「概仁(ガイジン)~赤い抵抗者達~」
低迷アクション
「概仁(ガイジン)~赤い抵抗者達~」
「概仁(ガイジン)~赤い抵抗者達~」
●2018年:場所 日本
レポート課題を進める中で、独ソ連戦の資料に“ヒヴィス”という言葉が出てきた。聞きなれない言葉だ。ネット、資料を駆使して探してみた。結果はよくわからない?
ゼミ仲間や同じ授業を受けている奴もわからない。ドイツもコイツもナチ絡みばっか調べやがる。そりゃメジャーどころだろうけどよ?(こんな事言っちゃぁ正直、実際に被害を受けた国の人々に大変失礼かもしれないけど、こちらからしたって単位という切実があるんだよ。)
そんな時、たまたま大学前の古本屋に立ち寄った時の事だ。歴史モノの棚に
「死者たちの4日間」という冊子を見つける。タイトルが気になり、手にとって、何ページかをざっと読みしていく。
内容は第2次世界大戦中の歴史的事件の真相、裏話を載せたもの。眉唾的な話も多かったが、戦争という異常事態こそが、虚構と狂幻の賜物だろう。
ありがたい事にページを進めていく内に独ソ連戦の項もあった。
題名は「ラスト・コサック」内容は第二次大戦終末期の
ドイツ軍でシュタウフェンベルク(大戦最終期にヒトラー暗殺を企てたメンバーの一人。
トム・クルーズが近年に映画で主演張った奴。)が編制したコサック騎兵、フィンランド、南フランス(親ドイツ派が多く住んでいた。)はたまた日本からなる“対ソ連戦外人部隊”の戦線を記録したものらしい。結構面白い。そうやって読み進める目が、
ある単語で止まった。
“ヒヴィス”…その外人部隊の通称…見つけた。これがヒヴィスか!歓喜と自分の発見を、
まるで秘密を、他に悟られぬように辺りを見回す。いつ開店するか、わからない
気まぐれ本屋に客の姿はなく、レジに座っているのは同い年か?こっちと同年代くらいの坊主頭の固め表情の男性。真剣な顔だけど、船をこいで、スリープナウって按配。
しばらくは立ち読みに事欠かなそうだ。手持ちの財布はキッチリ、ピッタリ夕飯代のみ。
はやる気持ちを抑え、ページをめくった。物語は1945年敗戦直後のドイツ、首都ベルリン…
●1945年:場所 ドイツ(首都ベルリン)
「いいか、戦友諸君。ちょび髭伍長殿(ヒトラー)は数日前にお亡くなりになられた。
ナチスはもはや無し。SS(親衛隊)将校達はべそべそ、泣きべそかいてやがる!
イワン共(ソ連の蔑称)のスチームローラー(戦車機械化軍団)とカチューシャ
(連装ロケット車)は我が国を散々、叩き潰し、男も!女も!子供も、老人までも!!灰と
肉の細切れにしてくれた。このまま行けば我がドイツは完全に滅びる。だからこそだ!
防がねばならん。カメラーデン(戦友諸君)我々は戦うぞ。ドイツ軍人の務めを果たせ。」
片目に包帯を巻き、将校用軍帽を斜めに被ったドイツ軍の中尉がド・イ・ツ語で
まくし立てる。
(だから…わからないって…中尉さんよ。だって俺等全員“外・人・!”だぜ?)
