ミッドナイト・ミーンズ 

低迷アクション

清楚なヒロインピンチと怪人困った~な真夜中 ミッドナイト・ミーンズ

 

どんな事柄にも“意味”はある。朝が来るのは自然的に見れば一定の環境維持サイクルを

保つため。人間的に見れば仕事や学校と言った様々な行動に対する始まり…


では、夜は?それが更に深まった深夜、真夜中はどうだろう?大方の人間にとっては

眠りの時間、夜行性動物にとっては行動の時間。そして俺にとっては…


「“元の姿に戻る時間だぜ!”この野郎!!」


自慢のハサミを高く掲げ、空気の澄み切った、真っ暗夜空に咆哮を上げる。

俺の名は“ザリガニーソ”元、悪の組織の怪人だ。世の中を混乱と恐怖でタップリ蹂躙する野望を抱き、半年間、散々暴れ回ったが…


秋の番組改編…いや、違う。悪の栄える所に正義あり!正義のヒーローやら、

可愛いお眼目&衣装フリフリの変身ヒロイン共に組織を壊滅された訳だ。


「あんまり大きな声だしちゃ駄目クマ!!人が来たら、どうするの?クマ!!」


隣で元同僚の怪人“ベルト紺ベアー(紺色のベルトを蒔いただけの熊怪人)”が、

可愛い“女の子フェイス”に小柄な華奢ボディをプンスカプンと揺らし、抗議してくる。


たまらず俺はハサミを振り上げ、言葉を返す。


「怪人が、パンピー恐れてどうすんだ?馬鹿タレん!そもそも何だ?そのファニーボディは?“変身”解いて、元のケダモノにさっさと戻りやがれ!!」


俺の言葉にベアーの野郎は指を“チッチ”と揺らし、したり顔で喋る。


「甘いクマねぇ~、この姿の方が目立たないクマよぉ~っ?」


「こんな人口減の街中、すれ違うのは新聞配達のおいちゃんだけだろうがっ!?

悪の誇りはどうした?もしかして、その恰好気に入ってんのか?この野郎!」


「フッフフフ、ク~マァ~」


「誤魔化すな!馬鹿野郎!!」


正義との戦いに負けた俺達は追われる身となった。元々、悪の存在、追われるのは慣れてると言いたいが、そうもいかない。何しろ、追跡者の筆頭は怪人を倒す事の出来るヒーロー共だからだ。


そこで、考えた奇策。組織壊滅直前に、こちらが確立した新技術…ヒーロー、ヒロインの変身能力を応用したシステム。


つまり、あれだ。一般の人間、もしくは素質ある人間が変身し、ヒーローになるのに対し、

俺達は逆。怪人という異形の存在から一般人に変身するシステムを用い、社会に隠れ潜んでいる。


しかし、何分、崩壊寸前の組織研究棟で急ピッチに作った技術、ヒーローやら、ヒロインの変身構成要素が混ざりに混ざって、一般人の姿はピッチピチの“女の子”という大失敗。


オマケに変身を解除し、元の姿に戻れるのは、人気もないし、ヒーロー達もとりあえず

寝てそうな“真夜中”のみという限定付きの現状を過ごしている訳だが…



 「それも今日で終わりだ!!」


自身満々にハサミをカチ鳴らす。この町を守るヒーローの1人“ガイパワード”を

今夜倒す。寝込みを襲えば、さしもの奴とて、ひとたまりもねぇ!


ほとんどのヒーローは変身前の姿を世間に公表していない。奴が死んでも、一般の死亡事件として片づけられるだけだ。


数週間に渡る調査の結果、正義の味方勢力のほとんどが、単独もしくは少数のグループ

(多くても5人以下)で動いている事がわかった。彼等の間に連絡や交流はなく、

たまに目的が一致し、共同作戦をする程度の様子だ。


これらの調査、ガイパワードの正体を突き止めるのに、女の子の姿が非常に役に立った事は

否めない。まぁ、異形の怪人が役所や公共施設、調査機関に乗り込んでったら、


確実“敵襲”だろうな。その点では、本当に良かった。


「これで、元の姿に戻れる。ガイパワードが死ねば、町の事実上支配は俺達のモノ。

そこに、生き残った仲間をどんどん呼び込み、新たな組織を作り上げる。

真夜中、日中問わず、悪が堂々と本来の姿で闊歩する時代、世界征服の第一歩が

始まるって訳よ!」


意気揚々と語る俺の隣で、今度はしおらしいショボン顔で俯くベアーが呟く。


「でも…何だか、寂しいクマね…」


「ああっ!?何が寂しいってんだ?冗談だろ?語尾にザリやら、クマつけて、周りの

青臭いガキと香水臭い女共に囲まれて。ラインだの、授業だの、くだらねぇライフを過ごしたいのか?俺はゴメンだぞ?」


「結構良かったクマ!クマ、元々熊、組織に改造されて戦ったけど、この姿で生活して、

人間の生活も楽しいなって思ったクマよ!」


「俺の故郷の水源は奴等に壊されたんだぞっ!?

