アフター☆アーク
低迷アクション
アフター☆アーク
「等々、この時が来たか」
極東の島国の名峰富士の地下500メートルをくり抜き、作られた要塞が大きく震える。ドクロ型の仮面をつけた怪人達のまとめ役、幹部怪人“カーネル・ボーン”は心地好い音楽を聴くように、その音を聞いていた。彼の所属する悪の組織ゾットは、秋の番組改編…いや、勇敢な正義のスーパーヒーロー、ヒロイン達の活躍により壊滅状態にまでなっていた。
漆黒の室内唯一の光点であるモニターには味方側の戦闘員、新怪人、
再生怪人を含めた全てが光輝く彼女、彼等に蹴散らされ、爆発や残骸の中を逃げ惑う様子が映されていく。
(やはり、叶わないな。連中には…)
納得するように頷く彼に味方からの通信が入ってくる。
「カーネル“ザリガニーソ”だ!こっちの戦闘砲台、味方の巨大怪人、皆やられた。
どうやら俺達も最後のようだぜ?兄弟?」
戦闘初期からの同僚である中級怪人の言葉は気軽な様子だが、状況の逼迫性は手に取るようにわかった。ボーンは腕に取り付けたラップトップを操作し、全ての怪人達に指令を送る。
「了解だ。ニーソ、全部署に伝達、すべてのゾット構成員は本要塞から撤退しろ!これは我等の総統を含め、幹部怪人の総意である。」
「なにぃっ?最後まで戦わせろよ!」
通信に割り込んできたニーソの抗議は予測済み。もちろん、おあつらえ向きの提案を用意してある。
闘争本能の塊である彼なら、このまま彼女達と壮絶な相打ち、自身の最期を望んでいる事だろう。だが、それをさせる訳にはいかない。長い付き合いのボーンだ。
彼を納得させる言葉は用意しているし、その理由も把握している。分厚い甲殻面の裏には
仲間を想う熱い心が流れている事を…
「ニーソ、気持ちはありがたいが、撤退の護衛はお前にしか務まらん。我等の戦場はまだある。だから頼んだぞ?」
「…くそっ…そっちも…死ぬんじゃねぇぞ…」
最後の部分は非常に聞こえづらい優しさ的余韻を残し、通信が切れる。Good!非常に素晴らしい。こちらが用意した“素体”にピッタリ当てはまる戦友だ。
ほくそ笑むボーンの横に中世の将軍のような金細工のローブを羽織ったバッタ側の怪人で、今軍団の総統でもある“ジェネラルバッタ”が並ぶ。
「首尾はどうだ?カーネル?」
厳かな、いや、ここまで相当練習した、ラスボス声で喋る指揮官に邪悪な笑みを崩さず、
ボーンは報告する。
「ファイナルフォームチェンジに成功したスーパーヒロインの1人“ファニーライト”はこちらの無人砲台を撃破しつつ、要塞内部に突入中。他の4人は
ザリガニーソ率いる再生怪人軍団で足止めをさせていますが、順次撤退させる予定です。
彼女達がここに到達するのも後僅かかと…」
「全ては、手筈通りという事か?しかし、良かった。ライダー系じゃなくて、本当に…
野郎じゃなくて、本当に良かった…」
「その通りです。総統、ですから、締めはお願いしますよ?」
「任せておけ…だが…残念だ。お前の台詞、出来れば私が言いたかった。」
「それは残念。ですが、こればかりは譲れんですな。お互い、“役割”を果たさんと」
「わかっておる。それでは”最後の間”で待機するとしよう。」
どこか楽しそうな後ろ姿のジェネラルを眺め、ボーンは自身の愛剣“ブラックソード”を
片手に携え、これより数秒の後に突入してくる彼女達の美しき肢体を想像し、
全身を震わせる。
そう、ボーンと一部の幹部怪人にとって彼女達は“敵”ではない。
むしろその逆、愛すべき、尊い存在…
幹部室のドアが勢いよく吹き飛び、これでもかってくらいキラキラ衣装の
少女が飛び込んでくる。キリリとした目元をマスクで覆った彼女は、こちらを見据え、
日曜朝の定番?お決まりの台詞を叫ぶ!
