終末(体験版) 【その4】

---録音再開---


僕も「えっ?」ってなって。突然何を言い出したんだと思って。言葉は出なかったんですけどそのままオジサンはしゃべり始めました。ええ。衝撃的だったんで一字一句覚えてます。続けますね。


「パラレルワールドってのはこの世界じゃない並行した世界なんだよ。ぼく達がいる世界以外にも何個も別の世界があるんだ。うん」

「この終末ってゲームはね。誰が作ったのかは知らないんだけど、三つほど、そのパラレルワールドに干渉することができる装置みたいなんだ」

「まず一つ。『対象の世界を強制終了する』機能。ただ突然・・・それこそゲームの電源ボタンみたいにブチっと切ったらダメだからね。何かしらの理由をつけないといけないんだろうね」


ええ。僕は黙って聞くしかなかったです。Tシャツの裏で冷や汗が通ったのを覚えてます。

僕が返事をしなくてもオジサンは淡々と続けました。相変わらず笑顔で。


「もう一つは、『対象の世界に起動者をワープする』機能。ゲームをスタートした人を対象としたパラレルワールドにワープさせて、その世界の住民にしちゃうんだよ。多分ね」

「最後の一つは『ワープした起動者を現実世界に戻す』。どんなに時間が経っても起動から5分後くらいの現実世界に戻すようになってるみたいなんだ」

「それで一セット。その後その世界は終末を迎えて、パラレルワールドが一つ減る、ってなことなんだと思うよ」


ん、ああそうですね。僕も思いました。「ワケわかんない」って。

僕もオジサンに抗議しようとしました。

「荒唐無稽だ」「『思う』とか『みたい』とか曖昧なことばっかり言いやがって」「確証はあるのか」ってな言葉が出かかるんですけど。出ないんです。

リアリティがあるんですよ。信じられないかもしれないんですけど。

オジサンの皺が寄った目が、全然「嘘だよ」「作り話だよ」って言ってくれないんです。


その後はあんまり覚えてません。はい。気づいたら家に帰ってました。

しっかり覚えてるのは、僕の部屋に僕がいて、椅子に座ってボーッとしてた時からですね。

んで、床にゲーム機が転がってました。ああ、はい。「終末」の差さったゲーム機です。

そのゲーム機を手に取って。横についてる電源ボタンを「ON」にスライドさせました。


聞きなれた8bit音楽と一緒に、

「終末」「(体験版)」

「あと 1 かい」

「PRESS START」

って書いてました。


僕はもう、STARTボタンを押すくらいしかできなかったんですよ。


---録音終了---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

インタビュー 第一回 橋土井 紫 @hashidoi_yukari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る