ヒロインピンチ!~怪人困った~デイ 

低迷アクション

ヒロインピンチ!~怪人困った~デイ 

ヒロインピンチ!~怪人困った~デイ 


 パーティ用グラスに注いだ液体は化学混合物風味、それを手に取る奴等は

7割が昆虫、甲殻、爬虫類、刀剣、銃器の手。グラスを持った異形の軍団達。


勿論、これを語る俺の手はザリガニバサミ。特撮好きの同志諸君、喜んでくれ。

今日は悪の怪人軍団“ゾット”の解散記念日…第1回目のパーティデイだ。


一般戦闘員に、幹部怪人、再生怪人(一度倒されて、もう一回再生した奴。番組の予算調整って言った奴だれだ?)数多の生き残り達がここに集っている。


説明するまでもないが、俺達は“世界征服”という今時ベターな野望を持った秘密結社だ。

“大田区寒冷都市計画”とか“東京ビックサイト要塞大作戦”とか派手にやってきた。


後一歩で世界征服とかね、イイとこまで行った作戦とか結構あるにはありましたよ…


だけどね、そこはやっぱりね。やっぱりなんすよ。皆さん、正義の味方には勝てない訳

ですわ。なんつーか、こうね。


「正義の力がある限り、信じてくれてる人々がいる限り、俺達は負けない。」


とかいう戦隊ヒーローに覆面野郎とか。


「皆の笑顔のために、最後まで諦めない!私達は戦う!」


みたいな変身ヒロイン共にボロ負けしちゃう訳なんすよ。


まぁ、やっぱりね。破壊するだけの悪よりはね。友達とか、好きな人とかね。

誰がために(たがために)守ったり、救ったりする気持ちの方が強い訳ですよ。

実際!何となくわかりますよね?皆さんなら。


おっと、長い話で紹介が遅れた。俺の名前は怪人“ザリガニーソ”

ザリガニボディーに強化ニーソックスを付けた開発スタッフ絶対

“葉っぱ吸って作っただろ?”的な怪人だ。


そんなクソみたいな組織だから、“現場”の怪人達だって不満がいっぱい。

一番上の総統閣下には、それなりの“理念”があったらしいが、下の俺達としてみれば、

頭を改造手術されてるせいで、組織の歯車として動く以外に何かしたいっていう気持ちは毛頭なく(これが負ける原因かな?)


加えて、戦闘中に頭の洗脳装置を壊されて“自我”に目覚めた俺は、壊滅後の生き残り達の

頭を自分と同じに“解放”して、燃え盛る組織本部を脱出し、正義の味方共に投降した。


そこから先はヤクザの引退式と同様。報道の写真パシャパシャ、ヒーロー見守りの中で

“解散”宣言をし、政府が新たに設置した

怪人収容施設(言い換えれば実験&拷問、虐殺処刑場)行きのバスを占拠し、

崖から転落した。勿論、怪人は海中に沈んだくらいでは死なない。これは偽装だ。


俺達の新しい人生のために…


 

 「それでは、色々あった俺達だけど、晴れての自由に!これからの旅路に!かんぱ~い!」


ハサミを上手く調整しないとグラスを割りそうだ…

(実際、乾杯直後にあちこちでガラスの割れる音がした)


