降車

新幹線のホームに降り立つと、少女はまた別の切符を僕に見せた。

「どこで乗れるか、分かりますか?」

 在来線の切符だった。

「ここからは乗れません」

 僕がそう言うと、少女はこの世の終わりのような顔をした。どうやら、僕の言葉を、岡山駅からは乗れないと解釈したようだった。

 僕は慌てて、

「下に降りて、電車の乗り場に行けば、乗れます。付いてきて下さい」

 と言って歩き出すと、少女は頷き、ひょこひょこと後ろに着いてきた。その間、

「どこまで行くんですか?」

「あ、徳島までです」

 僕たちの会話はそれだけだった。

 一番ホームの階段の前まで来た。 数分後に、彼女が乗る電車が来る。

「今日はありがとうございました」

 向かい合う僕たちの姿は、傍目からはカップル同士に見えたかもしれない。現に、チリチリとした目線を感じていた。

「気にしないでください」

「それじゃ」

「うん」

 僕は踵を返した。お母さんたちはすでに車で迎えに来てるらしい。きっと今晩はレストランだろう。今日ばかりは、僕が一番高いステーキを注文しても許してくれるはずだ。きっとそうだ。

「あ、あの!」

 後ろから声が聞こえた。振り返る。少女は別れた位置から動いていなかった。

「試験、絶対合格してます!」

 返事のかわりに親指を立てる。少女が手を振った。僕も手を振り返した。

 そして一歩、また一歩。

 僕たちは反対の道に歩き始める。振り返ることは、なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新幹線 カイラクエン @kawayama_kirin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