俺こと“ビクトル・田中”は、とりあえず会話の中にあった“戦う”という単語と
“イワン”の部分を聞き取り、まだ戦争が続く事を理解した。隣のコサック上がりと
ルーマニア兵士に身振りと、覚えて間もない片言ドイツ語で説明する。戦場で共に戦えば
最低限の言葉と動きで通じるくらいまでにはなった。
頷く二人は手持ちの銃を上げてみせる。“了解”の合図だ。それにしたって、
持ってる得物はどうよ?カルカノ騎銃にトンプソン機関銃。イタリア製とアメリカ製、
イタリア製はムッソリーニがまだドイツと一緒に優勢を気取った頃の贈り物物資の流用品、アメリカ製は12月最後の反撃作戦でストゥーモンからの回収鹵獲武器。バラバラ統一感のない兵器群を見て、心の涙が一筋…泣けてくるね!全く…逝きまくった中尉を尻目に俺達の部隊でドイツ野郎だけど面倒見がよく、同国人じゃないからって差別しない軍曹
(ちなみドイツ語以外も結構堪能。目元に2本の傷は伊達じゃねぇ)が説明してくれた
所によると、避難民でごった返す川を守るらしい。
今やソ連に占拠されたこっち側とは反対岸にみんなを渡すそうだ。前方に駐機してあったタイガー戦車が2台(工場で作り途中だった奴だから、やたらにピカピカしている。)
唸りを上げて移動を開始する。
兵士達は、ボロボロの軍服と工場卸しての兵器、鹵獲武器半々を携え、それに続いてく。
歩きながら国産シュマイザーMP40短機関銃に凍結防止グリースを塗る軍曹。
俺は近づき、声をかけた。
「軍曹さん。」
「どうした?ヤパイワ(このあだ名は、スラブ系と東洋の混血である俺の
人種から来ている)」
「配置に着く前に誘っときたい仲間がいるんだけどよ。」
「仲間?どこもかしこもソ連兵だらけだぞ?」
軍曹が銃を構える。逃亡を疑ってるのか?何処に逃げるっていうんだ?全く。
「そうだ、仲間だ。話じゃ、国会議事堂を守ってた部隊。恐らくまだ生きてるよ。なかなか使える奴等だと思う。ただ、真面目な性格だから、早く行かないと“ハラキリ”を初めちまいかねない。」
「ハラキリ?」
「軍人として恥をかかないようにっていう東洋の作法さ。だから急がないと。」
「・・・わかった。急げ!議事堂あたりは、もうイワン共が大挙してる。
奴等捕虜をとる気はあまりないらしいぞ?」
「ありがとう、軍曹!すぐに戻る。」
「それとコレを。」
「?」
軍曹が肩に下げたパンツァーファウスト(榴弾発射器)を1本投げて寄越す。
「T-34(ソ連戦車)にはコイツをぶち込め。」
俺は発射器を上げてみせ、瓦礫の町へと走り出した…
榴弾は本来とは違う使い方をした。議事堂前までの道のりは、ソ連の残党狩りが横行する町中を銃弾と砲撃の大歓迎に晒されながら、何とか躱しきり!踊るように飛び込んだ俺は
議事堂前にたむろしていたソ連兵共に、強力な一撃をお見舞いする。砲弾の塊に近い爆薬量が炸裂し、十数名の肉塊と臓物を空中に撒き上げる結果となった。
転びながらもトカレフ自動拳銃を抜いた生き残り将校の頭を、モーゼル小銃で素早く
撃ち抜く。ボルトを素早く引き、排莢を外に出す。次弾を送り込む手が止まる。
いや、止まらされた。こんな時に故障か?前方には3人の生き残りが銃を構えている。
雄叫びを上げ、小銃を先頭の一人に勢いよく投げつけた。
「グエッ!」
銃床が顔面を強打し、崩れ落ちる前に飛びついて、持っていたソ連製PPSh41機関銃を奪い取る。ドラム型弾倉に詰まっていた銃弾を残りの兵士に浴びせる。鋭い機械の連続駆動音を響かせ、服にいくつもの赤い点を作った男達が吹き飛ぶ。地面に壊れた人形のように
転がった彼等の死亡を確認するまでもなく、将校の服からはトカレフと予備弾倉、兵士達は
