臨死対戦(りんしたいせん)

低迷アクション

臨死対戦


 “はい、いらっしゃい!”って言いたいけどさ。悪いね、もう閉店だよ。


えっ、飲みに来たんじゃない?だったら、何でこんな場末の店に… 

あん?アイツが何で死んだか、理由をしりたいって?そんなもん俺に聞いてどうするの?


本人に聞けよ!ちゃんとピンピンしてる奴さんにさ。えっ?何?答えてくんないから、

こっちに来たって。オタク?記者さん?何処から、この話を?


あ~、ネットで有名だもんな。なんだっけ?「S沢廃村の心霊スポット…謎の焼失?」

だっけ?大仰な事書いちゃってさ。全く…


しかし、そこからアイツとこの店までたどり着いたアンタは凄いな。うん、実際。


そうだなぁっ、じゃあ、俺のわかる範囲で話してやるよ。その代わり、あれだぞ?

取材料は先に貰うよ?


多分、信じられない話だからさ。後で


「嘘っぱちだ!」


なんて、困る訳よ。まぁ、マジな話。俺も“アレ”を見るまでは、眉唾もんだったからな。

ホントに…おっ、悪いね!こんなにもらっちゃって。気前がいいな!

じゃぁ、コイツはウチからのサービスだ。


そうそう!一杯やってくんな。そうでもしないと、とても聞いてられない話だからね。

うん…まずは、何から話すべきかな…


俺も少し飲ましてもらうよ。こっちの方がよく話せると思うからさ。


とりあえず、最初の質問の答えは簡単。


「奴は何で死んだか?」


それは、


「お化けと対決するためだよ。」


なっ?笑っちゃうだろ?…



 アンタが取材拒否されたのは“勝也(かつや)”の事だろ?そうそう、あの、

顎がとんがって、ぶすっとした、しかめっ面のアイツ。

昭和男児の生き残りみたいな堅物君だよ。


アイツはウチの常連でね。ここは、見ての通り、6人座りのカウンターと、

詰めて3人のテーブル二つって小さいとこだからさ。


常連さんでもいなきゃ、とてもやってけねぇ、店なんよ。その常連達の中で、

勝也は面倒見のいい兄貴分な立ち回りでさ。元々、無口な野郎なんだけど、


相談事や1人のちょっと寂しい夜に付き合ってやるような気さくな奴でね。

ウチとしても助かっていた。最も、それが災いしたのかもしんねぇが…



それは、ある夜の事だった…


「どうです、勝也さん?一緒に行ってくれませんか?」


いつものように、お決まりのカウンター席、奥に陣取っていた勝也に、酒は飲めねぇが、

ただ飯にありつこうとする学生の“ジュン”が、店に来ていた若い奴等引き連れて、

“心霊スポットに行こう”と言い出したのさ。


場所は“S沢廃村”県境にある、山ん中の小さな村だよ。

その辺の事情込みのアンタに話す必要はねぇと思うが、一応言っておくと、


何が出るか知らねぇが、行方不明者に、そこから帰ってきて、頭おかしくなった奴が

大勢いるなんて噂の“超ヤバスポット”さ。


「妙な話が絶えない場所だ…止めといた方がいい。」


始め、勝也はそう言って断っていた。俺もコップ磨きながら、頷いたよ。若ぇウチは

何でも冒険に好奇心、大いに結構!だけど、最初から“ヤバい!”とわかる場所に

首突っ込むのは、馬鹿のやる事だからな。


「ええ~っ!?意外だな。勝也さんにもコワいモンが、あるんですね。

大丈夫っすよ。運転は素面の俺がやりますし、何より大勢で行くんです。

お化けもビックリして、出てきやしませんよ。」


だけど、あの夜は珍しく、ジュンが引き下がらなかった。

いつもヘコヘコしてるアイツにしては意外な反応だ。先輩みたいに慕ってる勝也を挑発するような素振りだって見せやがる始末でさ。見てるこっちも困ったよ。


まぁ、それもアイツの後ろでスタンバってた数人の若い奴等の中に、

飛びきり可愛い、新顔の娘がいてな。


ジュンがチラチラその子を見てる様子で察しはついたよ。


勝也もそれがわかったみたいだった。そして、危なっかしい奴等だけで行くのを