お前だって、そうだろ?俺達の犠牲の上で、この社会は成り立つのを知ってるだろ?

今度は逆だ。アイツ等の屍で、人間のいない世界を作ってやる。」


「確かにそうクマ…でも、それは自然にだってある事クマよ。人間全体が悪い訳じゃない。

それに…もしかしたら、クマ達が、この姿で世界を変えていけるかもしれないクマ…」


「オイッ、30分番組1話分しか出番のねぇ、怪人風情がデケェ事を語るんじゃねぇぞ!

そして…あれだ…」


「クマ?…」


「何か聞こえねぇか?…」


俺達が激昂しながら会話している場所は神社の境内。興奮していて、気づかなかったが、

その裏の林から、音が聞こえていた。時刻は夜中の2時。動物の鳴き声や草木の

囀る音じゃない。もっと何か人工的な


コォーン、コォーン…


という音が…


「やだクマ!お婆ちゃんの魂の鼓動みたいな音クマ!」


「聞いた事あんのかよ?まぁ、それはどうでも良いとして、とりあえず行ってみんぞ?」


「やだぁクマ。怖いクマァッ!」


「対戦車装甲を切り裂く自慢の爪はどうした?カマトトぶってんじゃねぇ!

とにかく夜明けまでに、ガイパワードの野郎を倒す!そのために

不安要素は全て潰すぞ!」


ウルウル涙でプルプルな元熊怪人の女の子を叱り飛ばし、林の奥を進む。やがて

樹齢何百年という大木に、一心不乱というより一生懸命…


「エイッ!エイッ!」


と可愛く、藁人形越しに杭をぶち込む白装束+頭に五徳と蝋燭セットの女の子が見えてくる。こちらの気配に気が付いた彼女が俺達の接近音に気づき、慌てたように振り向き、


「え、ええっと…み、見たなぁ~」


と全然怖くない声で、お決まりの台詞をたどたどしく喋り、俺の怪人姿に悲鳴を上げ、同時に気絶した…



 「この子、知ってるクマ!同じクラスの“委員長”クマよ!」


「言われてみれば、あ~、確かにそうだな。2日くらい休んでたよな?

男と駆け落ちか?なんて、噂の流れてた…」


「酷いクマ!委員長はそんな子じゃないクマ!!」


「わかんねぇぞ~?だいたい、この手の娘っ子は“えっ、真面目で清楚な委員長がっ!?あ、あんな事をーっ!!”って感じだからなぁ~。」


「何おうクマ、もう一度言ってみろクマ!この、ザリガニ!!クマ爪の錆にしてやる

クマ!!」


「上等だ!この似非クマ娘!ガイパワード戦前の腕試しに片付けてやらぁっ!

大体、お前あれだろ?この間の昼メシん時に、委員長がくれた鮭の切り身のよしみ的な

アレだろ?」


「うっさいクマ!鮭大好きクマ!!」


「その鮭だって、一生懸命生きたかったかもしれないだろ!これこそ、人間のエゴだ!

馬鹿野郎!!」


「ニーソだって、委員長から、スルメ貰って“やべぇ…懐い!”とか言ってたクマ!この子に恩があるクマ!!」


「恩じゃないの!あのスルメで、俺の兄貴も戦友も皆、釣り上げられたの!憎しみなの!」


「う?うう~ん、何ですかぁ?」


二匹の怪人の壮絶な口喧嘩に委員長が目を覚ます。再び悲鳴を上げられても困るので、素早く口を塞ぎ“騒いだら、殺す”的なサインを送る。頷いたところでゆっくりハサミをどかし、

彼女の返答を待つ。やがて怯えた視線が、俺から隣のベアーにゆっくり移動した所で、


驚きの声が上がった。


「クマちゃん!どうして、こんな化け物と、はうっ!?まさか援交?いけないよ!

いくら未知の刺激が欲しいからって、限度があるからね!こんなのより、

そこら辺歩いている中年のリーマン引っ掛けりゃいいのよ!」


「委員長…」


「へっ?あっ…いや違うからね。今のは聞いた話、そう又聞き的なね。アッハッハー!」


「委員長クマァッ~…」


「あ、泣かないで、クマちゃん!冗談、冗談よ!まさか、委員長が委員長キャラを駆使して、そんな事する訳ないじゃない!!」


「夜、特に真夜中は様々な姿を映し出す。委員長のように、男漁りする者もいれば、

俺みたいに真の姿を見せる奴だっている。で、あれか?委員長はカモにしていたオッサンに捨てられて、丑の刻参りで報復GO的な感じか?」


「全然違うわ!適当な事ぬかすな!そして、委員長とか気安く呼ぶな!この、

ザリガニお化け!」


俺達の会話で少女幻想を打ち砕かれたベアーが泣き崩れ、俺に怒って金槌ブンブンの

委員長とハサミを竦める自身という、真夜中だからこそ、出来そうなコラボレーションは

微笑ましいが、こちらは先を急ぐ。


ベアーは、まだ正体がバレていない。このままコイツを委員長の世話で残し、俺は目的地に

向うとしよう。


「待って!」


そんなプランを決め、移動を開始する俺のハサミを委員長がそっと掴み、静止させた。


「アタシに協力してほしいの!」


とても嫌な予感が俺の頭をよぎった…



 「委員長の話によれば、この辺りだな…」


風俗店やホテルが並ぶ、と言っても…昨今の不況で大分静かな“夜の街”に

俺とベアーは立っている。しかも今夜の目的であるガイパワードを放っておいてだ。


話は10分程前に遡る…


「実は私、正義の変身ヒロインの“マジユーリ”にブチおかしくわされたの!あっ、

“し・く・わ”を文字から抜いてね!」


「えっ?お菓子食べた?それで呪うの、可笑しいクマ!」


「うん?そっかクマちゃんには早いか?えっとね。何と言うか、人が愛し合う行為の

強制版、片方は嫌がってるのに、無理やり的なねっ!」


「愛?可笑しいクマ!委員長は女の子、マジユーリも女の子。愛は成立しないクマ!」


「よしっ!ちょっと委員長、こっち来てなぁー!そうそう、もっと近く!!にねっ!」


キョトン顔のベアーから、委員長を離し、その小さな顔をハサミで覆い、耳元に囁く。


「オイッ、ウチのクマは、まだ人間社会に馴染めてないし、純粋なの!委員長の爛れたせいか、いや、性活はどうでもいいんだよ!詳細は俺が聞く。話してみろ!」


「だからこそ、正しい知識をクマちゃんに!(耳元でハサミを鳴らしてやる)あ~っ、

わかった。降参…二日前の深夜よ。私は金ヅルを探して、街をさ迷った。


そしたら、あのマジユーリが私を買ったの。とってもいい値段でね。最初はわからなかったけど、ベッドで変身してみせてくれたわ。


そりゃ、そうよね。正義のヒロインが“女の子ガチで大好き”なんて世間一般的にあっちゃいけないし、あり得ないよね。子供泣くわ。だから、あの子も、人気のない真夜中に、お忍びで、こんな田舎の街に姿を現し、本当の素顔を晒すのよ。」


確かに敵対する俺達も驚くだろう。マジユーリと言えば、首都圏を守る美少女戦士集団

“マジカル(カルは狩るの意)”に所属する変身ヒロインだ。魔法の力を用いて、自身に

完全有利な状況を作り出し、敵を倒す戦法を得意とするからユーリかと思ったが…


そっちのユーリ(百合)もイケたって訳か…


「その朝の事よ。外に出ようとした私の身体に激痛が走った。慌てて暗がりに駆け込み、

鏡を見て、驚いた。首筋に赤い傷口があったの。そして、食事はトマトジュースのみしか

受け付けない…この意味がわかる?」


「イヤ…首には何もついてねぇよ。それに今のフリーなジェンダー、正義の味方だって

フリーいいじゃんだが…まぁ、いいや。


つまり、あれか?ユーリが、女の子大好き“吸血鬼カーミラみてぇな感じ”で、

委員長も噛まれて吸血鬼デビュー。そんで、無理やり化け物にされた恨みを晴らすため?