「闇を照らすは光の常!正しき光“ファニーライト”推参!悪の軍団“ゾット”の
副幹部カーネル・ボーン、貴方達の野望もここまでよ!覚悟なさい!!」
「ば、爆萌えだぜ…」
「えっ?」
「いや、口がアレだ…すべっ…まぁいい、ようやくここまで来たかぁ?ファニーライト!
確かにゾットはここまで、しかし、悪を生み出す闇は人の世と表裏一体。
第二、第三の我等が
再び世を覆うだけだぞ?その繰り返しを続けるか?貴様等は?何故、戦う?
変わらないと知っていて、あがく行為に意味はあるのか?何の終わりもない戦いを
続けるのか?」
黙り込む少女を見て、若干の満足。この台詞を考えるのに随分かかった。暗記するのは
到底無理(ライトは気づかないが、彼女の後ろの天井にはカンペが貼ってある)
「…それでもいいよ…」
「!?」
「意味がなくてもいい、誰かの光になれるなら!それが私達の正義!」
(赤丸100点!よくできました!抱きしめて、頭ナデナデしてぇ!)
という感情を全力で抑え、返事を返す。こん時ばかりは多少の歓喜を
爆発させてもいいだろう。
「GOOD…(ここは小声で)フ、フハハハハ、なるほど馬鹿だなぁ?貴様等は!本当に!
だが、しかし最高の敵よ!行くぞ?ライト!見事我を討ち取ってみせろ!」
ボーンの台詞に、とってもお礼儀よく頷いたファニーライトがこちらに向かってくる。
それに答えるべく引き上げたブラックソードが彼女の武器とぶつかり、巨大な光が辺りを包んだ…
「そろそろ時間だな。」
朝日が差し込む庭先を台所から見つめ、元カーネル・ボーンこと
“骨武者 銀蔵(ほねむしゃ ぎんぞう)”は若干、骨が見え隠れして
あんまり擬態出来てない人間面をキリリと引き締め、勢いよく鳴り響く目覚まし時計を
止め、貸家ローン30年分だけど一戸建ての“我が家兼アジト”に叫ぶ。
「皆ぁー!朝だぞーっ!?起きろー!学校遅刻すっぞー!!」
ボーンの声に連動するように、ドタドタ階段を駆け下りてくるのは
元ヤドカリ+カレー要素?型怪人、現在は褐色八重歯!元気系女子高生に変身した
“ヤドカリー”がリビングに現れ、そのまま盛大に転ぶ!
「痛ったぁ!ボーン!あれ、あれ持ってきて!絆創膏!もしくは赤ちんカリー」
「怪人名で呼ぶな、馬鹿者!そこはお父さんか、骨おじさんで行こうって、打ち合わせで
決めたじゃん」
「いや、どっちも無理あんだろ?」
倒れるヤドカリーを踏み付け“ザリガニ要素”は髪の毛の色のみになった同じく女子高生
のザリガニーソが、とても不機嫌そうにテーブルにつく。
「おはよう!ニーソ、んっ?あれぇっ?ニーソックス穿いてない?昨日洗濯したし、
予備もいっぱいあるぞ?どうした?いわゆる反抗期か?グレゴリオ聖歌か?」
「グレゴリオは知らねぇよ…てかよ、ここに来て何日か忘れたけどよ、
毎日言ってる話だけどさ。何で、俺等、女子高生なん?」
「お、おまっ、それはなぁっ!?」
凄く不機嫌な面構えの彼女に“ツンデレ素体”を用意したのにツンしかないニーソに
マシンガントークばりに言葉を返す。
「正義との戦いに負けた俺達は隠れ潜む身となった。元々、悪の存在、日陰暮らしは
慣れてると言いたいが、そうもいかない。何しろ、正義のヒーロー達は秋の番組改編(?)も含め新旧入り交じりもあるが、未だ活動中…自分達もいつ見つかるかわからない。
そこで、考えた奇策。組織壊滅直前に、こちらが確立した新技術…
ヒーロー、ヒロインの変身能力を応用したシステム。
つまり、あれだ。一般の人間、もしくは素質ある人間が変身し、ヒーローになるのに対し、
俺達は逆。“怪人”という異形の存在から“一般人”に変身するシステムを用い、
社会に隠れ潜んでいる。
しかし、何分、崩壊寸前の組織の研究棟で急ピッチに作った技術、
ヒーローやら、ヒロインの変身構成要素が混ざりに混ざって、
一般人の姿はピッチピチの“女の子”という大失敗。いや、個人的には大成功!