機関銃の弾倉と手榴弾を拝借する。更に機関銃は手元の1丁に加えてもう2丁、肩から
背中に引っ提げるのを忘れない。中に敵がいない事を祈りつつ、俺は銃弾で穴だらけの扉に飛び込んだ…
突入した議事堂内は略奪も破壊も一通り済んだ様子で敵の姿はなかった。そのまま進む
俺は、議事堂に続く広間を抜け、荘厳な雰囲気のドアを(何故か、銃弾の跡も傷一つ、
ついていなかった)重々しく開ける。そこから流れ込むのは最早、嗅ぎなれた死の臭い。
広がる景色に視界を巡らせてみれば…
女に子供、兵士(敵兵の姿もまちまちだ。)老人、高そうな服に身を包んだ奴もいれば、
何も着てないのもいる。それが折り重なり、死体となって議事堂中の議席や階段前に
積み上げられていた。正に終わりの風景、かつての繁栄を誇った千年帝国の面影は何処
にもない。
敗北の情感タップリな空気を吸った俺は、お目当ての人物を探して間を縫うように進む。
やがて議事堂ホールの真ん中あたりに軍刀を持って正座している東洋人達の死体を
見つけた時は…落胆が激しく心に響いた。彼等の多くは腹から大量の血が流れており、
中には軍刀が刺さったまんまの奴もいる。俺の半分は日本人だが、この行動は理解できない。
何故?そうも死に急ごうとするのか?
「お前は…田中?」
一人一人の顔を覘くように見ていた俺は、ふいに声がかかった事に、慌てて銃を構えるが、
聞き覚えある声に安心し、すぐに下す。生きていたか…おどけた感じで銃を下げ、
返事を返す。
「よぉ、三田村中尉!無事で何より。」
俺の日本語にカミソリみたいな目を、さらに細めた“三田村中尉”が静かに頷いた…
「すまない、私は行けない。」
目の前で刀を構え、地面に腰を据えた日本人将校を見て、俺はため息をついた…
ある程度は想像していたが、本当に固てぇな。全く…てか、そもそも
「中尉、ベルリンにあった日本人大使館は独ソ不可侵条約を盾に、同盟国であるドイツを見捨てたと聞きます。俺達の仲間も結構締め出しくらって怒ってましたよ。それが何故?
あんた達はここにいるんです?」
「木っ端役人と一緒にするな!我々は独軍の派遣将校だ。彼等の技術を学び、
本国に持ち帰る事が任務であった。その同盟の士が困窮とならば、戦いに馳せ参じるのは
当然の事。しかし、奮戦努力至らず…上官以下6名は、自分が市民の避難誘導にて席を
外した際に、先に逝かれた。後は自分も続くのみ。」
「そんな…だいたいオタク、まだ20歳でしょう?上官さん達はきっとあなたを避難民と
一緒にエルベ河畔に行かせたかったんだと思いますぜ?だから脱出しましょう。
向こうには1人でも多くの戦える兵士が必要です。」
俺の言葉に中尉殿は、わずかながらに眉を顰め、考える素振りを見せた。固いし、まっすぐときてる。全くたまんないね。この人は…年が近いってもんもあるが、余計なお節介を焼きたくなるってもんだ…
そもそも俺達みたいな外国人義勇兵の参戦理由は勿論、反共主義者やナチズムに
危機感と敵意を持って参戦した勇ましいモノもいるにはいるが、大抵の奴は戦火で
家族や居場所を失い、兵隊として徴用された“仕方なく戦う”奴がほとんどだ。
俺も御多分に漏れず、ソ連発足と同時に国外脱出した白系露西亜(帝政ロシア陣営の事)の日本人の合いの子、どーゆう扱いを受けるかはお察しだ。
中尉と会ったのは、撤退に撤退を重ねてベルリン入りをした俺達が休憩中だった時だ。
サイドカーにて戦線視察中の奴さんは車を止め、こちらに走りより、
ピッチリとした敬礼をくれた。続けて出た言葉は今でも結構感動モンときてる。
「異国の地で戦う同胞に敬礼を!自分は三田村中尉。よろしければ貴官の名前を聞かせて頂きたい。」
