行動で僕は救われた。


 古い傷は、ママとの繋がり。新しい絆は、パパが僕に残してくれた物なのだ。それから、僕は何を話したのかわからない。泣きはらしたのは覚えている。大将も奥さんも大家さんも先生も美和さんもみんな僕の話しを聞いてくれた。


 進路が決まったわけじゃない。でも、新しい道を見つける事はできそうだ。


 店を出て少し頭を冷やしてこよう。それから、相談しよう。


 え?なんで・・・?

 僕?


 お腹が熱い。


「キャハハハ!!!弟の仇を討った!!!!これで、弟の無実も、私の正しさも証明された!!!!!」


 ママ・・・パパ・・・

 不思議と痛くないよ・・・僕・・・僕・・・頑張るよ。


---


 病院のベッドの上で、僕はお腹にできた新しい傷を撫でながら、将来のことを考えている。

 美和さんの様になりたい。大将や奥さんのようにもなりたい。先生のようにもなりたい。


 新しい傷は、僕の過去の秘密と現在を切り離してくれた。

 僕は、パパとママの子どもだ。古い傷と新しい傷を合わせて、僕なのだ。僕は、僕だ。僕以外にはなれない。

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