メッセージの音声が流れ、啓介は神妙な表情で耳を傾けた。


『私はアルフレッド。科学者だ。国営軍事企業の開発チームに所属していた。我々の星では二つの軍事国家が兵器の開発競争に明け暮れていてそれは四○年を越えてつづいている。近年我が母国は新たな野望を抱いた。この太陽系第三惑星の植民地化だ。それは我々の星の歴史の中で乗り越えてきたはずの行為……過去の行為であったはずなのに。母国の愚かな政府はその歴史を外宇宙で繰り返すつもりなのだ。


私は完成させたばかりの新たな兵器をそんな愚かな政府に渡したくなかった。君が腕にしている小さな機械がそれだ。……私はこれまでの自分の行いを後悔しているが、その機械に関しては違う。


政府の計画を知ってから、こちらの人類に合わせてさまざまな調整を施してきた……R1は私の思想信条が結晶となった新兵器だ。君たちが使えるようにしてある。それを使って侵略に対抗してくれ。


名も知らぬ地球人よ。

我々の文明には“光の巨人”の神話があってな……浅はかな知識で申しわけないがそちらにも同じような神話があったと思う。

わかるか? 同じ、もしくは通じ合う神話を我々は共有しているのだ。だから私は君たちを、私の思想信条において兄弟だと思っている。もし、私の結晶R1が侵略を防ぐ力になれたとしたら幸いだ。……あとは、シグナスから詳しい説明がある。君の健闘を祈る』


──あいつは科学者だったのか。


啓介はシグナスに声をかけた。


「地球の人間にお前を渡すために……彼は命がけでやって来たのか? 国を捨てて。いや星まで捨ててさ。なぜそうまでする」


「罪の意識でしょうね。こちらへ攻めてくる兵器の大半が、彼のいた開発チームによって生み出されてますから」


「で、お前んとこの政府はお前を取り返そうとしているわけだ」


「はい」


「同時に俺も標的ってことか。……詳しい話を聞かせてくれ」


来たる敵戦力、その兵器の詳細、R1の基本的な機能、注意点等々、啓介はシグナスから二○分近くレクチャーを受けた。


「一言で言えば超人化システムってこと?」


「そうなります」


「生体エネルギーだか何だかが増幅されるにせよ、素人がいきなり戦えるのか?」


「戦闘モードに入るとあなたの脳内にこちら側の統合された情報が流れ込みますから、自分に何ができるか何をやるべきかは一瞬で理解に至りますよ。つまりそれは別の言い方をすれば強制的に戦士となる、ということでもあります」


「俺じゃなくなるのか」


「本能の部分が表に出てくるという意味ではそうです。理性をどれほど維持できるかはあなた次第ですよ。私は動作の制御を担当しますがあなたの内面までは扱えない」


「実戦の前に試せないのかな」


「モードに入れば私たちの居場所が掴まれてしまいます。暗幕や結界は意味を成しません。不安でしょうが信頼して下さい。R1は通常兵器を弾き、主力戦力モビルワーカーの殲滅を求めた設計になっていて、その点では完成された機能を備えています」


「断るって選択肢は用意されてないんだな」


「そこは申し訳なく思います。戦いたくなければ外して下さい」


外す気にはならなかった。ブレスレットの影響によって好戦的な傾向に導かれている自分を自覚するとしても、何より彼自身が侵略に対して怒りを抱いていた。


──そんな理不尽なことがあるか。殺されるか、奴隷にされるか、新たなルールに従えと命じられるか。どれもお断りだ。戦えるなら戦うさ。


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