第5話 初ログイン

『ろぐいん』



 唱えた瞬間に周囲の風景が変わったわ。

 これがゲームの世界なの?

 まるで旅行に行ったみたいな感じ。

 いつもと違う風景。

 いつもと違う雰囲気と匂い。


 自分を見てみると生成のワンピースにカーディガン。左腕に蔓かごを持ち木靴を履いている。

 あら? このカゴは何かしら?

 左腕にぶら下げていた籠の中をみるとチャリチャリという音のする巾着が入っている。窄めたその口を開けると色々な色のコインが入っていて、そのコインには1とか10とか彫ってある。

 あら。お小遣いもあるのね。コレでお買い物もできるわ。

 その下には固い細い棒のようなものが。鞘を抜くと小さな刃がついている。果物ナイフかしら。


 自分のいる場所はときょろきょろと周りを見まわしてみる。


 周囲の感じからして、ここは公園なのでしょう。

 ベンチや噴水、花壇がみえるわ。

 遠くを見ると、ここを中心に四つの道が見えます。目がよく見えるって本当に嬉しい。

 遠くまで見えるのよ?

 そして近くもよく見えるの。


 周りを見ると色んな花が咲いている。まるで季節がごちゃごちゃになっているよう。

 足元にはタンポポ。

 花壇にコスモス。

 あの木の根元には水仙……。


 ここは公園なのよね?

 楽しませるために色んな季節の花を咲かせているの?

 あら、こんな所にローズマリーが、あっちにはラベンダー?

 ごちゃまぜに植わっているけど、このままだとただの雑草ね。

 あちらこちらに、蔓延るハーブが見えるの。

 ミントなんて蔓延る代表なんだけど?

 タンポポも国によっては生やしているだけで罪になるって聞いたことがあるわ。

 公園らしき所をグルグルみて回るだけで楽しい。

 あら、こんなところに十薬が……。

 摘んで臭いを確かめると確かに同じ臭い。

 これは実際と同じと考えていいのかしら?

 それとも似せているだけ?

 分からないわ。

 人がいる所で聞いてみれば何かしらわかるかしら。

 

 まるで他の国に旅行に来た気分。久々に心がうきうきしているのがわかる。

 旅行なら泊まるところも必要な気がしてきたわ。あ、いいえ。私はここで生活してみるように言われたんだったわ。そういう事も考えないと。

 暮らす場所、生活の糧、人との繋がり……

 しばらく忘れていたことを思い出した。ええ、生きるってこういう事だったわ。


 きょろきょろ見回してみるとこの公園らしきものを出たところに、お祭りのような屋台がいくつも出ているのがみえる。

 一番端は……えっと焼き鳥の大きいものに見えるの。でもね、一つ一つのお肉が大きいわ。それに匂いがちゃんと感じられるのよ。本当にそこにあるよう。お腹がすいてきたような気もするわ。