変身を解除するには、“アークリミッター”という俺が所有している解除装置のみ…」
「いや、その件は何回も聞いたからよ?読んでる人、説明風にする必要はねぇよ?
そうじゃなくてな?何でお前はオッサン風スタイルに変身できんのに?
(何の改造なしで、人間形態が出来る怪人は基本、幹部クラスと決まっている)
俺とカリー、その他もろもろは女の姿にしか変身できねぇの?
ついでに言えば、何で1年間“敵だった奴等”と顔付き合わせて、
穏やか学園生活を過ごさなきゃならんのだって話だよ!」
「そりゃ、お前!そっちの方が萌え…ぐふぅっ…」
「おい…おま、今何つった?変身出来んのは上級、幹部クラスだけってんなら、
納得したぜ?それなのに、お前、今何つった?」
朝食用のフライ返しを握りしめ、吠えるボーンの胸倉を片手で掴み、そのまま天井近くまで
引き上げるニーソ。中年男性が自身より、たっぱの低い少女に掴み上げられるというあり得なシチュエーションが展開されていく。
「馬鹿なっ!リミッターの影響で、怪人の力は封じてる筈だぞ?」
「ハッハァ~甘ぇよ?兄弟~。オイッ、ノストラタコス!教えてやんなぁ?」
「ほっほぉ、すまんのぅ、ボーン。ニーソに頼まれてのぉ~」
片メガネの教授風に変身したタコス+世紀末預言者的幹部怪人“ノストラタコス”が現れ、
8本に枝分かれした髭を上手に使い、コーヒーを沸かす。
「タコス、きっさまぁ~!ぐぐうっ…」
ボーンの罵声はニーソの憎しみを込めた締め付けに遮られる。怪人の…彼女の怒りの言葉は続く。
「こないだアンタが“ここは武器庫だから、今は入るな!”って言ってた部屋に入ったのさ。
驚いたね?変身ヒロインにアイドルやら、特撮キャラやら、最近の萌えっつーの?
それらのグッズと抱き枕にオタク的なモンが一杯あってさぁ~、もうドン引きだよね?
速攻、タコスに頼んで力戻してもらったよ。
あ、ちなみにグッズと部屋にあったモンは全部売り払ったから。ネットオークションに。
アッハー、高く売れたわ~」
「なぁにぃ~っ、おまっ、アレ集めるのにどれだけ時間が…いや、組織の秘密兵器とか
関係書類もだけど…いや、てか限定品とかあったのに…いや他の組織とかとの連絡手段も
あってね?
ホラ、大体、劇場版になると、新旧全員集合で、前回の敵も中級一部と幹部クラスが
出番あってね?それとか非売品も…ほぐふぅっ」
言葉途中で勢いよく投げ飛ばされ、床に転がるボーン。そのまま怒り心頭のニーソが目の前に立つ。
「結局、最後はグッズかっ!?オイッ、嘘だろ?テメェッ、マジかよっ!?ウチの組織、
前から可笑しいと思ってたけどよ?怪人の構成要素とか、ゼッテェ変じゃん?
その理由がこれか?敵に萌えてる悪の組織なんて聞いた事ねぇよ!
