「彼女が辞めるんだ…」 

低迷アクション

「彼女が辞めるんだ…」

「彼女が辞めるんだ…」


「ウン、なんか、そんだけのフレーズ聞くと、好きな女の子がバイト辞めちゃうー

みたいに聞こえるから一応言っておくけど、俺等、元“悪の組織の怪人”でさ。


俺、ザリガニ頭でニーソックス穿かされてる、冗談みたいな混合怪人“ザリガニーソ”!

で、隣で“困ったニャー”してるのが、同じく混合怪人の“アップルタイガー”、

何を混ぜたかは言わなくてもわかるよね?


そして、隠れ家、場末の居酒屋地下室で、組織壊滅後の余生を相談中に、目の前でイカレタ悩み事ほざくのは怪人“ナントパス”

ナンの粘り気とタコの触手を合わせた触手怪人野郎ね!


最後にナンの野郎が“彼女”と言ってるのは、俺達の敵である正義の変身ヒロイン

“ハートオブ・マキシマム”のメンバー、“カレン”の事な!」


明後日の方向を向いて喋るザリガニーソに首を傾げるタイガーとナン。だが、そんな事を

気にするニーソではない。相談される前から、答えは決まってる。彼女が辞めるのは…


「そりゃ、平和になった事もあるだろうけど、明らか、原因がお前だからじゃね?」


「何でっ!?」と驚愕するナンタコ野郎を自慢のハサミで制し、「そりゃ、そうだ。」と

頷くタイガーと顔を見合わせる。


大体の説明で察してくれているだろうが、ナントパスの立ち位置は、

特撮、変身ヒロイン番組で(自身の住む世界の根底を揺るがしそうなメタ的発言失礼!)


言う所の“サービス回”の怪人だ。よくある番組Bパートの戦闘シーン、

もしくは“海行こう”とかのヒロイン達の服装、水着バージョンに登場し、


コイツ等の繰り出す触手がやわやわボディーのヒロインの体の色んな所を縦横無尽に

這いまわり、泣き叫ぶ彼女達を、きわどいアングルで演出する存在。


最早、それ専門の18禁ジャンルや深夜帯の番組では“お約束”だが、健全な子供達が対象の夕方、もしくは日曜朝の時間帯では、超貴重な展開で、放送されると、その日の

“それ系サイト”やSNSが大いに盛り上がる始末。


無論、ナントパスは後者の方で、こーゆう分野に耐性のない純真無垢な彼女達の

肢体を朝っぱらから、容赦なく弄び、番組を見た子供達の“色々な目覚め”に貢献している訳だ。


そんな“非道回”をいくつも経験してきた彼女が正義のヒロインを引退?

むしろ当たり前だろ?の気がする。自身達の所属していた組織が壊滅してから早、数カ月…


この国(日本)は巨大な悪がいなくなり、静かなモンだ。


生き残ったニーソ達の活動もとりあえずの休止状態。

役目を終えた正義の存在達は秋の番組改(ゴホッ、ゴホッ、失礼、地下室の埃が

ジャマをする)ではなく、学業やそれぞれの人生を歩み始めていた。


それを邪魔する気はない。目の前のナンにはそれをわからせなければいけない。



「ナン、要はあれだ。お前の小麦と軟体系のネバネバに嬲られた彼女達にも

幸せな…、新しい人生を歩ませてやったらどうだ?サヨナラって事だよ!

お前の気持ちはわからん訳でも…いや、全くわからねぇけどさ!」


ニーソの若干引き気味の冷めた答えにナンが慌てて弁明を返してくる。


「ねぇ、ちょっと待って?何で俺が“女の子襲って楽しんでましたー”みたいな流れに

なってんの?違うからね?怪人志願して、改造手術受けて、気が付いたら、こんな武装で、


出来る事それだけしかなかったから、仕方なくね?だからね!

別に、カレンたん達のぷにっとしてて、モチモチかつ、桃みたいな、いい香りのする女の子達の萌え萌えボデーを楽しんで訳じゃないからね?


・・・・ハッ、しまった・・・・いや、違うからね。これはあくまでも最近の流行に合わせた感情表記、表現だからね?俺の本心じゃぁ…」


「この際だから言うけどさぁ!!正直、朝からこんな話聞かされて、イラついてる事もあるけどさ!


俺も、隣のタイガーも、お前等サービス回の怪人、マジで嫌ってるからな?


お前等の存在なんて、ガチの戦闘用じゃなくて、一部の、いや、今は大きくなりつつある

需要のためだからな?子供向け番組見てる大きいお兄さん達の欲望を満たすためだからな?


正直、最終回手前の総力戦用の再生怪人に(出番を終えた怪人が若干のリファインを施されて、再登場する事)


お前が選ばれた理由も納得してないからね?“ハサミコオロギ”とか、戦力的に大事なの

もっといっぱい、いたし、是非とも蘇ってほしいと思っていたからね?


お前なんて、ちょっとエレガントフォームになったカレンを

触手で“キャーッ、らめぇぇぇ”の出番だけじゃん。ホント使えねぇよ。なあぁっ、

タイガー?」


「ニャーッ!!」


「えっ、ちょっと待って?何?何なの?色々、味方の本音が聞こえてショックな

今日この頃は…ウン、いや、今は置いといてさ。話聞いてよ。あれだよ、これは今後の

俺達の存続にも関係する事だよ?」


「何っ?それを早く言えよ。なぁっ!タイガー?」


「ニャーッ!」


「ウ、ウン?ウウン…」


姿勢を正し、こちらの話を待つニーソとタイガーに、ナンはそっと目から零れた涙を拭った…



「頼むよ。ホントにさ…まぁ、そんでね。カレンちゃんがね。仲間内にいきなり辞めるって話してるのを盗ちょう…いや、耳にしてね。色々気になって、調べた訳よ。

そしたらさ、ビックリだね。彼女、小学生の妹がいてさ!…


おい~っ、タイガー!ヒゲ震わして痙攣しないで。

ホント、してないからね!何もしてない!!そーゆう話じゃないの!今は!!


どうも、妹さん病気らしくてね!あれだって!目が見えなくなるらしいの!

そんでね。病気も、あまり治らないタイプの不治の病的なあれだよ。


だから、カレンはその治療方法を探しててね。“やっちゃいけいないモン”に手を出したの!

ねぇっ、聞いてる?ニーソ?」


「お前もだいぶ、やっちゃいけない感じだけど…そして、ゴメン!もう警察行こう!

今、ハサミに挟んだ俺の携帯、後ワンプッシュで警察に連絡できるから!


因みにタイガーも肉球に隠した鋭き爪を、お前に向ける5秒前だよ!

死ねっ!このロリナンタコ野郎!!気持ち悪いんだよっ!」


「落ち着いてーっ!!もうちょっと本音と殺意を隠してね!悪の怪人が警察に電話とか

人として、いや、怪人としてどうなの?


話はこれからが良いトコロ!!核心部分に行こうとしてるから!!もうちょい、もうちょい待ってねー!!」


慌てたナンが振り回す触手を、汚いモノを触るように払いのけていくニーソとタイガー。

自身の身の危険を確信したナンはすぐさま本題に移行する事に決め、自身の携帯を


二匹の前に翳した。


「これ知ってる?願い事を叶えるアプリ。“おねアプ!”なんか、四文字系の萌えアニメ

とかエロゲーのタイトルみたいだけどさ!うん…いや、ストップ!!ゴメン、今の比喩は


あれだった!なかったよ!!誤解を招くね。いや、違うからね!やってないからね!!

一応怪人だからね!俺も!!よしわかった、皆の目がひぇっひぇに冷めてく前に


話を終えよう!!彼女はこれを使うつもりらしい。」


「使うって?こんなモンに効能があるのか?そしたら、俺達も願うぜ?世界征服できますようにってさ!」


「だったら、いいんだけど、生憎だね。これが結構なくせ者でさ。今、若い子達の間に浸透

し始めてる。危険ドラッグと同じだよ。使い方は単純、願い事を入力した後、親しい友人、家族の名前を入力するんだ。そうすると願いの大きさだけ、その入力された相手の運を


抜き取り、望みを叶えてくれる代物らしい。入力された人は、その分の運が無くなるから、財布を落としたり、転んだりの不運に見舞われる。それだけなら、まだいいよね。中には

今のニーソみたいに、法外な願いを要求する者だっている。


それに必要な運は何人だと思う?アプリは願いにかかる分だけ、入力が可能だよ?


一つの例を上げよう。“お金が欲しい。それも一生遊んでも、あまりが来るほどの”

誰だって願いそうな事だよね?それを入力した女の子がいた。結果はどうなったと思う?


一家全員、事故死…彼女の友人は皆死に絶えたよ。家族それぞれが入っていた保険、

それと遺族年金、最後は以前に買っていた宝くじの一等賞。一生遊ぶだけの金を使って、


彼女は今、病院に入っている。一生治らない心の傷を治療するためにね。無くしてから、

初めて気づく事だってある。それをカレンは使おうとしている。」


「そのアプリが本当なら、開発元は?俺達、怪人と同じような悪の連中か?警察や

正義のヒーロー共はどうした?」


「特定不能…警察もさっきの子の被害で、ようやく操作に乗り出したらしい。勿論、

正義の奴等も探してるけどね。どうせ、見つからないよ。これは異能者とか、

悪の心を持った連中の仕業じゃない。


多分、正体を突き止める事が出来るのは…」


「俺達?元悪の組織って訳?悪いけど、皆目見当つかねぇよ?ジャンルちげぇよっ!

なぁっ、タイガー?」


「ニャーッ!」


「そう、そのジャンル違いね!

いや、そうだけど、こっちもおおよその検討はついてるから!二人には

協力してほしい訳よ。」


「何で?正義の心を持ったカレンが、妹の目ぇ治すために、正義にサヨナラして、

俺等ダークサイド側に堕ちる訳だろ?最高の酒の肴なんだけどっ!?

そんな感じでよくね?」


しごく適当な感じで切り返したニーソの顔面に「バッキャロウ!!」とばかりに

ナンの触手が叩きつけられる。


怒り心頭プラス強烈な反撃を思いっきり返したいが、その耳に

間髪入れない、ナンのマシンガントークが叩き込まれていく。


「いや、良くないでしょ!いいんですか?悪の組織が他者に仕事取られてさぁっ?

悔しいっしょ?いや、絶対悔しいよ!そしてあれだよ!何より!」


「何より?」


珍しく本気な変態怪人の言動に少しだけ、心打たれる二匹の怪人、そのまま次に飛び出してくる戦友の言葉を待つ事に決めた。


「彼女が変身ヒロイン辞めたら、俺は誰を触手嬲りんりん!すればいいんだよ!!」


とりあえず、タイガーが鋭い爪撃を

ナンの顔にぶち込んだ後、間髪いれず、ニーソが警察に電話をした…


 

 「やっぱり、引き受けるんじゃなかったな…」


呟き、ニーソはそっとハサミを鳴らす。頭を楊枝が刺さった“タコ焼き”みたいに

潰されたナンが、駆け付けた警察に連行されながら


息も絶え絶えにカレンの住所と行動パターンをニーソに伝え、恐らく今夜

彼女がアプリを使用するだろうと告げた。話を受けたニーソは、


かなり仕方なしで、タイガーに“指示”を与えた後、自身がカレンを見張る事に決めた。


そうして夜になり、豪華で広い庭先に身を潜め、大きな窓に映る室内を行ったり来たり

思い悩みのカレンを観察する事、数時間…いい加減に疲れてきた頃合いにまで来た。


本来なら、元正義のヒロイン、数多くの仲間を葬った仇敵。

このハサミで一気に始末してもいい。


だが、それが出来ないのは…


ボンヤリと考え込むニーソは、窓枠まで近づいてきたカレンに気づき、慌てて身を隠す。

しばらく外を見つめる彼女は、ガラスに映った自分をキッと見つめた後、スマホを取り出し、

何かの操作を始めた。


(やっぱり、押しちまったか…)


少し“残念”といった感じでニーソはため息をつく。


彼が見たかったのは、カレンが最後まで変身ヒロインとして、

正義の心にサヨナラするか?それとも否か?という事だ。


(結局は人間、家族が大事という事か…)


彼女はアプリを使った。ニーソが少しだけ期待したのは、純真無垢な正義を纏った存在が

どんな状況にあっても、自らが立てた誓いを崩さず、正しい事を貫くという、崇高な精神を見たかったのだ。


少し残念な気持ちを滲ませながら、それを振り切るように踵を返すニーソの耳元に

異音が響く。


振り返れば、カレンがスマホを落としていた。手が滑った訳ではない。原因はスマホから

煙のように沸き出した黒い煙だ。


驚く彼女の前で、それは瞬く間に人の形となり、腰をついた彼女の元へ、にじり寄っていく。


「やはり霊体“魔の勢力共”の仕業か…」


ナンの話で、ニーソも大方気づいていた。自身達“大っぴらな悪の存在”が滅びた今、蔓延するモノがあるとすれば、彼等のような霊体や魔物連中、人の妬みや不安、怖れにとり憑き、

増やしていくねちっこい奴等だ。


しかし、可笑しい。それならば彼女の前に“アレ”は現れない。運を吸い取り、あわよくば

魂までも奪うクソな幽霊なんて…


そこまで考え、唐突に気づく。迷っている暇はない。ハサミを前に突きだし、

窓に突進をかけた。


砕け散ったガラスで怯む霊体と彼女の間に割り込み、床に転がったスマホを

素早く確認する。


「やっぱりな…全くカッコいいぜ!」


呟き、呆気にとられた彼女に背を向け、こちらに迫る“敵”にハサミを向けた。

端末に入力されていたのは、彼女の名前、白石カレン…だから、救うと決めた…



 「困るな…タイガー、こんな所まで押しかけられても…」


元組織の技官である“彼女”は突然の来訪者である、全身からリンゴの香りを発した

剛腕虎怪人を見据え、乱れた白衣を正し、精一杯の“困惑顔”を作ってみせた。


「ニャーッ!」


「“ニャーッ!”じゃないよ、君。わかるでしょ?私はもう政府と取引して、無罪放免、

ウチの技術提供を惜しみなくするという条件で、このラボに缶詰め状態なの!


その様子だと、警備の人達、優しい君だから、殺してないと思うけど、

全員ノシちゃったんでしょ?全くもう~…どうするの?


あの人達が本部に送る定期コールがないと、5分で応援が来るよ?」


「ニャニャイッ!」


「“問題ない!”じゃないよ。大ありだよ!何、その紙切れ…ああ、この汚い

ハサミ文字…ザリガニーソだね?」


そう答えながら、薬品が収められた棚からいくつかのアンプルを出し、最先端の医療装置に

セットし、怪人の望むモノを用意していく。


じゃないと、このタイガーはいつまでも、ここに居続けるだろう。

それだけは勘弁願いたい。


「この、成分表から察するに…タイガー、ニーソにも伝えてよ?


ウチ等の技術は確かに生命を蘇生する事が出来る。再生怪人のようにね。

つまり、それは難病に苦しむ人や傷を治せる。


でも、これを世間に広めたらどうなる?大変な混乱が起きるよ?

壊滅した組織の上層部もそれは良くないと知っていた。だから、アタシだって、


連中に出し惜しみしながら、上手くやってる訳だからさ。その努力をだよ?

1人の女の子の目ぇ治すために使う訳にはいかないよ?


わかってるでしょ?世界のためだよ?元悪の組織が言う台詞じゃぁないけどさ!」


「逆だ、1人の少女に光を与えられない世界など、存在するに値しない。」


諭すような自身の言葉を、渋く重さを含んだ言葉が遮る。


「全く、普段からそうやって喋ればいいのに、カッコつけちゃってさ…」


静かに佇む虎怪人を恨みがましく見つめ、彼女は“秘薬”の生成を始めた…



 「ザリガニーソ!何でここに!私達が倒した筈じゃ…」


「説明はいい。とにかく変身しろ!」


「デバイスは返してるから、それは無理。後、邪魔しないで!妹のために

私の運が、恐らく魂レベルのモノが必要なの!だから…」


「自分の名前を入力した?ハッ、泣かせてくれるぜ?正義の味方!


安心しろ、クソアマ!妹ちゃんの目は大丈夫だ。既に手配済み!そして、

変身できないっ!?参ったな。あれは霊体、俺のハサミじゃ、切り裂けねぇ!」


「助かる…それってどうゆう…」


「説明は後!とりあえず今は!」


「ちょっ、わひゃああああ~」


驚愕に目を見開くカレンを抱え、ニーソは外に飛び出す!


勢いで飛び込み、少女を救出したが、問題は敵の倒し方だ。彼女達、正義のヒロインは、

その存在自体が、魔力や異能の力によって、戦う力を得ている。


しかし、ニーソには出来ない。白兵戦のみに特化した改造ボディは、戦車の砲弾にも耐えれるし、希少金属で覆われた装甲すら切り裂けるが、幽霊は駄目だ。攻撃がすり抜けてしまう。


こうなれば仕方ない。あらゆる手段を講じるとしよう。


「お仲間に連絡して、呼ぶ事は出来るか?あーっ、家の中か!スマホ。だったら、俺の

携帯を……ちなみに友達の番号覚えてる?」


「…!?…」


「オッケェェェ!その“キョトン&豆鉄砲顔”は覚えてないよね。じゃあ、逃げよう!

全力で!!」


「でも…難しそうだよ…」


カレンの見る視線に目を移せば、ニーソ達の後方を例の黒い影が迫ってくる。



「くっそぅ、こんな事なら、呼ぶんじゃなかったぜ、警察。」


と呟く間に、眼前まで迫った、それにハサミを叩き込む。

しかし、攻撃は通じない。虚しく空を切るだけだ。


「もう、充分だよ。ニーソ…」


立ち竦む彼の背後に回らせたカレンが、横をすり抜け、霊体の前に出る。


「馬鹿野郎!何やってんだ?もう、テメェの命を犠牲にする必要はねぇんだぞ!」


「わかってる、だけど…このままだと、そっちの命もヤバいし…それに意外な一面も見れた。悪の怪人も良い事するんだね。見直した。だから、妹と皆の平和任せたよ。」


決意を固めたって言う感じのとってもナイスな笑顔を浮かべ、

自身の人生すらも締めくくりそうな彼女に飛び突き、抱きかかえる。


ビックリ見上げる少女の口をハサミで慌てて塞ぎ、力強い否定を一気に叫ぶ。


「オイーッ!勘違いしたまま死ぬんじゃねぇぞ!コラァッ!何?この流れ?

俺、ツンデレ怪人っ!?冗談じゃねぇぞ?そういう感情一切ナッシングで助けてんの!


こっちはね!!どうせ戦うなら、最強の信念を持った正義の味方って思っただけ

だかんなぁっ!勘違いしてんじゃねぇぞ!!」


「そうだ!勘違いしてんじゃねぇっ!その柔肌は俺のもんだぜ!ニーソッ!」


軽快な否定声が辺りに響くと同時に、不気味に滑った触手が黒い影を絡めとって締め上げ、

消滅させていく。霊体の姿は、霧が晴れたように消え、後には…


怪人達の中で唯一、魔力や能力を身に着けたコスチュームに巻き付き、ヌメヌメと弄べる

能力、魔に触れられる存在、ナントパスが、ドヤ顔でニーソ達の目の前に立っていた…



 「そこにいるのは誰?いつものヌメヌメしたお兄さん?」 


目が見えなくってから、だいぶ経つ。おかげで見えなくても、気配を感じる事が出来る。

その人が悪い人か、良い人なのかもだ。この頃、夜になると、病室にくるお兄さんは


ヌメヌメしているけど、とても優しい気配だ。自分に対し、面白い話をしてくれたり、

姉と同じように


「大丈夫!すぐに良くなるからね!」


と頼もしい言葉をかけてくれた。今日の人は違う雰囲気だけど、良い匂いがする。これは…


「リンゴ?」


お見舞いに果物を持ってきてくれたのか?そう思う間もなく、猫のような柔らかい、ぬいぐるみの感触の何かが額に載せられ、その部分が暖かくなってくる。


「安心して。これから君の世界は、もっと明るくなるよ。」


優しそうな大人の声が響き、リンゴの匂いをする気配が消えた後、

少女の視界が自身の病室をしっかりと認識し、彼女が驚きの声を上げ、


駆け付けた姉と喜びを分かち合うのは、この数分後の事である…



 「警察をどうやって蒔いた?ナン?」


「楽勝!全員触手漬けだよ!」


「そうか…とりあえず助かったぜ。」


「オーライッ、ところでカレンは?」


「妹の事を話してやった。今頃、目が治った妹と会ってる頃だろう。」


「彼女、戻るかな?」


「変身ヒロインにか?大丈夫!ありゃぁ、筋金入りだ。」


二匹の会話が終わる前に、病院のあるだろう方角から光が瞬き、何かが

凄い速さで、こちらに向かってくる。


「早くない?」


飽きれた感じのナンの台詞に、ニヤリと笑ったニーソが言葉を返す。


「言った通りだろ?筋金入りってさ。」


そう喋る頭上で巨大な閃光が瞬き、全身を華麗なコスチュームに身を包んだカレンが

勢いよく降り立つ。


拍手するように両手を、ハサミと触手を上げるニーソとナンに凛とした声が響く。


「ハートオブ・マキシマム!カレン!推参!」


「上等!嬢ちゃん!ナン!派手に逝くぞ!」


「了解!!また、ヌルヌルにしてやるぜ!」


走り出す二匹は、前方で構えの姿勢を取る正義のヒロインに向けて、自身の獲物を

繰り出し、一気に突撃した…(終)










 

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