母の祖国の露西亜を追われ、父の育った日本には嫌われた。結局何処にも根無し草な自分に
声をかけてくれる奴がいた。それも、外・人・ではなく同国人としてだ。他から見りゃ
大した事ない出来事でも、個人の捉え方は、感情はだいぶ違うと言いたい。初めて“人”として居場所を認められる、この歓喜…
だからこの中尉殿を何としても地獄から連れ出す。何とかせねば…
「あのですね。中尉さん、ここは眠る場所です。日本では言えばツワモノ共が夢の跡ですよ。しかし、貴方は生きてる。コレとても大事。生きてる者の役目、それが軍人、防人ならば
やるべき事は一つでしょ?まだ生きてる者達を…市民を救う事です。違いますか?」
「……しかし、自分には上官達の後を追う義務が…(わずかに翔潤する中尉、脈あり!コイツはいただき!)」
「今の間! …… ←コレね!!悩むって事は、少しは考えてるんでしょ?助けなきゃって気が!乗る気があるんでしょ?死ぬのは何処でも出来ます。なら、戦場で行きましょう。
戦って死ぬのも、腹切るのも同じでしょうや。」
「・・・・・・・・」
ここまでの流れは良かった。問題はその後!腕組んで、考え始めちまった中尉さん。10分経過!黙って目を閉じて、仏像みたいになっちまってる。不味い、時間がないのに、この
真面目さん!こーなったら!…俺は中尉にもう一丁のPPSh機関銃を放ると、講堂を
飛び出す。ポカン顔の中尉さんの返事は聞かない。廊下にある死体の山を見回してみる。
何か、まだ生きてる奴!ちょっとくらい中身出ても人が生きてるのは、戦場でよく見た
光景だ。女でも!男でも、おばーちゃんでも!おじーちゃんでも喜んで!とにかくそんな
奴を引き摺って中尉の前に突き出す!そうすりゃ、あのクソ真面目帝国軍人の見本みたいな奴なら、絶対脱出に力を貸すだろう!そうすりゃ、半死半生の民間人も、中尉も何より
俺の目的が成就する。これぞ全員幸せの方程式、あったまいいぜ!俺ぇっ!!
邪だか、正義だか、最早、制御つかない戦場は何でも起きる。
そう、例えば今、目の前の廊下をヒランヒランなドレスを来た少女が、12時の時間までに家帰らんとアカンよぉ?
シンデレラみたいな感じでフワフワ走り抜け、その後を黒服の男達が追っかけてる事だってザラにあ…ねぇよ?何だ今の?連合軍?貴族?時代と状況的にないだろ!この状況!
だが、いい!どっちにしろ、コイツは使える。俺はニヤケ笑いを張り付かせ、中尉の説得に使えそうな“素材”約数名を追った…
黒服の男:「ようやく見つけました。ルドルフ・ヘスの残した遺産が本当にあったとは。
私達も甘かった。」
少女の声:「私はモノではありません。血の通った人間です。貴方達の飼い主、地下や宇宙、
あらゆる空間に追いやられた者達が、今さら私の何を危惧するというのです?」
汚れきった戦場に超場違いな黒服二人と同じくらい雰囲気違和感の少女が議事堂地下の
資料室でケンカばりの会話をしてる。後ろから忍び寄った俺は、以前に何処かの戦場?で
拾った冊子の内容を思い出す。確かあれは、陥落前のフランスで、空挺の米軍将兵の死体から拝借した雑誌。“ウィアード?ウィラード?テー何とか”とかいうオカルト
アンソロジー!あれだ!気になる作品タイトルは「メンインブラック(黒服の男)」正に
コイツ等にクリソツな状況。
加えて補足すれば、人間が身に余る知識とか技術を身に着けた時に現れる奴等。
何かバックには旧世界の神とかいるらしいけどそして喋ってる女の子!目の色よく見りゃ、虹色だし、真っ白お人形、オートマタ?フランケン成功バージョンの人造人間っぽいけど!…そして、この資料室、先程の会話からすれば“ルドルフ・ヘス閣下”の自室?