てか俺達、こ、こんな奴と一緒に今まで、た、たたたかって…きたのか…よ…」
ボーンの顔面に水滴が落ちる。見上げればニーソが泣いていた。思いっきり悔し泣きの
表情でだ。
「ニーソ…」
言葉をかける彼の横で非常にタイミング悪く“このままだと、遅刻しますぜ”的な
目覚ましアラームが再び鳴った。時計を止めるべきか?ニーソの涙を止めるべきか、
口をパクパクさせるボーンを一瞥し、
顔を拭ったニーソが言い放つ。
「俺は抜けるぜ?帰りまでには完全にリミッターを解除しろよ?…じゃぁな!」
部屋を出て行くニーソと、こちらをチラチラ見ながらのタコスが消え、最後に
朝からカレーパンを食べているカリーがボーンを覗き込む。
「なんていうかさ、カリーは今の生活気にいってるカリよ?」
「すまんな。カリー、ニーソには出来れば学校でフォロー入れておいてくれ。」
「了解カリー!」
「それと…」
「カリー?」
急に表情を引き締めるボーンにカリーも少し姿勢を正す。
「登校中、ニーソがまだ泣いていたら、泣き顔を撮ってきてくれ!高画質で!!それと
このニーソックスを…」
返事の代わりにボーンの顔面に、思いっきり力を込めたカリーの蹴りが叩き込まれた…
目の前の道を「別に泣いてねーよ!もう構うな!!」って感じで振り払う、
涙目の赤髪女子高生と、カレーパンを口に咥え、同じ制服を着た褐色少女が追う様子が映る。カレーパンの方は何故かニーソックスをヒラヒラ手になびかせていた。
(あの涙面を涙以外でグシャグシャにしてぇな)
男は黄色く変色したグシャグシャの歯並びを歪ませ、笑顔を作る。彼は“異常者”だった。
およそ常人が求める快楽では満足しない。人の泣き叫ぶ顔、血を流し、苦しむ姿のみに
興奮する。より深い快楽を求め、弱いモノを痛めつけてきた。
今日は、それ以上の快楽を約束してくれる。彼と共通の嗜好を持つ仲間達で“狩り”を行う。手筈はリーダー格の人物が全て揃えている。仲間達の元へ向かう男の笑みは
更に大きくなった…
「おはよー!はーさん、んんっ??どうしたの?元気ないよー!」
「うっせぇ!俺に話かけるな。」
「はーさん、何度も言ってるでしょ!女の子が“俺”とか言わないの!!」
「ああ、うるせーな。全く、もう!!」
ヤドカリーのしつこい慰めを逃れ(クラスが違うのは、本当にありがたい)
むくれ顔で教室に入ったザリガニーソこと“波佐見 くみ子(はさみ くみこ)”
は仇敵で今は同級生のファニーライトこと“光 あかね(ひかり あかね)”に
見つかり、過剰に暑苦しく心配されている現状を送っていた。
「何か悩みがあるなら、相談乗るよ!進路、家庭の事情?友達関係?