 でもこのお肉は何のお肉なのかしら? 鶏の匂いとは少し違う気がするのよ。何か別の獣のような匂いなの。ちょっと気になるわ。

 籠の中にはちゃんとお金もあるようなので一つ頂いてみましょう。


 一番端にあった屋台の前で店主らしき方に声をかけてみましょう。


「おひとついただけるかしら?」


「ほいほい。どれがいいんだ?」


「どれ? こちらとそちらでは何が違うのかしら?」


 色の違いぐらいしかわからないのでお店のおじさんに聞いたわ。

 少し赤みの強い肉と白っぽい肉が右と左に分けられて焼かれているの。そしてどちらも平たい串に刺して焼かれてる。

 平たい串って珍しいわね。


「赤い方はブルで白い方はピグだな」


「ブルが赤でしろいのがピグね?さっぱりした感じのはどちらかしら?」


「どっちも肉だぞ?まあ、どっちかというとピグの方だな」


「それではピグの串を一本いただきたいわ」


「ピグ串一本10シルだ。まいどありっ!」


 10シルと言われても分からなかったので聞くと、十円玉のような銅色のコインの10と彫って有るのがそうだと教えて貰いました。


 私は10シルを渡し、串肉を受け取った。そしてこの街について聞きたかったことを尋ねた。

 この街に住んでいるいろいろな方に聞いていってみましょう。


「あ、あの。この町に来たばかりなのだけど。泊まる所やお店のおすすめはありますかしら?」


「おや? 来たばかりだって?じゃあ異邦人なのかい?」


店主のおじさんに聞かれました。


「ええ、先ほどこちらに着いたばかりですの」


「そうだなあ。あんたみたいな人はちょっといいとこが似合いそうだ。だったら泊まるならヤドリギっていう宿屋が綺麗で店主も丁寧だぜ。ちょっとお高いがな」


そう言いながら自分の店の通りの奥を指さして教えて下さりました。


「ありがとうございます。では後ほどそちらの宿を訪ねてみますね」


 そう言って店のそばから離れて……

 手に持っていた串をみた。

 そしてそれを食べようとして。左手にはカゴがある、右手には串が。見回しても座るようなところが有りません。串をどこで食べればいいか悩みます。ただいま両手が塞がっています。


 仕方ないのでそばにいるはずのナビに聞くことにしました。こちらの作法なんてわからないのですから。


「ナビ。この串焼きだけど、どうすればいいのかしら?」


「セツ?どうすればとは? 具体的に質問して」


「どこで食べればいいのかしら。座るところが無いのだけれど。座れるところって公園のベンチぐらいなのだけれど。あの場所で食べればいいの?」


「別に歩きながら食べてもいいと思うよ?」


「それはお行儀が悪いとおもうの」


「誰も気にしないよ。あっちを見てごらん。食べ歩いているだろう? それも一つの楽しみ方だよ」


「これを包むものとか無いの?」


「という事は今、食べたいわけじゃ無いんだね?」


「ええ。ものを尋ねたのに何も買わないのはダメだとおもって」


 そうか……今はインベントリの機能をつけていない。


「包むものも自分で探してね。存在はするから。でも温かいうちに食べるのもいいと思うよ」


「そうね。冷めちゃったら固くなるのかしら……食べ歩きが悪いわけじゃ無いのね?」


「この世界では誰も気にしないだろうね」


「わかったわ」


 そう言うと、セツは持っている串焼きに口をつけた。


「あら。ちゃんとお肉の味がするわ。コレは豚肉なのかしら」


「セツ、またシステム的に分からない事があれば聞いて下さい」


「ええ。ナビ、ありがとう」


 私はぶらぶらしながらその串のお肉を食べ終わると残った串をどうしようかと考えた。ナビはシステムで分からない事を聞くだけにしないといけないのよね。それではこれを売っていた方に聞いた方がいいと思ってまた屋台に引き返した。

そしてそれを尋ねると、屋台のそばにあるゴミ箱を指さされてゴミは焚きものになるからこういうところに捨てるのだと教えていただいた。なるほど、先ほどもこの方に聞けば良かったのだと納得した。


 さあ、これからは街の人々に何が有るのか聞いてまわりましょう。

 

 あら、こちらの屋台には果物が有りますのね。

 飲み物も売ってますのね。

 あら、使いやすそうなカップだこと。

 「すみません。こちらの果物はなんというのでしょう? どうやって食べますの」

「その飲み物はなんですの? 果物の絞りじる? ジュースなのね。おひとつ頂ける?」

「すみません。そのカップはおいくらですの? あ、あと本や雑貨はどちらにあるかわかりますか? こちらに来たばかりで教えていただけますか」


 皆さんに声をかけて色々な事を教えてもらったわ。

 そうして宿屋を見つけました。

 

『ヤドリギ』そこにはそう書いてあった。そばに宿のマークと教えられた家と扉がデザインされた絵が掲げられていた。


 ドアを開けると入ってすぐにカウンターが有り、そこには若い娘さんが立っています。屋台のおじさんにここがいいと聞いてきたというと、明るく笑いかけてくれる。いい笑顔だわ。そう思った。