元を立てば、何とかなると思って、


物理的に厳しいから、呪いをかける的なあれか?全然、刺さってねぇぞ?藁人形…

それにユーリだって今の話じゃ、昼間歩けないじゃん?」


「デイウォーカー(昼も夜もオッケーな吸血鬼)よ!きっと!!」


俺のため息&ヒゲプルプルをグイッと掴み、委員長が断言する。

全く荒唐無稽な…いや、そもそも悪の怪人が跋扈する真夜中に荒唐もクソもねぇか…


そんな苦笑いをキッと見つめた彼女が“最悪のお願い”を口にした。


「だから、マジユーリを倒して、ザリガニさん!そして、私を解放して!!」


「いや、何で、悪の怪人が、実は売女な委員長のお願い聞かなきゃなんねぇの?

確かに正義の味方を倒すのは、怪人冥利に尽きるけどよ。生憎、今日は別件アリでな。


悪くもねぇけど断る。別に通報してもいいよ。警察なんざに負ける怪人様じゃねぇ。」


「ふーん、い・い・ん・だ・!あぁ~っ?」


「何がよ?」


「見たところ、貴方とクマちゃんは、援交というより、家族、もしくは腹違いの兄妹

(腹にも程があるだろ?とツッコミたい)そ~んなに大切なクマちゃんにぃ~っ?」


こちらが止める前に素早く、キョトン顔のベアーに近づく委員長。人質か?と考える前に

彼女が恐怖の会話をピョコピョコ動く熊耳風の耳に囁く。


「クマちゃん、赤ちゃんは、どうやって出来るか知ってるぅ~?」


「勿論クマ!コウノトリ!クマ!!」


若干、放置気味でプゥ~ッと頬を膨らませたベアーが話振られて、嬉しさを隠しきれねぇって感じで答える。俺は腹黒委員長が「フフッ、本当はねぇ~っ」


とか、猫撫で声を出す前に承諾し、ベアーと一緒に人気のない繁華街に飛び出していった…



 「そこのクマ風お嬢さん。こんな夜更けに1人でどうしたのですか?」


ネオンサインが点いたり、消えたりのボロ看板下の暗がりに隠れ、ベアーを囮にする事

数分で恐らく“マジユーリ”だと思わる女の子が通りに佇む彼女(いや熊か)に声をかけてきた。


大人びた服装をしてるが、明らか女子高生でマジユーリ。2、3度やりあった事はあるが、

あの時の冷静な目と同じ目をしている。間違いない。相手がまだ、この界隈を欲求晴らしの場所として利用し、


そこに美少女に化けた怪人が(言ってて情けないが、仕方ない。)立てば、

引っ掛かると思ったが、見事に的中。後は一撃で奴を無力化できるかだ。


俺はハサミを軋ませ、戦いの準備を整えながら、ユーリ達の会話に耳を澄ます。


「お金が無くて困っているクマ。家も無くて、夜をさ迷ってるクマ!」


ベアーが何の疑問も持たず、教えた通りの台詞を喋っていく。その純粋な感じに、

ユーリの目が怪しく細まるのを見逃さない。てか、怖えぇ。何?あの目、悪の女幹部より

残酷そうだよ?