困ってる事を話してみよー!」
「ええっ!はーさん、どうしたの~!!」
あかねの声に、教室にいた他の女生徒達が自身の周りに集まってくる。こめかみを抑える
ニーソ、何が嫌かって?そりゃ一番は…
「全員、元敵だって事だよ…」
「えっ、何?…あの、はーさん調子悪いなら、保健室一緒に行くよ?」
メガネをかけたクラス委員長風女子が小首を傾げ、気づかいを見せてくれるけど、
コイツは元“ファニーホープ”
「まぁまぁ、はさみんもたまには気分が乗らない時もあるよ!ね、はさみん?」
気さくな感じで肩に手を回してくる元気っ娘は、元“ファニーハート”
そして極めつけは…
「オイ、お前等、席につけー!ん?どうした波佐見?気分が悪いのか?」
「先生、はーさん、悩みがあるみたいです!」
「何ぃっ!本当か?よし、皆、朝のホームルーム前に、波佐見の悩みについて
議論するぞ!誰か議事録を頼む!!」
あかねの説明に、教室に入ってきたクラス担任が暑苦しいまでの教師っぷりを振りかざす。
コイツは元熱血戦隊ヒーロー“バーニンレンジャー”のリーダー“パッションレッド”
吐き気がしそうな善意と正義の群れに囲まれ、ニーソは頭を抱える。
怪人なのに鬱病の検診を受ける事を本気で検討し始めている自分がいた…
「梨男(なしお)君、何度も言うけどね。ワシが君に宿題を出すのは、別に君が嫌いという訳じゃないからのぅ?授業中に弁当食ったり、寝てるとね。
授業に遅れるじゃろ?君の将来が不安だからだよ。」
「先生、そう言うけど、俺、将来、家の土建屋継ぐから、なんつーか、必要ないと思います。」
クラスに入ってきた問題児(宿題をしないと言う意味で)梨男にノストラタコスこと
多古 粉飾(たこ ふんしょく)は、ネクタイ下までに伸びた8本のヒゲを静かに震わせた。
「悪いっす、先生。とにかく授業を始めて下さい。俺は大丈夫っすから!なぁっ、
カリーさん!?」
「カリ~?」
飄々と、隣の席のヤドカリーに話をする梨男にクラスの皆も頷く。彼が、
「意味ない、やる気ない“なし男”」
と呼ばれ、馬鹿にされているのも、タコスが我慢できない理由の一つだった。
ここは一喝、何か一言を言おうと口を開きかける彼の動きが止まる。
ヤドカリーもピクンと目を見開く。
(この感覚は…)
タコスが動くと同時に鋭い衝撃が教室全体を襲った…
ヤドカリーに足蹴にされた顔面をゆっくり愛おしむように撫でながら、ボーンは思う。
込めれるだけの侮蔑と怒りを持った眼差しと強力な一撃に加え、可憐な少女の清らかで
かぐわしい匂い、全くもってサイコーだ。
“敵に萌えてる悪の組織なんて聞いた事ねぇよ!”
ニーソの怒りが蘇る。最もな話だ。だが、わかっていない。自分達の立場をというものを。
「俺達は“息抜き素材”だからな…世のため、強いては地球全体のための…」
呟きと同時に、朝食後の居間に設置されたテレビ画面が何度か点滅する。
元総統からの定期通信だ。
画面に視線を映せば、砂嵐が消え、触覚を二本の長髪に変えたジャネラルバッタの顔が
現れる。
「久しぶりだな、ボーン?代わりないか?顔はどうした?」
「いわゆるスキンシップです。ええ、上手く…まぁ、上手くやってますよ。
そっちも盛況そうですな?“社長”」
「ああ、女体化した怪人達もようやく、アイドル業に慣れてきた所だ。まずまずと言った
成果かな。」
厳かな声は相変わらずだが、今はアイドル事務所の社長だ。元同僚である、
怪人達のアイドルグループはテレビでも多く見かけていた。
「我々の役割は終わった。後は毎年繰り返されるサイクルに従って、
ゆっくりとフェードアウトしていけばいい。まぁ時々、友情出演を頼まれるかもしれんがな。