皆がそれぞれ“独自の表情”で笑顔を浮かべている。まるで学校の卒業式だな。

腹に染みわたる合成化学燃料が心地よい。脱出の際に、怪人製造スタッフ達も

“一部”を助け出していた。


あまり組織に浸透せず、俺達と同様、洗脳か、脅されていた者達だ。

流石に元の人間や獣に戻るのは不可能との事だが、少なくとも人間並みの人生を

謳歌できるくらいの準備は整える事が出来た。


俺の隣に相棒の怪人“キャンディ・ライオン”が立つ。特徴はライオンの狂暴さと

キャンディを多数生産できる胃袋を持ち“飴玉目当ての子供達を連れ去る会”の話で

(これはメタすぎる用語で、大変失礼)活躍した。


つまみに用意した肉を一口で平らげた口を豪快に開いたわりには、低く渋い声で

俺に話しかけてくる。


「本当にこんな日が来るとはな。相棒。」


「全くだぜ、キャンディ。ここまで上手く行くとは正直信じられねぇけどな。」


「お前のおかげだ。何度も言うが、もう一度言わせてくれ。ありがとう。」


「止せよ。そんな事より新しい人生設計はどうだ?俺達と一緒に行かないか?」


「ありがたい話だ。でも、俺はアフリカに帰るよ。怪人になる前の仲間達が受け入れてくれるかどうか、わからない。だけど…故郷なんだ。」


「ふ~っ、超残念と言いたいけど、一緒にもうひと暴れしたいのが本音だが…仕方ねぇ。

心配すんなよ!お前の得意技、口からキャンディで仲間達はイチコロだぜ?」


「ハハッ、コイツめ、馬鹿にしてるな。俺は結構気に入ってるんだぞ?」


笑いながら、猫パンチならぬ“虎パンチ”でじゃれ合ってくるキャンディ。俺もハサミで

豪快にじゃれ返す。


本来の記憶が戻った後、怪人達の中には自身の姿に絶望する者も多くいた。そーゆう奴等は

製造スタッフと一緒に“元に戻る研究”を進める道に取り組み、


後は、キャンディのように故郷へ帰る、家族とやり直す者がほとんだ。


最後に残った、家族もいないし、現状の自分に絶望してない俺みたいな奴等は

再び“戦い”に戻る道を選んでいる。


次は世界征服なんて、でかい夢は見ねぇ。1人で軍隊を相手にできる力だ。

何だってできる。それを考えただけでも楽しい。


皆が夢を語り、新しい道に進む自分達を祝う。正に怪人にとっての“特別な日”だ。


俺はグラスに液体を注ぎ、キャンディに杯を向ける。奴も心得たように同じ動作をする。


「今日という“素晴らしい日”に!乾杯。」


「乾杯!」


キャンディだけでなく、他の怪人達も一緒に叫ぶ。


隠れ家の入口で、ガラスではない、何かが割れる音が響いたのは、正にその時だった…



 「大変だ。組織内で一番頭が良さげな“カニキメデス”の頭カチ割れぞーさんで!

(公園の滑り台型ぞうさんの例え)カニみそが溢れてやがる。」


「なにいっ、カニみそだとぅ!」


「へへっ、知識をもらうぜぃ。」


酔っぱらってんだか、真剣なのかよくわからない怪人達が入口に殺到し、鋭い閃光と共に

一気に吹っ飛ばされる。


倒れた怪人達の残骸(失神してるだけ)の真ん中にすっくと立ってるのは…畜生


状況を語る前に汚い言葉が出ちまって失礼。それくらい、最悪って事。

俺の代わりは隣のキャンディ・ライオンが補足してくれた。


「確かあれは、変身ヒロイン“キュアキュアキュート”の

(いつも思うけどキュがめっさ多い)“メガキュート”彼女の光球はヤバいぞ。相棒。」


よくわかってるよ。キャンディ。なんせ、彼女の必殺技のおかげで、こっちは“自分”を

取り戻したのだから…


可愛らしいコスチュームに身を包んだ彼女は黙ってこちらを見ている。

組織壊滅からまだ2週間、残党狩りか?どうして隠れ家の場所がわかった?夜だってのに

うるさいっていう、ご近所の苦情か?(余談ながらパーティ会場は住宅地の真ん中一軒家)


「すんません、ニーソ(俺の呼び名…マジで勘弁してほしい)」


戦闘員の一人が携帯端末をこちらに見せる。バッカヤロウ…


「お前、テロリストが、自分の居場所ツイートして、フォロー増えたと思ったら、そのまま多国籍軍にミサイルピンポイントで吹っ飛ばされたって話あっただろうがぁっ!