俺よりも心配した。本当に面倒見がいいからよ。アイツは。

だからさ…


「わかった。」


と短く告げて、その向こう見ずな一行と行動する事を決めた。しっかり者の勝也は

店を出る時に、わざわざこっちを見て“何かあったら頼む”って感じで、俺に頷いていたよ。


まぁ…本当に、何も起こらなければ良かったんだけどな…



店を閉める頃になって、勝也達が戻ってきた。皆、それぞれ別の方向に向けて、

訳のわからない事を叫び散らしてな。


「マジでヤベェ、あそこはヤベェよ」


「アレは追っかけてきてねぇか?ホントに振り切ったか?」


「ねぇっ“だいちゃん”は?“だいちゃん”は何処に行ったのぉ~?」


「“たけし”も“みつだ”もいねぇ。洒落になんねぇぞ?コイツはよ!?」


「畜生、行くんじゃなかった。あんなトコ、オイッ、誰だ?幽霊見に行くなんて

ふざけた事、言い出したのはよぉっ?」


後ろを何度も振り返るモノ。テーブルに置いてあった水入りのポットをそのまま

がぶ飲みする奴。てんで、バラバラの大混乱。共通しているのは、全員が一様に怯えているって事だ。


その恐怖はこっちにまで伝染しそうでね。だから、皆の後、一番最後に入ってきた勝也の

姿を見た時はほっとしたよ。


しかし、その勝也ですら目を飛び出さんばかりに開いて、硬直している。普段の奴らしくもない。


お決まりの席にどうにか座ったアイツに水割りを置いてやったが、全然、駄目だ。


手元が震えて、口元に酒を持っていけないんだ。あん時は本当に驚いたよ。


そんな感じの奴等から、どうにか話を聞けたのは、1時間くらい経ってからだった。

それでも震えや怯えは収まっていなかったけどな。


言い出しっぺのジュンが言うにはな。


勝也も含めた8人のメンバーは2台の車に分乗して目的地に向かったそうだ。

出発した時点で、もう夜だからな。闇深い山中を車のライトで照らしながら、


慎重に進み、目的地の廃村に到着した。村の入口付近に車を止めたメンバーは

4人の二グループに分かれ、村の中を手持ちの懐中電灯で照らしながら、進んだ。


ジュンは勝也と別のグループに分かれて、少し不安になったが、目当ての子が、

同じグループだったし、ジュン以外は皆、酒に酔い、陽気な感じで大声を張り上げる奴や、

走り出す者もいて、恐怖心は感じなかったそうだ。


村の中はだいぶ荒廃が進んでいて、ガラスや窓は取っ払った吹き曝し。

室内は雨と風で、ドロドロのグチャグチャ…入るなんてとても出来そうにない。


そんな陰気な様子に飽きてきたジュン達は、暗い村の中で別行動をする勝也達に向けて

大声を張り上げるという遊びを思いつく。


「おお~い、今、そっちはどの辺だあ~?」


暗闇に向けて、ありったけの大声を出す。自分の声は村の中に大きく反響する。

すると、一呼吸おいて、何処か遠くの方から。


「わからああ~~ん、だけど、何もねぇ~」


「こっちもだあ~~」


「つまんなあ~い」


「店にもどるかあ~?」


「そうしよう~」


「今からそっち行くぅ~」


暗闇の廃村に響く、間延びしたやりとりにジュンとお目当ての彼女、残りの2人も

クスクス笑う。そうやって奥にいったであろう勝也達を待った。


数分の時間が経つ。さほど広くない村だ。そろそろ顔や影が見えてもよさそうなものだが、

ジュン達の見ている風景にこれと言った変化は見られない。


可笑しいぞ?時間が、かかり過ぎている。そうジュンが話そうとした時だった。


「おお~い、今、そっちはどの辺だぁ~?」


ジュン達の後ろ、つまり入口の方から声が響いてきた。全員が肩をビクッと動かし、後ろを振り向く。確かに道順や合流場所なんて、決めずに自分達は動いている。


ジュン達が待っている道ではなく、勝也達のグループが別の道を歩き、自分達を追い越し、

声をかけている事も充分に考えられた。しかし、それでも早すぎる。


数分でこちらを追い越すなんて出来るのか?


全員が同じ事を考えてるのか?誰も答えようとしない。暗い闇の中で佇む自分達が持つ

懐中電灯の明かりだけが、ボンヤリと周りを明るくしていた。


「おお~い、今、そっちはどの辺だぁ~?」


答えを迷う彼等に、催促のような声がかかる。不気味な事に、先程と声の調子が変わっていない…まるで自動音声案内の録音再生を聞いているようだ。


「ねぇっ、あの声…」


震え声で、お目当ての彼女がジュンに尋ねてくる。ジュンは何も答えず、懐中電灯を切る。

全員がハッとした様子で、同じ動きをした。そうやって、


真の闇となった村の中をゆっくりと、恐らく入口があるであろう方向に向けて、

移動を始めた。


「おお~い、今、そっちはどの辺だぁ~?」


の声は相変わらず聞こえてくる。彼等は何も答えず、無言で入口を目指して進む。

声の調子は近づくとも、遠くともならない。同じ音質で耳に響き続けていく。


最早、勝也達のメンバーがどうなったかを気にしている暇はない。全員が恐怖に包まれ、

足を早める。


それは突然だった。不意打ちのように暗闇から複数の影がジュン達の前に現れる。

悲鳴を上げそうになるのを、どうにか堪える彼等を無言と恐怖の表情で見るのは

勝也達のメンバーだ。


「勝也さん。」


「良かったぁ。無事だったのね。」


「・・・・・・」


ジュン達の声に何も答えない勝也達。更に、そのメンバーをよく見てみると…


「オイッ…“大輔(だいすけ)”はどうした?三人しかいないじゃん…」


「・・・・・・」


そんな彼等の耳に、最早、決定的と言っていい“自分達以外の誰か”と確信できる

恐怖の声が響いた。


「おお~い、今、そっちはどの辺だぁ~?」


「・・・・・・」


全員が目で無言を強制し合う。だが、それで終わりではなかった。


「やっと、全員そろったあぁ~~、今行くぅ~」


「うわあああああ~」


もう限界だった。絶叫し、逃げるジュン達の後ろを、

裸足のような音を響かせた“何か”が、土を蹴り上げ、進んでくる。


叫びながらも、後ろを振り向いた彼が見たモノは…


白髪に干からびた肌。両眼、両目はポッカリと黒い穴だけが開き、ボロボロの白装束を

纏った、明らか人ではない“何か”が迫っていた。


「うわっ、うわっ!」


ジュンの前方を行くメンバーが同じように振り向き、背後から迫るモノに悲鳴を上げ、


そのはずみで地面に転がる。とっさにそれを乗り越えた彼に、

仲間から悲鳴のような声が上がる。


「助け、オイッ助け…!」


「‥‥ゴメンッ!…」


見捨て逃げるジュンの後ろで数秒の間もなく…


「うぎゃああああああ~」


と、この世のものとは思えない大絶叫が響いた。


そうして、恐怖に駆られ、村の中を逃げ惑った彼等はようやく車に辿り着き、その場を去る。

一台の車は残してきたそうだ。なんせ向かった時は8人、それが5人、

一台で、充分乗れる人数に減っていたからな。


以上がジュンの話だ。警察を呼んだか?との声には誰も答えない。常連も何人かいたが、

ほとんどは一見さん、誰の車で行って、どいつの車を残してきたか?


それすらもわからない。何より、本当にそんな悪霊、幽霊なんて話、見てない俺には、

まだ信じられなかった。だから、震える奴等を黙って店に置いてやっていた。


その内、辺りが明るくなってくる。アイツ等はまるで光を、安心を求めるかのように、

1人、また1人と、外に出ていったよ。ジュンがお目当ての子をいたわるように肩を持ち、

奥に座る勝也に、申し訳程度に一礼して、出ていった。


「本当にそんなのがいたのか?」


俺はそいつ等を見送った後、まだ座っている勝也に尋ねた。

聞かずにはいられなかったよ。


アイツはこちらを見ずに、真っ直ぐテーブルに視線を固定したまま、呟いた。


「わからねぇ…」


「わからない?アンタ見たんだろ?」


「俺にはわからない…だけど、生まれて初めてだ…」


「?」


「あんな…おっかねぇ…モンは…」


そう喋る勝也は本当にビビってたよ…



 次の夜、ジュンが来た。昨日の勝也を挑発した時とは、打って変わって、髪は逆立ち、

頬は苔落ちていた、加えてギョロギョロと辺りを見回す血走った目…

まるでアイツ自身が化け物みたいだった。


「勝也さん、いますか?」


開口一番の台詞を、喉が枯れ切ったような声で喋るアイツは異様でね。

俺は不在を伝えるしかなかったよ。


するとジュンの奴、狂ったように頭を掻きむしり出して、叫び出しやがった。

あれには本当に困った。ただでさえ少ないお客が、皆、席を立っちまいやがったからな。


俺はカウンターから出て、アイツを抑えようとした。しかし、

それを振り切ってジュンは叫び続ける。


「ウワアアアアアア、嫌だ。嫌だ!嫌だああああ!