歴代の正義&悪が終結なアレだよ。特に昨今では多いと思う。
ただ問題はな。その幕引き、退職金をだな。それを得ようとするガメつい心を持った奴がな。いたらどうする?」
声に凄みが増す。サッパリ覚えがないが、自分が疑われているらしい。こちらの軽い狼狽を
見たジェネラルの言葉が続く。
「一線を引いたとは言え、私も裏の界隈とは付き合いがある。そこから得た情報だ。
ゾットの武器が闇のマーケットに流れたらしい。それも大量にだ。覚えはあるかね?」
どうやら、意図が見えてきた。残存兵器の管理はボーンの担当。だから、この通信が入った。
しかし、自分には身に覚えがない?ないのに、何だろう?引っかかるモノがある。
「無言なのは、覚えがあるのか?まぁいい、続けるぞ。買い手である武器商人やテロ組織は多いに困惑だ。連中にもある程度の“常識”がある。自分達の飯のタネの市場を完全に壊すような代物は買い手がつかん。それをどっかの矮小な殺人愛好家共が購入した。
そいつ等が我々の武器を持って、
君達の街に侵入したぞ?どうやら殺人ゲームを始めたいらしい。」
“ちなみにグッズと部屋にあったモンは全部売り払ったから。ネットオークションに。
アッハー、高く売れたわ~“
「アッ!?アッーッ!!」
ジェネラルの言葉とニーソの言葉が同時に繋がる。叫び声を上げ、ボーンは勢いよく
外に向かって駆け出した…
「何だ?お前、逃げないのか?」
教室に飛び込んできた3人の黒覆面の内の1人が不満そうに言葉を発する。その手には
ゾットのレーザー銃が握られていた。教室いや、学校全体で悲鳴と自分達が所属していた組織の武器の発射音や起動音が響いている。
今、教室内にはニーソとこの3人だけ…混乱するクラスメイト達は元正義の連中が
上手に逃がした。
覆面の手から光が発せられる前に足元に転がった椅子を掴み、その顔面に叩き込む。
「逃げる理由がねぇな?」
ニヤリと笑い返す彼女の周りを青緑の光線が飛び交う。上手く躱しながら、相手に
距離を詰める。連中が持っているのは自分が流した武器の一部、この状況はサッパリだが、
目の前の状況は自分の責任、落とし前はキッチリ片をつける。
後、数歩で2人の顔面に拳が届く。もう少し。
流行るニーソの一撃は視界の端に飛び込んできたクラスメイトで元敵の1人、
光あかねの姿が映る。
「バカ…野郎…」
叫ぶ彼女の言葉と同時に全身が焼かれるような感覚が全身を駆け抜けた…
全く、とんでもない展開になったものだ。
ノストラタコスは自分の背中にしがみつく生徒達を煩わしいと思いながらも、現在の立場を考え、一生懸命庇うフリをしながら、他人事のように思う。
生徒達を避難させる途中の廊下では、ヤドカリーが躍るように飛び上がり、
覆面とゾットの武器を持った集団を相手に立ち回っていく。
出口は塞がれているから、生徒達を上手に屋上へ逃がしていけばいい。幸いにも、この学園には元ヒーローの教員や正義のヒロインの生徒も多くいる。
後はちょっと自分達が手を貸せば、簡単に事は片付く。ニーソ達と武器を流したのは
ある意味正解だと思っていた。上の連中の考えは知らんが、所詮、人の世は争い絶えぬ
世界…
何処で誰がどう使い、誰を殺し、誰かが死のうと関係ない。タコスの元であるタコは進化の過程が違えば人間と同等になれた種族、生意気な猿など、いくら死のうが関係ない。
まさか、自分達の生活空間、それも職場に来るとは思わなかったが…想定外の状況ではあるが問題ない。人間が死ぬのは、問題ない筈なのだが…
「くっそう、痛ってぇな。オイッ、覆面野郎、その光る棒みたいなのは反則だろう?なぁっ、カリーさん?」
「カリ~?」
「あのね、梨男君、君の腕っぷしは凄いけどね?相手は武器持っとるからね?
