始まったのは黎明だった。

轟音が鳴り響き、自宅で迫り来る危機を感知しその時を待ち構えていた啓介の耳に届いた。遠くない場所で爆薬と銃火器による攻撃が行われており、それは明らかにR1の持ち主に向けられている。


啓介が外へ出た時に拡声器から発される大音響の声が響いてきた。周囲の住民も何事かと家屋から出てきている。


『我々の兵器を預かっている者がいるはずだ、出てこい。近くにいるのはわかっている』


西の方角、田園都市と呼ばれている住宅地がある方向からだった。


「あいつらはこちらの機能も名前も知らないんだな」


「はい」


啓介は大事なことを思い出すとスマホを取り出してメールを打ち始める。【もう二度と会いたくない。お前に飽きたんだ。さよなら】ここから十八キロ先の街に住む、恋人の西野恭子宛のメールだった。彼はメールを送信するとスマホを折り曲げアスファルトに投げ捨てた。


「いいんですか」


「人間を捨てないとだめだろ…… モードに入ってなくとも時間が経つといろんなことがわかってきた……なんでかな? もうすでに身体能力も認識力も人類を越えてるんだが。どうなってるんだこれは?」


ざっくりとだが攻撃を受けた場所のほぼ更地となった現状、敵の位置や戦力の規模まで感覚が掴んでいる。何かが体の奥から湧き上がってきていた。


「私も驚いてます。R1とあなたの相性の良さにね」


啓介は駆け出し、敵部隊の待つ更地に向かった。

彼は稲妻の速さでその端に到着すると、そこからは歩いて敵モビルワーカー群に進んでゆく。


モビルワーカーとは戦闘パイロットが搭乗して操縦する小型戦闘ロボットで全長一○~一五メートルの機体が多く、日々進化と成熟をつづけている主力の兵器である。両腕に各種銃火器、小型ミサイル、レーザー砲を装備し、細かな動きも可能で格闘戦も得意としている。十六機の機体は啓介に気づいて動きを止めた。


沈黙のまま、歩みを進める地球人の様子を静観しているロボット群の中から一機が飛び立ち、啓介と三メートルほどの距離をあけて彼の前に降り立った。


それは黒い武骨な姿であった。全体的に直線で構成されたデザインでまとめられており、肩、腕、脚といった部分に目をやると縦長の印象を見る者に与える。俊敏さと量産型らしい荒々しさが漂う、兵器然とした立ち姿である。


コクピットのカバーが上がり、つづいてキャノピーが開いて搭乗者が生の姿を見せる。毛のない猿のような外観の顔がそこにあった。


「お前が預かっているのか?」


「ああ」


「では渡して貰おうか」


「目の前にいる。俺がお前らが探してる兵器そのものさ。融合し一体となってる。つまり渡しようがない」


しばしの間があり、搭乗者が言った。


「それだと我が軍に入るか、でなければ破壊するしかないが……」


R1が戦闘モードに入る。

オーラの爆発と爆風が起き、その時すでに啓介の姿はなく、彼は奥に控えた一機の胴体にクレーターをうがっていた。コクピットは丸ごと潰れ、モビルワーカーは細い煙を立ち上らせ停止。全身に青いオーラをまとう啓介の右肘が衝撃波と共に叩き込まれていたのだ。


それは軽く放たれた打撃であった。次の瞬間、一斉射撃が彼を襲い、とどめとばかりに小型のミサイルの群れが撃ち込まれ、大きな爆発を起こしたが、

R1と化した啓介は無傷だった。レーザーが初めて使われ彼を襲う。しかし彼のオーラはそれを吸収した。自分のエネルギーに変換するように。


啓介は敵モビルワーカーを一体、一体丁寧に潰していく。

正面から、右の脇から、左の脇から、彼は胴体の奥にあるコクピットを外装の上から潰していく。


仮に遠隔操縦タイプの機体が混じっていたとしても制御装置は胴体に位置しているのでそこがこの兵器の弱点だった。拳がふるい、肘がふるい、膝がふるい、啓介の速度は敵の抵抗や防御を無効にし、潰れる金属音が更地に響きつづけた。元は住宅地だった更地に。


四分ほど過ぎると残りは最初の一体──啓介に声をかけた一機だけとなった。

彼がこの部隊のリーダーであることは遠くからでもわかった。啓介は並外れた戦士は最後にとっておく算段でいたのだった。


対峙する啓介が言った。


「逃げないんだな」


スピーカーから音声が届けられる。


「猿が……、」


「その猿に殺られる気分はどうだい?」


「それは我々のテクノロジーだ…… いい気になるな、下等生物が……!」


その刹那、啓介は消え、風のように敵の背後に回った。振り払う左のバックブローが彼を襲った時、彼の姿は敵の正面にあった。

オーラをまとう右フックが周囲に衝撃波を放ち、地面が震え、モビルワーカーの胴体は二つにちぎれて地に吹き飛ぶ。


──終わりじゃない。まだ数限りない機体が上にいる……! どこかで俺には限界がくる。それでもいいさ。限界までやってやる!


啓介は無数の敵機が舞い降りてくる光景を脳裏に描いていた。


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