 とりあえず七日分の料金を支払うとそのまま部屋に案内してくれる。これでまずは泊まるところを確保したわ。夜はゆっくり休みたいですものね。

 部屋の中を見回すと。ベッドに机と椅子が一脚。それと小さなクローゼット。部屋には水回りはない。そういえばトイレも無いわね……

その時にはどなたかに聞きましょう。年寄りは近いのだけれども大丈夫かしら。


 部屋だけをみたらすぐに出かけると言っておいたので、どあの所で宿の娘さんが待っていてくれました。

 彼女にこの街のだいたいの店や教会等の大きな建物の位置も分かりやすく教えてもらい、鍵を渡し行ってきますと告げて宿を出た。


 宿から出ると左手に向かって歩き始める。こちらの方に本を売っているお店が有るのですって。

 歩きながら町を散策する。道の両側には小さなお店がひしめき合っているのよ。

 カップや皿が店先に置いてある店、金物が置いてある店、古着が立て掛けられている店、そして植物と瓶が描いてある看板のお店は薬屋さんでした。

 色んな店を見て回っているの。中に入っていろいろ尋ねたり、店先でお話ししたり。楽しいわ。久々のウインドウショッピング。窓は何処にも無いのだけれど。

 あ、あれは……


「ごめんください。こちらはどんな本が置いてあるのかしら?」


 中から老人が出てきて胡散臭げに私を見た。


「ああ? 見ればわかるだろう」


 低いだみ声で答える店主にむかい丁寧に尋ねる。

 こういう人にこそ丁寧に接しなきゃね。知り合いでも何でもないのだから。


「すみません。こちらにこの辺りの地図と草花の本とかってございますかしら。できたらこの国のお話などもあればいいのですけれども」


「地図は中央にある冒険者用のギルドか商人用のギルドに行けば買えよう。ここに有るのは薬草と魔法使い用の本だけじゃな」


 こちらに買う意思がある事に気づいてもらえたようです。地図が買える場所を教えて頂けました。そしてこの辺りに生えているという薬草の本と、食べられる植物の本を示されました。魔法使い用の本もとても気にはなったのですが、示された金額を聞いて諦めました。薬草の本が500シル植物の本が200シルもしたうえ、それは安いものでも2000シルもしたのです。本代だけで七日分の宿代と同じです。がっかりしていると薄い一枚の紙をおまけでつけてくれました。無属性魔法の使い方って書いてあります。有難い事ですわ。


 かなりお金が減ってしまいました。

 でも薬草は見つけてギルドに持っていけばお金になると薬屋さんで聞いているので何とかなるでしょう。あらなるのかしら?

 まあ、宿代はもう支払っているので後は食べたりするだけですものね。


 本屋を出た私はまた初めの公園に向かう事にしました。 

 まずは気になっているあの公園の植物が私の知っているものと同じかどうか本で調べてみましょう。


 小さなピンクの花をつけているこれはタイム? いいえ、本によるとこれはチメ草といい薬草の一つなのだとか。

 こちらのミントに似た草はハカ草。こちらも薬草の一つ。

 水仙は根の部分に毒を持つナル花。

 どうやら似ていても名前も使い方も違うかもしれないのね。気をつけなくちゃ。

 色々な草花を本を見ながら見比べていきます。


 ピンポーン!


 何か音が鳴ったような気がしましたが、キョロキョロ見回してもどなたもそんなそぶりが見えません。きっと気のせいね。


 本を読むとどうやら町の外の草原には薬草が生えているとの事。

 だったら採取しに行ってみましょうか。

 えっと外に行くには……とキョロキョロ見回すと門が見えます。

 あ、あそこから町の外に出られるのね。

 さあ、歩いていきましょう。レッツゴーです。

 

 街との境に大きな門がありました。その門のそばにはがっちりした体つきの男性が立っています。

 本当にここから出ると街の外になるのか聞いてみましょう。

 

「こんにちは。街の外に出るのはこちらで良いのかしら?」


 男性はこちらを見て首を傾げて言いました。


「俺はこの街の門番だ。あんたを見たことが無いが、何か身分を示すものを持っているかい? それがないと入る時に銀貨一枚(1000シル)かかるが大丈夫か?」


 ビックリしました。町に入るときにお金がかかるなんて。

 門番さんに聞いたら身分証がもらえる所が分かるのかしら。


「あの、私、身分を示すものなんて持っていないわ。身分証ってどこで貰ったらいいのでしょう? 今日こちらに来たばかりですの」


 そう聞くと指で方角を指しながら彼は答えてくれました。


「街の真ん中に冒険者や商人のギルドの建物があるから。そこに登録をすればギルドカードが発行されるはずだ。それが身分証になるからそれを持ってきな。年から見て商人のギルドがいいだろう」


 年寄りだから商人のギルドなの? よく解らないけれど、確かに私は冒険するような年では無いわね。


「ありがとうございます。ではまた後程きますね」


お礼を言って門から離れて街の方へ戻っていく事にしました。


ピンポーン!


振り向いて歩き出そうとするとまた音がなりました。

何の音なのでしょう。気になります。

これはナビに聞く案件ではないでしょうか。だってよくわからない音は周りに聞こえて無いようなので、システムとやらの事ではないかと思うのです。

落ち着くためにも公園で座ってからナビに聞くことにしました。



ベンチに座ってからナビを呼び出します。

そういえばすてーたすっていうと自分の状態が見えるって言ってたわね。


『すてーたす』


あら? 聞いていたのとは違うような気がするわ。


「ナビ、何かわからないのが掲示されたのだけど?これはなにかしら。」


 私がナビに指さしたのは自分のステータスボードのスキル欄だった。


 スキル 【鑑定】new!

     【手技】

    【無属性魔法】

    【⠀】

    【⠀】



「あれ?観察スキルが鑑定に変更されてる?」


 ナビがびっくりしたような声でいう。あなたがビックリしてどうするのよ。


「セツ。先ほどから立ち止まって何かをしていたが、何をしていた?」


 ナビが私に聞くの?後ろで見てたんじゃないの?

 行動は把握しているようなのに。


「えっ?あ、あれは色んな草花があったので一つずつ観察していたのよ。よく分からないけど基本の能力があるのよね?」


 観察って言ってたような気がするのだけれども。


「あ、ああ。スキルの事なら確かに基本の能力だが。他には何をした?」


「本当の世界にある花とよく似ているから、何かなと考えながら観ていたわ。菫やタイム、タンポポとよく似ているの。違う植物もあるから、何と似ているか考えてはいたわ」


 自分の行動を思い出しながらナビに答える。


「他には何をしていた?商店や宿屋、本屋では何をしていた?」


 何を聞いてるのかわからない。ごく普通の事しかしていないと思うのだけれど。


「えっ?旅行にきたらまずは泊まる所の確保でしょう?あとは色んなお店を見てたわ。それに本屋さんで魔法についての本と植物図鑑を買ったの。これで私が知ってる植物と見比べる事が出来るわ。それでね、お薬屋さんで薬の素となる薬草を採取してきたら買い取るって言われたの」

 

ね。ごく普通の事しかしてないでしょう?


「先程、街の外に出ようとしたのはそれでなのか」


「そうよ。でも外に出るなら身分証を持たないと、入れなくなるって番人さんに言われたわ。それで身分証ってどこで作ればいいのかしら」





所持金:1560シル

持ち物: 蔦のバッグ、水袋、布袋、本二冊、説明書一枚、木のカップ、木皿

武器: 初心者のナイフ

防具 : 村人のワンピース、村人のカーディガン、村人の木靴


スキル 【鑑定】new!

   【手技】

   【無属性魔法】

   【⠀】

   【⠀】

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初心者マークのVRMMO~まごといっしょ! こーゆ @kouyu421

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