駄目だろ!ナウしちゃぁっ!」


「すいません。」


「そんな事よりニーソ。」


謝る戦闘員の隣でキャンディがキュートを指さす。様子が可笑しい。可愛いお眼目が

ウ~ウウル?えっ…ちょっと。


「もしかして泣いてんすか?」


俺の言葉に彼女は答えない。仕方ない。こんな時“最も、最適な手段を持つ怪人”に

振り返る。


「キャンディ、特技の出番だ。」…



 「友達が誘拐されたぁっ!?」


ハサミをカチ合わせ、俺は思わず叫ぶ。キャンディ・ライオンの特製飴を舐め、少し気分を

落ち着かせた彼女がポツリ、ポツリ話した事によれば…


友達が不良グループに騙されて、町外れの倉庫街に連れてかれたらしい。親はオロオロ、

警察も手を出したいけど、何か悪い奴等が未成年に加えて、町の有力者の息子ときて上手くいかない。ここまではドラマとかでよく聞く話。だけど、考えてもみろよ。


これ普通のドラマじゃないぜ?(またまたのメタァ~でソーリィ)

特撮ヒーローとか、変身ヒロインが出てくる、

スペシャルでスーパーなヒーローショーだろ?そんな不良グループなんて…


「んなモン、お得意の魔法光弾で砕いちまえばいいじゃん?」


って言ってしまう。そんな俺の適当な言葉に少し怒った彼女が手を光らせる。慌ててハサミを上げ、降参の合図をする俺。


「私達の能力は“普通の人”に使ってはいけない決まりがあるの。そんな事をすれば

世界中が大変な事になる。わかるでしょ?」


よ~くわかってるよ。ただね。あれを一度喰らった身としては、一言、言いたかった訳よ。


“マジ痛いっ”


って事をな。まぁ、必殺技は“必ず殺す技”と書くわけだから、仕方ないと言えば

仕方ないけどさ。


なんとなく察してきた。つまりあれだ。正義の味方じゃできない事を…

この後は実際の台詞にしよう。


「つまり俺達、元悪の怪人に、その不良グループをブチのめしてほしいと?」


黙り、うつむく彼女。構わず続ける。


「見返りはアレか?施設から逃亡した俺達を他のヒーロー共に言わずに、

見逃してやると?そして自分の都合が悪い時に利用する。そうゆう事か?

正義のヒロインも堕ちたもんだな?」


「・・・・」


「悪いが断る。アンタは信じないかもしれないが、俺達の中には、これからまともな生活を

始めようって奴もいるんだ。“もう悪い奴等に利用されたくない”


そんな新しい夢を持つ奴等の…旅立ちの日を、邪魔させない。絶対にだ。どうしてもって

言うなら、俺達全員ブチのめせばいい。政府にタレ込むのもアリだぜ!好きにしな。」


若干の嘘(俺自身は悪い事しまくりを予定している。)を含んだが、仲間達の気持ちを

代弁した形になった。


さて、向こうはどう返す?黙ってちゃわからんぜ?

場合によっては戦闘に突入する事も否めない。勿論、こちらに勝ち目はないが。


身構える俺達を見回し、静かに顔を上げたメガキュートが変身を解く。

てっきり“全員皆殺し”だと思っていたので、少し驚いた。


「ゴメンね。確かに貴方の言う通り。頼ろうと思っていた。でもいけないね。私は、

いや、私達は正義の味方だもんね。ありがとう。」


クルリと踵を返す彼女は入口に向かう。思わず声をかけてしまう。


「どうする気だ?」


その声に振り向いた彼女は素敵な笑顔でニッコリ。


「悪い子はおしおき☆だよ!」


いつもの、“お決まりのセリフ”を一言残して飛び出していく。


室内では、死んだフリをしていた怪人達が起き上がり、俺の周りに集まってくる。

全員無言だ。この雰囲気は嫌だな。後味悪すぎだ。


「あの子は強いな…」


キャンディ・ライオンが低く言葉を発した。


「大切な友を救うため、自らの正義に泥を塗る行いをしてまで、俺達にすがった。お前が

言わなくても、あの子自身よくわかっている。


自分のやろうとしている事が、どんなに堕ちたものという事も。それでもやる。友のためには自らなんて省みない、崇高で偉大な精神だ。なるほど、我々が負ける筈、

いや“負けてよかったのだ”と改めて思う。」


全くイイ感じに言いやがって。俺、悪者かよ?いや、悪者か…不毛な自答をする自分に


蜘蛛の糸でカレンダー作れる(一体何の意図を持って作られたっ!?この怪人?

