膏薬売り

安良巻祐介

 

 毎晩毎晩家の外をやかましく声を上げながら通り過ぎる椿膏薬の坊主行商にうんざりして、死んだ伯父が大昔に旅先から送って来て押入れの奥に埃をかむったままになっていた古いお札を見よう見まねで門柱に貼りつけておいたら、その日の宵の口、いつものようにがらんがらがらと近づいて来た車輪の軋みに混じってきゃっと甲高い悲鳴が響き、陶器が砕けるような音がしたかと思うと、嘘のように森閑としてしまった。

 やったと思って外に出てみると、月の銀光線が静かに差しこむ玄関前、花の腐ったような匂いと共に、こけし人形の坊主頭だけがひとつ、道にころんと転がっていた。

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膏薬売り 安良巻祐介 @aramaki88

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