(今はイギリスで収監中。オカルティズムで鳴らした元ナチス・ドイツ副総統)とくれば
何だか、SF(空想科学!すっげぇ“S”ふしぎ“F”の略)ばりの展開、マジやばじゃん?
だけど!!…
(今の俺にゃぁ関係ねぇ…)
何だかぁ不思議な展開?今じゃん?狭い市街地にスチームローラーばりの大進撃!空を
見上げりゃ、朝はアメリカ、昼は英国、夜はソ連の空爆三交代!公共の建物は死体であふれかえり、片付ける奴もいない。ちょっとくらい異常な事だって、全然オッケー!
今なら、大猿がベルリン陥落の旗を振っていても、驚かねぇぞ?
心の咆哮を上げた俺は機関銃を握りしめ、ソ連製工業オススメの連続機械音を鳴らす。
銃弾が黒服共に吸い込まれ、絶命!…しない奴等が痙攣しながら、こちらを振り向く。
指やら耳やらを軽快に吹き飛ばしてるんだけど、全然動じねぇ。クッソうっ!不死身か!?
オマケにコートから抜き出した拳銃っぽいのは見た事ねぇ形。どう避けるかを瞬時に
脳から体に送信開始の俺に少女の
「頭を吹き飛ばして!」
との声が最善友好手段として素早く伝達された。銃撃を黒服の頭少し上に移動し、残弾を
叩き込む。吹っ飛ばす頭からは血でなく、黒い液体を飛び散らして崩れる二人。助かったか…?弾切れになった銃から弾倉を交換する俺に少女が近寄ってくる。
「あなた?外国義勇兵?それとも機関の…いや、助けてくれる者は何処にもいないか…
(少し悲しそうに目を伏せるけど気にしてる暇はねぇな。)」
少女の両肩を掴み、顔面を近づける。鑑賞に値する容姿だが、それは全て終わった後になるだろう。
「お嬢ちゃんの事情はどうでもいい。SFとかオカルト興味ねぇんだ!それに、この地獄は何でもありだろ?助けてやる!あんたを救う行為が、誰かを救うツール(手段)になるんだ。だとしたら、嬉しい話じゃねぇか?どんな人生歩んできたか知らねぇが、
それはここを出た後だ!後悔や生き方を考える事は後でも出来る!経験がある!
誇りある人生だったかを振り返る時間は、“まずは生きてから!!”だろう?違うか?」
一気にまくし立てる俺を、呆気にとられた点々お眼目2つが見詰めてくれる。数秒の躊躇い、だが、すぐに…
「うん。」
小気味よい返事と共に返してくれた。ノリいい子!気に入ったぜ。俺は、少女の結構冷たげな手(これもオカルトネタじゃ、よくある?らしい)を握り、議事堂に向けて、走り出した…
「5分前は死体だったのに?」
なんてキャッチフレーズを思いついてしまう程に議事堂内の様子は、歩き出した死体で
埋め尽くされていた。議長席に仁王立ちで立つ三田村は、軍刀の柄に手をかけて、
周囲の死者共を威嚇している。何てこったよ?全く。隣の少女が
「奴等、石を使ったな…」
とか、オカルティック専門用語を披露してくれるが、気にしない。ナチスがオカルトすらも武器として考えてたのは、全独軍周知の事実だ。懐から抜いた手榴弾の安全ピンを抜き、
2、3個を放る。爆発で吹き飛ぶ死者達に負けないくらいの跳躍で議席を飛び越え、中尉の隣に滑り込んだ。
「田中?これは一体?」
「今は考えるのなしですぜ?中尉殿。入口見て、あの女の子!お姫風、悪い黒服&ソ連軍+歩く死体に追われてる。助ける!軍人の務め!!コイツ等弱点、頭!多分!」
手短に説明し、片手にPPSh、もう一方はトカレフを持ち、銃弾をばら撒く。弾け飛ぶ
死体、撃ちまくる俺、少女を見た中尉が頷き、銃を肩に下げ、軍刀を抜く。
「続け、田中!」
「(やっと腹決めてくれたか!)了解!」
抜刀した中尉が通路に降り立つ。すぐに追手が!多種多様な死体達が立ち塞がった。