“お母さんの家計簿混乱作戦”の話に登場)“スパイダーマンス”も畳み込んでくる。


「ニーソ、俺もアンタのおかげで、過去の自分を思い出せた。だからわかるんだ。あの子を

見捨てちゃいけない。俺達みたいな悪が栄えないのは、あんな心を持ってるイイ子が

頑張っている証拠だ。その子の力になるなら、俺達の今までやってきた事のつぐないに少しでもなると思う。」


お前等みたいに“悪の道、円満退職組”はだろう?しかし、俺達はこれからも

“その道”まっしぐら。双方が納得できる意見を出してみろってんだ?


心で毒づく俺に少しだけ中身が出てる(勿論、食ったのは仲間)カニキメデスが

歩みよってきた。


「まぁまぁ、キャンディもスパイダーも落ち着け。ニーソの立場も考えてみろ?

彼としては先程、あんなドヤザリガニ(顔)でハサミ上げた手前、


彼女をすぐに助ける事は出来ない訳だ。そこで使えるのは、特撮ネタでよくある

(再三のメタァ要素失礼)あれだ!


“メガキュート、貴様を倒すのは、このザリガニーソ。下衆な不良共にはやらせはせん。”


これなら、彼の顔も立つし、観てる全員が納得するだろう。」


そうそう、あんなこと言った手前、舌の根も乾かないウチにはねぇって


違うよ?何、俺ツンデレキャラみたいになってんの?ミソ出すぎで狂ったか?カニ公?


だが、他の怪人達は、凄い期待の眼差しで俺を見ている。全員、怪人なのに、

目がキラキラっておかしくない?絶対可笑しいよな?


「ザリガニーソ…」


キラキラどころか、後光みたいなもんまで、醸し出してるキャンディ・ライオンが

俺を促す。


(仕方ねぇな)


俺はハサミを曲げ、GOサインを出した…



 「どうしたんだよ?何とか言ってみろ。このアマぁ!」


頭を針山みたいにおったて、絵に描いたような不良少年が“変身してない”メガキュートを

蹴りたくっている。その横には彼女と同じ制服を着た少女…件の友達が


少年と同じような感じの仲間に取り押さえられていた。自分の正体を明かせばいいのにと

思うが、それも出来ないよな。さっきの様子じゃぁよ…


倉庫の冷たい床に、顔を埋めた彼女の髪を少年が掴み、揺さぶり起こす。

全く加減を知らない馬鹿には困る。メガキュートが汚れた顔を上げ、か細く呟く。


「ゆきを…離して…お願い。」


恐らく繰り返しのセリフなのだろう。苛立ちとあざけり半々の表情をした少年が

ナイフを取り出し、見せつけるように高く掲げる。


「そんなに大事か?お友達がよ。だったら、お前の覚悟を見せてもらおうじゃないか?

〇×△*#@~」


こっからの台詞は本当にお決まりなので省く(要は、助けてほしかったら、自分で

顔傷つけろとか、傷つけてやるとか、そこらへんのホントに低能な戯言、

飽き飽きだね。全く)


「だ、誰か…」


叫ぶ、ゆきとかいう子の口が、他の馬鹿どもの汚い手で塞がれる。彼女は

こう言いたいんだろう。想像できるのは3つ。


「助けて」、「ヒーローを呼んできて」「ヒーローが助けてくれる」


(恐らく最初のが正解かな。年頃的に)


ごめん、助けにはいくよ。行くけど、ヒーローじゃなくて悪側サイドの方だから。

でも安心して。


何故なら、それが(少年達の酷い行為)行われる事は永遠にないからだ。

少年の手はいつの間にか黒く靄がかかったような影に覆われ、一歩も動けないでいる。


「な、何だ?」


「ガルルルル」


怒りの唸り声を上げるのは、自身を黒い霧に変換できる犬型怪人“シャドークゥーン”。


少年達の悲鳴を他所に仲間の怪人達が飛びかかっていく。スパイダーマンスと

カニキメデスがナイフ以外に“銃”を取り出した(流石、権力者の息子。用意がいい。)