あの声が、あの声!!が!耳元を離れねぇー!!


アンタには聞こえないんすか?昨日からずっとそうだ。朝も昼も夜も、

ずっと聞こえるんだ。


“おお~い、今、そっちはどの辺だぁ~?”


繰り返し、繰り返し、何度も!何度も!!

アイツは俺達を探してるんだ。見つかった奴は皆、連れていかれる。昨日いたメンバーは


誰も連絡がとれない。あの子もアイツも皆。みんな、皆!!消えちまいやがった。


次は俺か、勝也さんの番だ!だから、だから……あ?…」


そこまで喋ったジュンの視線が、店の一角で止まる。つられて俺も見たが、何も見えない。いつもの汚れた店の壁があるだけ…だが、ジュンには何かが見えたらしい。


「ギャアアアアアアア、来た!来たぁっ!!来るな!!!来んなぁあああああ!!」


叫び、店を飛び出していくジュンを止める事は出来なかったな。何故って?

そりゃ、俺の腕もビッシリ鳥肌が立っていたからな…



「協力してほしい事がある。」


三日後の夜、今度は勝也が来た。ジュンと違って、こっちは静観な顔つきだ。あーゆう表情が一番ヤバい。普段キレない奴が、怒る時の顔だ。その気迫に俺は頷いちまった。店を

臨時休業にしたのは言う間でもない。


店裏の住居スペースに移動した後、勝也は水を出してくれと頼んだ。コップを持ってくる

俺に、勝也は自分の懐から“赤い錠剤”を用意していてな。


「そいつは何だ?」


と聞いたが、奴は答えず、じっとコップを見つめながら話しだした。


「あの日から、ジュン達と連絡がとれない。この店にも顔を出していないだろう?

皆、あの声に見つかった。俺の耳元にもずっと聞こえている。


そろそろ自分の番だ。廃村で俺達は暗闇の中を動き回る“アイツ”と会った。

大輔とかいう奴がアイツに引きずられた時、俺は殴ろうとした。


だが、駄目だった。姿は見えてる。だけど、当たらない…拳は空を切るだけだった。

ガキん頃に読んだ漫画通りだ。あの世の奴に、この世の介入は一切、無効!


だったら、条件を同じにしてやる。アイツの土俵に上がればいい。これから俺は死ぬ。

理由はただ一つ、悪霊(アイツ)をぶっ殺すためだ。」


捲し立てる奴にあんぐり口が開いたよ。イカレてるってのは、

コイツのためにあるんだろうなって、つくづく思った。


元々死んでる奴を、あの世送りってどーゆうこった?成仏?いや、違うだろ。

そもそも死んだら、あの世に行くんじゃないのか?


しかも確実に、そこに行く保証もないのに、コイツはこれから死んで、

悪霊と戦う気でいるつもりらしい。


まず、そんな仇討ちみたいな事が可能なのか?だったら、今頃…恐らく、

くたばったであろうジュン達が“お礼参り”をしてるんじゃないのか?


疑問が顔に出すぎな俺に、勝也は笑いながら、説明する。


「わかってる。疑問点は多々ある。だが、アイツだって、現世に留まって、

この世のモンにちょっかいを出している。それが出来るのは、きっと強い想いだ。


“テメー(自分)以外はどうだっていい。誰彼、構わず呪いてぇ!殺してぇっ!”

ていう想いが原動力になっている。だったら…


そんな、クソッタレな想いが残世(ざんせ)の条件として該当するなら、

報復を願う俺の想いも充分に引けをとらないだろ?