「御免!」
短く告げ、死体達を剣一閃、正確に頭のみを切り飛ばしていく。そのまま入口に続く階段を駆け上がる彼の後ろには、首なし死体の道がたちまち築かれていく。確か、陸軍中何とか
学校を出たとか言ったが?抜刀術を教えてくれる所って今時あるのか?考える間もなく、少女の前に辿り着いた俺達に驚く少女。(俺が一番驚いてる。この人、想像以上に
超つぇぇ!)中尉がキッチリとした敬礼を少女に送る。
「自分は三田村中尉です。これから貴方をエルベ河畔までお送りします。我々についてきて下さい。」
「は、はい。(半分勢いに流されている感じがある)」
そのまま俺、中尉、少女の順で議事堂を飛び出した。こっちの進むべき道を見ればソ連代表のT-34戦車が2台砲塔を向け、20名程の兵士達がこちらに銃を向けている。
「ストーイ(止まれ)※*‘+(多分、その後の言葉はわからんが、
銃を置け的な感じだと思う。)」
万事休す!と俺が頭を抱える前に、兵士達の間で爆発が起こり、どんどん吹き飛んでいく。
「上だ。」
中尉の言葉に見上げれば、議事堂隣の建物の上に並んだ黒服達が銃のようなものを発射している。正に混乱!だが、これを逃す手はない。すでに黒服達の攻撃は、こちらにも向き
はじめている。近くの地面に…主に俺と中尉の周りで小規模な爆発が上がり始めていた。
「行きますよ!お二人。」
前方のソ連兵達に突進を開始する。爆発に混乱しながらも、何人かの生き残りが銃を
こちらに向けるが、すかさず放った俺の銃弾の餌食となっていく。頭上の黒服を撃とうと
砲塔を仰角一杯に上げた戦車群が砲弾を発射する。地響きばりの振動音が全身を震わし、
建物の砕ける破砕音と、瓦礫が降り注ぐ。
靄の中で拾った、お皿みたいな弾倉付きソ連製軽機関銃DP28を乱射する。弾丸が人間と戦車の装甲を弾く手ごたえを感じながら、そのまま突っ込んだ。2台の戦車前に到着する
頃には敵兵は全て死体の山となっていた。俺を見て、上部ハッチを締めようとする兵士を
撃ち抜き、開けっ放しの入口に手榴弾を放り落とす。車内の戦果は後回しで、もう一台に
飛び突き、機関銃の台尻で同じくハッチを締めようとしていた兵士を殴り、中に向けて、
弾丸全てを撃ち込む。車内では邪魔になる機関銃を投げ捨て、拳銃を抜き、戦車の中に
滑り込んだ。生き残りの砲手を後ろからぶち抜き、砲塔ハッチから、自分の走ってきた後方を覗き込む。
中尉が少女をかばい、軍刀を抜いている。周りには生き残りの黒服が3人、躊躇いは
いらねぇな…44年のクールラントでは壊れたT-34に乗り込み、
トーチカ(砲塔付きミニ要塞の事)として使った事がある。この戦車は34シリーズでも
新しい型(85?って描いてあった)っぽいが、問題ねぇ。基本は同じだ。爆発性の高い
榴弾ではなく、装甲貫通に特化した徹甲弾を手で装填し、黒服達の真ん中あたりにめがけて発射する。鈍い砲撃音と同時に黒服達の上半身を吹っ飛ばした砲弾が明後日の方向に
消えた。ハッチから顔を出し、二人に声をかける。
「お二人さん!戦場タクシーのご利用は?」
乗り込んだ中尉達を確認し、エンジンを吹かす。動き出した戦車が合図のように議事堂が
崩れ始める。驚く俺達の横で少女が、静かに呟く。
「これで、良いの…」
ハッチから崩壊を眺める彼女に俺達は、何も聞かなかった…
「南の防衛線がイワン(ソ連軍)に突破された。将兵は弾薬とパンツァーファウストを
持って集合だ、ヤパイワにヤーパンの中尉さん!フラウ(お嬢さん)は急いでボートに!