警察とか、その辺に任せるべきじゃよ。」
「駄目っス。先生、携帯も通じないし、校庭にも同じ覆面野郎がいっぱいです。助けは呼べません。それに…!」
「それに…?」
頭から血を流した梨男が再び立ち上がる。タコスはため息をつく。頑丈なのはいいが、相手の武器は特殊能力者用の代物…元怪人のカリーなら、まだしも、常人の彼ではひとたまりもない。1人でも死なれると今後の自身の評価に響くのが心配だ。
苛立ち気味のタコスに梨男が頭の血を拭い、この状況に全く場違いな感じで陽気に答える。
「俺、なし男っす。ダチも親も言ってます。なしってのは、いらない“人間”の意味。
つまり不要なんす。でも、クラスの皆も、学校も好きっす。だから、時間稼ぐっす。
大丈夫、俺、いなくても、問題ないっすから!」
彼の言葉に自身の動きが止まる。笑顔を決める梨男の背後にさりげなく、カリーを回らせた。同時に自身の能力の一つである“眠り墨”を散布するのも忘れない。
「‥‥‥…ふーっ…確かに君は“人間”じゃないな。梨男君。カリー、キャッチよろしく。」
「カリーッ!!」
「先生?…あれ…何だかねみ…」
崩れ落ちる彼を器用に抱えたカリーが後ろで崩れ落ちた生徒達も抱え、素早く移動する。
彼女の肩に抱えれらた梨男を見つめ、呟く。
「自己を省みず、誰がために身を捧げる姿勢、何の代償もなくだ。それは“正義”、
君の崇高な理念は並の人間には出来る事ではない。我が種族ですらな。だから救うに
値する。」
体内の装置を起動し、変身を解除していく。顔面が崩れ、元の姿の自身を見て、敵が
悲鳴を上げる。
「たかが人間如きが…」
発した一声と共に、手から伸びた無数の触手が容赦なく相手に襲いかかっていった…
「やだ、はーさん!死なないで!駄目だよ!はーさん!」
「あーもうっ、うっさいわ!生きてんよ。まだな!そんなに叫ぶな。」
スカート周りが焼け焦げてはいるが、問題ない。死んだフリをして相手を皆殺しにしようとした矢先に、あかねが涙声で覗き込むモンだから、答えてしまった。おかげで武器を持つ
覆面共がワラワラ集まってきている。
(コイツ等からすれば恰好の獲物だな)
連中の目を見ればわかる。自分より弱い者をいたぶってきた目だ。今は逃げ遅れた奴と、
それを庇う健気な親友をどう嬲るかを検討中だろう。現に、傍にいる元敵は、
向こうの思惑通りに両手を広げ、ニーソの前に立っていた。
なんせ、彼女は正義の味方…どんな敵が出てきても、立ち向かう。愛と勇気を味方に、
友のためにのクソッタレヒロイン!コイツを囮にすれば、確実に自分は勝てる。隙の出来た奴等など敵ではな…
(納得いかねぇ!)
こんなクズ共に我が最高の敵を殺させねぇ。タイミングよく振動する携帯を取り、お目当ての相手に要求した。
「ボーン、約束だ!リミッター解除!」
同時に全身が光に包まれる。あかねの目が見開く。驚くだろうな。何せ、クラスメイトが元敵の怪人だなんて…続いて放たれる驚愕の台詞を心地よく聞く。
「はーさん、私達とおな、いえ…正義の味方だったの?」
「あっ?…」
驚愕したのは自分の方だった。視線を一気に足元へ移す。変身した体は、
固いザリガニの外郭ではなく、ヒラヒラの衣装を纏った、さっきと同じ女の子&変身ヒロイン風の自分が映っている。
(あの骨野郎…)
は後で締めるとして、目の前でキラキラ目を輝かすあかねに対し、説明が必要だ。ニーソは考え、この世でもっとも言いたくない台詞を口にした。
「あかね…(語尾を恥辱で震わせながら…)ク、クラスの皆には内緒だぜ☆?」
「うん、はーさん!」
それに対し、あかねの返事は元気一杯だった…
「少しはバランスを考えろよ。オタク等?」
目の前で笑うドクロの怪人に全ての仲間を一蹴され、男は息も絶え絶えに相手の言葉を聞く。校庭に居た連中は全滅。校舎内からも連絡がない。男は怯えていた。初めて、狩られる立場になった事をだ。ドクロの笑い声は続く。
「悪という感情は誰にでもある。その捌け口、代償行為を担うのが我々…
それを正義が駆逐する事によって、世は保たれる。いわゆる必要悪だ。まぁ、最も俺の場合…」
男の、この世で最期の視界にドクロが広がる。
「目の前を、ヒラヒラ衣装で舞う彼女達に萌えた、只の骸骨野郎だけどな。」(終)
アフター☆アーク 低迷アクション @0516001a
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