勿論、ジュン達が死んだ後、同じ考えを持つかもしれない。だけど、それはない。何故なら、

あの声が、まだ耳に聞こえている…アイツは、まだ俺を探してる。だから、こっちから出向いてやる。」


何の根拠もない言葉に俺は言葉を返せない。そんな様子のこちらを見ながら、

笑顔から一点して、真剣な表情に変わった勝也は、錠剤の説明を始める。


「この薬は肉体をクナトーシス(疑死)の状態にする。体の機能も停止し、心臓も止まる、本当に死ぬんだ。一時的にだけどな。期限は2時間。それ以上の状態が続くと、

体に後遺症が残るって、売ってくれた奴は言っていた。


ここからは、本でかじっただけだが、死ぬと肉体から魂が離れるらしい。幽体離脱だ。

その間に、人は色々な体験する。三途の川に行ったり、死んだダチと話したり…


いわゆる臨死体験、俺は、その中でアイツを殺る。お前に頼みたいのは、そこだ。

万が一、2時間経っても…意識が戻らなかったら、俺はアイツに負けたかもしれない。

しかし、それでも、俺を…」


「“叩き起こしてくれ”ってか?そいつは構わねぇ。万が一死んでも、

葬式は用意してやるし、まぁ、いいよ。


ただ、教えてくれ。自分の命の危険もあるから、ここまで、イカレタ事をするかもしれないけど、まぁ、実際に幽霊っていうモンが、いるんだもんな。


何でもアリなのは、よくわかったけど…何かお祓いとか、霊媒とかに頼むとかさ。

お前がそこまでしなくても…いいんじゃないのか?」


なんて言ってる間に、勝也は既に薬を飲んでいた。止める暇はなかったな。相変わらず

頑固な野郎だ。最早、ため息しかない俺に、奴は静かに答えたよ。


「これは、俺自身の問題だ。ジュン達に同行を頼まれた時、俺は断らなかった。そこに

責任が生まれる。アイツ等が死んだ後も、その責任は続いている。


だから、決着は、俺の手で付けなければいけない。これでいいか?あ、後を…た、頼むぞ…」


最後の台詞を言い終わって、アイツは床に崩れ落ちた。その数秒後には、本当に

息が止まっていたよ…



 とりあえず、床に寝かせ、様子を見てから1時間が経った。もし、勝也の予想通りに事が

進み、悪霊と対峙できたら、向こうはさぞかし驚くだろうな。


自分が殺そうと付け狙う奴が目の前に立つんだ。


そいつは今まで、自分が優位に進めていた、一方的殺戮が通じず、自分にダメージを

与えられる“対等の条件”で戦いを挑んでくるんだからな。


勝也の体に変化が現れたのは、そんな事を考えていた時だった。心臓は止まってるのに、

体が上下にガクガクと動く。顔や腕、足が震えている。状況はわからないが、

まるで、何かと戦っているって感じだ。


幽体離脱時に体が反応するのか?という疑問はさておき、そのうち苦しそうに呻く

勝也の首が締まっている。いや、締まっていくように見えるんだ。


目に見えない、透明の何かに首を絞められたように、痣のような轍が首に刻まれていく。


正直、焦ったよ。本当に超自然的な現象を目の当たりにしているのもそうだが、

このまま行けば、本当に勝也は死んじまう。


思わず声をかけた。


「大丈夫か?オイ!何か俺に出来る事はあるか?」


すると奴は、こっちの声が聞こえたのか?


苦しそうな表情で手を上げた。死んでるのに、手を上げれるか?なんて

疑問は後回しだ。俺は何も考えず、ただ夢中で、ポケットに入っていたジッポライターを

握らせてやった。


勝也の口元がニヤリと笑顔に歪み、ライターを点火させた。


ここまで言えば、もうアンタにもわかるだろう。人気もなく、火の手なんて、およそ上がる筈もない廃村が出火し、そのまま焼失した顛末を…


俺は、勝也がアイツと戦い、勝利した唯一の証拠だと考えるよ。

呆然としてるな。そりゃ、そうだよ。でも、オタクだって、実際に見れば、信じるよ。


絶対にさ。そんでもって、その後はどうなったって?

ああ、そうだな。わかった。続きを話そう。もう、後はお決まりの展開さ。


ライターを自分で閉じた勝也は、それからキッカリ一時間後に目を覚ました。

心配そうにのぞき込む俺にニカッと笑う奴は、とてもいい顔でこう言ったよ。


「勝ったぞ!」


ってな…(終)




俺が死ぬ理由は只一つ、アイツ(悪霊)を倒すためだよ!


表紙すぐに変えます。


廃村で遭遇した悪霊に、障りを受けた主人公は、仲間の報復のために

とんでもない方法を思いつく!飲み屋の主人の語り形式で進む、臨死体験を

超える、“臨死対戦”をお楽しみ下さい!

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