奴を殴り飛ばし、


キャンディ・ライオンは“ゆき”と呼ばれた少女を抱きかかえ、安全を確保する。


「ワワァ~ンッ」


犬の鳴き声に気が付けば、シャドークゥーンを“何故か”吹き飛ばせた?リーダー格の少年が逃げ出している。


俺は素早く後を追う。倉庫の入口までたどり着いた彼の頭上を軽く飛び越え、目の前に立つ。

化け物姿な俺にビビりながらも、少年は泣き笑いのような表情で笑い、言葉を発した。


「ハッ、アンタ達ゾットの残党だろ?どうだい?手ぇ組まないか?俺の親父は議員だ。

何でも好き放題だぜ?」


俺はハサミと触覚を震わせ、全身を笑わせる。“肯定”の意と見たのか?彼も笑う。


“勿論、違う”


「断る。」


少年の顔が歪み、ダダをこねるように地団駄を踏む。


「な、なんでだよ?」


この手の手合いは、いつもこうだ。お決まりのセリフを言ってやろう。


「俺達悪は“弱い者いじめ”が大好きだ。」


「そ、そうだよ。わかってるじゃんかぁ。」


我が意を得たとばかりに少年が何度も頷く。言葉を続けてやる。


「自分より弱い奴を倒すのが、一番手っ取り早い。強い奴を倒すより楽だし、簡単だ。」


「そ、そうさ。だから俺達強い者は手ぇ組んで、もっと好きにやる権利があるんだよぉ。」


頷いて見せる。ここらでトドメかな。


「お前等と彼女達、弱いのはどっちだ?」


「そりゃ、決まってるよ。アイツ等さ。何にもできねぇ。ただ、“お願い”を繰り返すだけの口だけや…」


「彼女はどんなに殴られても、お前に屈しなかった。腹を蹴られても、

ナイフをチラつかせても、お前の言う事を聞いてない。つまりお前は、あの子に

勝てなかった。もう一度聞くぞ?弱いのはどっちだ?」


「う、うるせぇー!!」


流石に、これは予想できなかった。いや、先程のシャドークゥーンが吹っ飛ばされた段階で気づくべきだった…少年の両目が赤く開き、振り上げた両手から、強力な波動が発射された。


俺は吹き飛ばされ、地面に転がる。狂ったように笑う少年が、両手を見せびらかせるように近づいてきた。


「ハッ、ハハーッ、見たか?言っただろ?俺の親父は何でもできるんだ。お前等の組織の

データからもらったこの技術。スゲェだろ?どうだ?一体誰が弱いってぇぇ?」


「お前だ。」


少年が吠え、両手を突き出す。

本当に馬鹿な奴だ。これで、お前は“普通の人”じゃなくなった。つまりは…


「メガ☆シャイン!(キュートの技名)」


悲鳴を上げる間もなく、まばゆい光球に全身を包まれた少年が壁に叩きつけられる。

俺は“メガキュート”に変身した彼女にハサミを軽く上げた…


 

 「ホントに来てくれるなんて…ありがとう。」


“友達”に知られる訳にはいかないとの事で、すぐに変身を解いた彼女が微笑む。

ゆきにはキャンディ・ライオンが上手く説明をつけていると思う。


元々、そーゆうのに特化した怪人だからな。造作もないだろう。


「これで少しは信用してくれたかぃ?」


頷く彼女。“悪が正義を助ける日”が来るとは、正に“特別な日”だ。

だが、おかげで仲間達の旅路は妨げ無しに行けそうだ。その点には感謝しないとな。


メガキュートが続ける。


「貴方達が社会に、平和を愛する意思がよくわかった。友達のゆきも、彼等も

それを見てる。皆が知る事になるよ。“正義の怪人軍団”の誕生をね。」


そうそう、正義の…


ん?ちょっと待って?それ不味くない。キャンディとかスパイダーとかもろもろはいいよ。

でも俺達は?これから“新しい悪の組織”を旗揚げ準備中の連中にとっては

“真逆の宣伝”になるぞ?


まさか、この子、最初からそれを狙って?…恐る恐る彼女を見る。疑問に小首を傾げた彼女が


「うんっ!」


と頷き、手を差し出す。伸ばすのか?俺?この手を取れば、すべてが変わるぞ?

走馬灯のように仲間の顔と彼女達の戦いの記憶が駆け巡る。それら全てを総合して出した結果は…


“悪くねぇか…”


俺はニヤリと半分ヤケクソで“悪と正義が手を取る”新しい日の第1歩のためにハサミを

彼女の手に伸ばした…(終)












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