安全地帯までお送りしてくれまさぁ。」
軍曹が人の良い笑顔で少女を促す。戦車でエルベまでたどり着いた俺達一行を咎める事も理由を聞く事もなく、しっかり対応してくれた。この上官に頭が下がる。ボートに向かおうとした少女が振り返り、こちらに戻ってきた。訝る俺と中尉、慌てる軍曹。
軍曹:「どうしたんすか?」
少女:「少しだけ、ビクトルさん、中尉さん。それに軍曹も。貴方達は何も聞かなかった。
混乱する煉獄の中で場違いな服装(自覚はあったんか?と新鮮な驚き)に自分達の
範囲を超えた出来事にも関わらず、その理由も聞かない。無償で人を救う精神。
勿論、ビクトルさんは、自身の目的と言ってくれましたが、それにしても人の
許容を超えていると思います。何故ですか?何故、助けてくれたんですか?」
この時のタイミングは絶妙だったと思う。全員が(俺も含めて)間髪入れず、答える。
軍曹:「最後の悪あがきの戦場、一人でも多く助ければ兵隊の華ってもんでさぁ!」
中尉:「人を助ける事が防人の本懐、そこに理由はいりません。」
俺:「まぁ、俺達ガ・イ・ジ・ンはさ!国が違う分だけ、色んな視点とか、正規の奴らが
気づけない者を助ける事が出来るんじゃねぇか?的な感じでね。」
爆発と砲声が上がる後方を背にビシっと敬礼を返す俺達。
少女が微笑む。うっすらと目を細めた彼女が口を開く。
「これから、大きな混乱の時代が続きます。そんな時に貴方達のような存在が必要に
なるでしょう。国も軍隊も関係なく、声なき声を聞き、救える貴方達が。だから…
生きて下さいね。」
彼女が細くしなやかな腕を俺達に、それぞれ差しだし握手をする。先程の冷たい手とは
違い、暖かいモノが伝わってくるようだ。
そのまま踵を返し避難民に紛れた彼女を最早、見つける事は出来なかった。爆発と怒号に
向き直る。
軍曹:「生き残ってだってよ?嬉しいねぇ。」
俺:「いや、難しいだろ?この状況(とっても現実的な答えで申し訳ないが)」
中尉:「人々を守って、死ぬ。墓碑銘に刻まれる功績だ。逝くぞ。」
抜刀する中尉に、俺達は笑いながら続いた…
●2018年:場所 日本
本によれば、その後“ヒヴィス”達の戦いはチェコの市民軍の独立戦線、中東での
イスラエルとパレスティナの戦役、アフリカ、アジアの解放戦線に合流と転戦を繰り返していく。彼等は圧政者達が謀る代理戦争の中で、常に“民衆”抵抗者達に味方し、
戦い続けた…ビクトル平田達の消息などの細かい記載は45年のベルリンで
止まっている…彼等はどうなったのか?謎の少女は何者か?何処かの戦場で人知れず
死んだのか?それとも…
本を買う事に決めた。レジに向かう俺の前に、新たに店に入ってきた客先に並んだ。どちらも外国人だ。1人は目元に2本の傷がある白人。もう一人は日本とハーフっぽい外人。
「中尉殿」
レジにいる細めの青年に声をかける二人。ゆっくり目を開ける彼に声を揃えて告げる。
「出番ですぜ?」
頷く青年。ハーフがこちらに振り返り、持っている本を見て。ニヤリと笑った…
(終)
「概仁(ガイジン)~赤い抵抗者達~」 低迷アクション @0516001a
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます