統計信教:無意識の章

尾巻屋

ビューティフルワールド

 いのち―と言ったら、あなたは何を想像するだろうか。

 

 草木、苔むした地面に、山々と森林。

 動物、大地の雄叫び、荒野の夕焼け。

 海獣、底知れぬ暗闇に潜む、水中の神秘。


 それとも、大義名分のもとで行われる殺戮、鉄、火薬の臭い。光を失った目と寄る辺なき人々。愛した者の血のりが染み込んだ衣服を身に纏って、言葉の通じぬ軍人に助けを請う。死んだ同胞の仇討ちに立ち上がって、次の瞬間蜂の巣にされる愚か者。顔に煤、足に塵を付けて、嫌に明るいお天道様に見守られながら、動かなくなる骨と肉。


 今日も朝に起きて、顔を洗ったのだろう。

 朝食はパンか?米か?

 プラスチックと金属の箱で用意されたそれは美味しかろう。

 お出かけかい?ならばお気をつけて。


 この大きな岩石の球体に、同じように生きていたかったいのちのことなんて何一つ気にもせず、あなたは生きていく。目に届かぬよう、布を被せ隠しておいて。

 幼き子供達の青春を絞り尽くした作物を食して。

 下品な笑顔を浮かべ偽善に生きて。


 美しかろう。人生って奴は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

統計信教:無意識の章 尾巻屋 @ruthless_novel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る