これ以上もうついてこないでよ!!

ちびまるフォイ

見に覚えなのないカリスマ

仕事をしていなくてもお腹は減るようでコンビニへ行った。


「お待ちのお客様、こちらのレジへどうぞーー」


レジのカウンターにおにぎりを置いて精算を進める。


「お待ちのお客様、こちらのレジ空いていますよ」


よほど混んでいるのか店員はレジをフル開放して案内を促す。


「お客様、こちらへどうぞーー」


やけに案内がしつこいな。

おにぎりを持ってコンビニを出ようとしたとき、自分の後ろに行列ができていた。

空いているレジには目もくれず、俺の後ろをぴたりマークしていた。


「えっ……な、なんだ!?」


俺の後ろに並ぶ人たちは年齢も性別もバラバラ。

それどころか手ぶらで俺の後ろに並んでいた。何をしに来たんだ。


「ありがとうございましたーー」


コンビニを出ても行列はなぜか俺の後ろに続いていた。

角を曲がっても、横断歩道を渡っても、道路を横切っても。


俺の背中をひな鳥のようについてくる。

ここは勇気を出して振り返った。


「あの! どうしてさっきから俺の後ろをついてくるんですか!?

 誰かに頼まれたんですか!? 嫌がらせならやめてください!」


「……」


俺の後ろ最前列にならぶおじさんは何も答えなかった。

おじさん以降のたくさんの人も何も反応しない。


「なんで黙ってるんですか! そういうドッキリですか!?」


「…………」


「おおかた、なにかの撮影とかでしょう。動画撮ってるんですよね!?

 ネットのおもちゃになってたまるか!!」


俺はかけっこのスタートのポーズを取り全力疾走で列をぶっちぎった。

これでも学生時代は陸上部に所属していた。

よれよれのサラリーマンがおいそれと追いつけるわけがない。


「よし! 引き離してやったぜ!!」


わざと入り組んだ道をなんども曲がることで俺の位置が特定できないようにした。

GPS探知も警戒してケータイの電源も落としている。


「……追ってきてないみたいだな」


俺の後ろに並んでいた人たちはもう誰も見えなかった。

距離的に追いつくことはもうできないだろう。

しっかり安全を確認してから別のとおりに出た。


「ふぅ、まったく。悪ふざけもいい加減にしてほしいな」


コツコツコツ。


「……?」


明らかに俺の後ろから別の足音が聞こえる。

おそるおそる振り返ると、今度は別の女が俺の後ろに並んでいた。

俺が足を止めると女も止まる。


近くを歩いていた人たちは磁石のように引き寄せられて、

女の後ろに続々と行列を作っていく。あっという間に新しい行列が出来上がる。


「もういい加減にしてくれよ! なんなんだよ!?」


「……」


「なにかに洗脳されてるのか!? 催眠か!?

 俺の後ろに並んで何があるんだよ! 何を期待してるんだよ!?」


「……」


「もう俺についてこないでくれ!!」


再び猛ダッシュで行列を引きちぎる。

けれど、たどり着いた場所でまた新しい人が俺の後ろに並んで行列を作る。


「おまわりさん! おまわりさん、助けてください!!」


たまらず交番にかけこんだ。

交番から出てきた警官は何も言わずに行列の最後尾へと向かう。


「ちょ、ちょっと!? 助けてくださいよ! なに並ぼうとしてるんですか!」


「……」


「こいつもダメかよ!!」


自宅に駆け込むと自分が入るなり扉をしめた。

のぞき窓からおそるおそる外の様子を見ると行列は扉の前に並んだままだった。


「なんなんだよ……一体何が起きてるんだよ……!」


俺の背中に「この男の後ろに並ぶと100万!」とか書かれているのか。

背中に手を回してみても張り紙一つ見つからない。わけがわからない。


家の中ではやっと一人きりになることができたが、

一度あの外へ出てしまえばまた行列が続いてしまうだろう。


「どうすりゃいいんだ……」


行列には何を言っても通じない。

こんな調子じゃ仕事探しもままならない。


行列ができるようになってから数日が経った。


もう行列が怖くなり外も出歩けなくなった。

外に出なくなったことで、食べ物も買えなくなり身体はドンドン細くなる。

限界まで追い詰められついに実力行使に出ることにした。


「お前ら!! もういいかげんにしろよ!!!!」


玄関のドアを開けると、俺の後ろに並んでいた行列がずっと出待ちしていた。


「いやがってるのがわからないのか!? 一体何が目的なんだ!!」


「……」


「何も答えないなら、こっちにも考えがある!」


俺は車庫に走り込むと行列が車に入るよりも早くドアを閉めた。

エンジンをかけると威嚇するようにクラクションを鳴らす。


「おい!! お前らが俺の後ろに並ぶっていうならひいてやるからな!」


行列はみじろぎもしない。


「俺は本気だぞ! 寸前でかわそうたって、そうはいかないからな!」


広い道路まで出てしっかりとした助走距離を取る。


「これが最後通告だ! そのまま行列を続けるなら、このまま跳ね飛ばす!!」


エンジンをふかせる。

行列は答えなかった。


「どうなっても知らないからな!!」


車のアクセルを踏み込もうとした瞬間。

バックミラー越しに自分の車の後ろに別の車が並んでいるのが見えた。


「あ……?」


ちょっと車を前に発進させると、後ろの車も動く。

追い抜くこともなく俺の車が停まると、列を作るようにぴたりと止まる。


「く、車でも行列ができてやがる……!!」


窓から身を乗り出して、俺の車の後ろに大渋滞が起きているのが見えた。

追い抜けばいいものを俺の後ろにぴたりとついて離れない。


もしこのまま、俺が車を発信すれば渋滞の車たちも続いて人をはね続けるだろう。


ぶつかる前に寸止めしようものなら玉突き事故にもなりかねない。


「だ、ダメだ……これ以上、なにもできない……」


俺には行列を崩すことも離すことももうできない。

一生このまま行列にストーキングされ続ける毎日が続くのだろう。


もう俺を放っておいてくれ……。







それからしばらくすると、俺のもとには企業のオファーが列をなして届くようになった。


『いやぁ、あなたに協力いただけるなんて本当によかった!』


「いえいえ、俺もこれが生活の一部になっていますから。

 企業のみなさんに協力しているから生きていけているんですよ」


『それじゃ、次は3丁目の支店【ゲキマズラーメン】に行ってもらえますか?

 あなたがお店に行ってくれるだけで、宣伝効果バツグンですからね!!』


「いえいえ、こちらこそですよ。こんな楽な仕事ほかにないですから!!」

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