「そうですか、困りましたよね。わかりました。この、おねぇさんが何とかしてあげます。

ただ、ああ~っ、良く考えたら、私も終電逃して、困ってるんでしたぁ~。

うん、よし、仕方ない。あそこのホテルに行きましょう。


大丈夫!理由を話せば、温かい食事にシャワー、それにぬっくぬっくのお布団が待ってますよ!」


わざとらしく、顔に手を当てたユーリが“思いついた!超名案!”って感じにニッコリ笑顔で、ベアーの肩にガッシリ手を回す。その力の強い拘束欲に当てられ、


怯えたベアーが、俺の隠れ場所に視線を向けたと同時に、俺は素早く彼女の傍に降り立ち、巨大なハサミを振り下ろす。


“決まった”と吠えたいが、流石は正義の味方…華奢な腕一つで、俺の一撃を受け止めてい

た。そのまま、ユーリの体が赤く輝き、美麗なコスチュームに身を包んだ全身が

現れる。しくじった…奴さん、最初から服の下で変身してやがったようだ。


「確か、貴方は怪人ザリガニーソ…生きていたんですね?」


「ああ、どうやら、死神に嫌われてるようでな…」


冷たい目線を向ける相手に精一杯の虚勢を張ってやる。

さて、このまま行くと、空中で四散するのは俺の方だが…


「大した趣味をお持ちだな。マジユーリ。お気に入りの子は噛みついて

自分の下僕かい?正義の味方もひと皮むけば、ケダモノ。真夜中ってのは

普段見れない姿が見えて、素敵だな。俺もお前もよ。」


時間稼ぎの言葉にユーリが首を傾げる。意外な反応と何か答えを

見た気がしたが、このチャンスは逃さない。


「やれ!ベアー!!」


「オッケー!クマ!!」


ベアーの右手が巨大な熊手になり、ユーリを払いのける。素早く飛びのいた彼女の手から

発射された光弾が辺りに着弾し、爆発と破片を上げた。


「全く油断しました。可愛い外見要注意ですね!」


戦闘態勢を整え、喋る彼女だが、もうこちらの計画通りだ。俺達の真上や辺りの建物に

明かりが点き始める。


同時に人声が静かな通りに木霊し、走り寄ってくる足音も響き始めた。少し焦った感じで

身構える彼女に追いうちの言葉をかける。


「いいのか?マジユーリ、平和を守る変身ヒロインが、何故、深夜の風俗街に?

明日のニュース記事のトップを飾るようだぜ?」


「くっ…」って噛み締めた口のまま、身を翻し、消えるユーリに一安心。

彼女の魔力なら、住民の記憶操作も容易の筈だが、去った所を見ると、


あの子にも後ろめたい所があったんだろう。察する必要もないほどのものがな。隣に立つベアーが不思議そうに逃げる彼女と俺を見るが、何も教えない方がいい。


今は、それより目的を今から果たせるかが重要だ。そう思い、白み始めた空を見上げ、

俺は無念のため息をついた…



 「夜明けですね。」


物憂げな委員長が空を見上げ、呟く。神社に戻った俺達は委員長にユーリを取り逃がした

事を伝える。“色々言いたい事”はあったが、とりあえず、簡単な事項だけを伝えた。


「申し訳ないクマ。委員長!」


「いいんです。クマさんもザリガニさんもありがとう。これも運命。荒んだ自身に決着をつける良い機会かもしれません。もう、平気。怖くはありません。」


神がかった仕草で明るくなる空に両手を広げた委員長にベアーが抱きつく。


「死なないで、委員長。まだ、間に合うクマ。暗闇に隠れてクマ!」


「朝がこんなに気持ちいいなんて。知らなかった…いつも夜ばかり見ていたから。

最後に良い事を知りました。そーゆう意味でも、真夜中を過ごした意味があった…」


呟く委員長がゆっくり目を閉じる。「クマァァァ」と泣き叫ぶベアーと冷めた俺を

朝日が包む事、数秒の沈黙が経つ…


「あれ、可笑しいな?消えないよ。全然、陽射し痛くないし。」


「クマァッ…?」


不思議そうな委員長とクマの隣で再びのため息。ハサミを翳して説明してやる。


「えっ?もしかして、アタシもデイウォーカー?とか思うなよ?委員長。全部、

お前の勘違いだ。陽射しが痛かったのは、乱れた生活で体が痛んでただけ…昼は真面目、

夜は遊び放題、いつ、休むんだよ。馬鹿タレ、2日もゆっくりして、体が良くなったの。


大体、吸血衝動とかなかっただろ?トマトジュース飲んでただけだろ?」


「でも、漫画でトマトジュースが血の代わり…」


「ただの野菜不足。委員長の勘違い。」


こっちの言葉に委員長が頷き、頷き、何度もベアーと俺の乾いた視線を見比べた後、

とても明るい声で話だす。


「そっか!ウン、良かった良かった!ありがとう!それじゃ、クマちゃん。また、学校で。ザリガニはもう二度と…」


「待てよ…」


脱兎の如く逃げようとする委員長の肩を掴み、引き寄せる。ベアーも彼女の胴元を掴んで

離さない。


「せっかくの夜を台無しにされたんだ。ベアー、さっき委員長が言ってた

“ブチおかし食いてぇ”と行こうじゃないか?

これからじっくり朝のホテルでな!あ、“食い”の文字を抜いてな!」


「了解!クマ!」


元気に返事をするベアーと一緒に、焦り顔の委員長を抱え、明るくなった街に歩き出す。


「ちょっと待って、複数はキツイ、いや、ごめんさない。私の勘違いで予定丸つぶれ。何でも、何でもしますからぁ~っ!!」


「オーケー!オーケー!だから行こう。ホテル行こう!」


「ホテル!ホテル!クマッ、クマ!!」


泣き叫ぶ委員長を連行し、楽し気な怪人二人の俺達。この後、滅茶苦茶セッ…と定型文で終わりたいが…一般人に変身を忘れた俺のミスで、朝の出勤途中に出会ったガイパワードに滅茶滅茶ボコられ、楽しいホテルは頓挫した事を一応記しておく…(終)








 

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