都市伝説…モリノヒト 

低迷アクション

都市伝説…モリノヒト 

“モリノヒト”という存在をご存知でしょうか?オランウータンの名称の意味は

“森の人”ですが、それとは違うものです。これは、私が所属していたサークルのОB、

そこから派生した友人の話です…


いつの時代も、心霊ブームやオカルトブームの波があります。ОBの方の学生時代は

一般の人が撮った心霊写真を、雑誌やテレビに投稿する事が流行った時代でした。

(失礼しました。これは今でもそうですよね。)当時学生だったОBの方(以降“先輩”と表記します。)も雑誌投稿のため、自身で心霊スポットや廃墟に出かけ、写真を撮ってくる活動を行っていました。“それ”と遭ったのも、こういった場所の一つだったと言います…


 秋の暖かい休日の日でした…先輩は友人に車を出してもらい、S県の山奥にある“廃村”に向かいました。目的は勿論、心霊写真を撮る事です。お昼過ぎに着いた彼等の前には、

過疎化が進み、荒れ放題の村が広がっていました。


ここでは何かが絶対に撮れるという期待が先輩の中に高まったと言います。

村に立つ家屋のほとんどは大木や植物に


覆われつつあり、人の作った物が、自然に帰っていく過程を見るようでした。友人は運転で疲れたのか、車内から出てきません。ウトウト眠っているようなので、一人で村の中を見て回る事にしました。


赤黒く錆びついた郵便ポストに、朽ち捨てられたままのトラックや

農耕具など、写真を撮るにはもってこいの場所がいくつもあります。心弾ませながら、

さまよわせた視線が妙な物を捉えました。


「黴だらけの布団?」


一軒の家の前に黴?植物の塊のような物が転がっています。大きさは布団くらいです。外に

干しっぱなしだった布団や毛布に、黴やら植物が纏わりついた感じと言えばいいでしょうか?少し興味が沸いた彼は撮影をしようと、足を進めます。それは突然でした。


「ぎぃみょおおおお~」


ただの布団だと思っていたものが、不気味な奇声と共に立ち上がったのです。

驚く先輩の前で“それ”はこちらに勢いよく振り返りました。


「わあああああああ~」


悲鳴を上げた理由は、立ち上がった者の姿です。全身に纏わりついたキノコのようなものに藻や植物。加えて、それに集るいくつもの羽虫や蛆やらが犇めき、そこら中を這いまわっています。ですが、それは紛れもなく“人間”でした。黴だらけのボロ布?


毛布を纏っているものの、顔に当たる部分から除く血走った目が、こちらをしっかり捉えて離しません。カメラを撮る事を思いつく暇はありませんでした。踵を返して走る彼の後ろを


「びゃひょっ!びゃひょっ!」


と狂ったような奇声を上げながら、追いかけてくる“それ”の声がすぐに続いたからです。


「お~い!〇〇!!〇〇!助けてくれ!」


走りながら、車で眠っている友人の名前を叫んでみますが、反応はありません。気が付けば、

自分がだいぶ村の奥まで入ってきてしまった事に、ようやく気づきました。そして、悪い事は重なるものです…


「うおっ!?わぁっ!!」


足もとに転がっていた大石に躓き、盛大に転んだ彼は、全身に走った痛みを覚えるより、

眼前に迫った“それ”が、転んで逆さまになった視界から、しっかり見える事に恐怖

しました。


「嫌だ!くるなぁぁぁ!」


喚き散らしながら、慌てて立ち上がり、自分を転ばした石を必死に掴んで“それ”に

向かって勢いよく投げつけました。


「げぇっ!」


頭?と思われる部分に石が当たり、蹲った“それ”を最後まで見る事なく、先輩はそこから全力で離れたそうです。車まで息も切れ切れで辿り着き、眠っている友人を叩き起こし、

エンジンをかけて発進させたのは、言うまでもありません。


「一体、どうしたんだよ?」


異常な興奮状態の先輩に、友人は何度も訪ねてきましたが、山を下りるまで一言も言葉を

発する事は出来ませんでした…


「それ以降、もう廃墟巡りやスポットには行ってない。社会人になってから、

しばらくしてこんな噂を聞いたよ。山関係の仕事をする人の話でね。


山間部の廃村や使わなくなった農作業の小屋なんかに、住み着く人がいるそうだ。

それはホームレスだったり、いろんな理由で山に逃げ込んだ人だと思う。


今時?って思うだろうけど、あるんだよ。そういう事が。確かに山なら上手く水源を

見つければ水には困らないし、食料なんかは山菜とかキノコ、時には虫だって

食べればいい。


住処や防寒着は、小屋や家屋に残された物で何とかなる。ただ、

人と会う事はない。だから喋る必要はないよね。言葉もだんだん忘れて、

1人で山の中をさまよっていく。


やがては着替えとか、身なりなんかも気にならなくなる。人間らしい振る舞いは必要ない。

ゆっくり、ゆっくり壊れてく…そうやって最後は人だけど、人ではない者になって

しまうんだよ。


だから、もし見かける事があっても絶対に近づいちゃいけない。喋りかけるなんて、考えてもいけない。何をされるかわかったもんじゃない。黙って視界から消えるのを待つんだそうだ。町に住んでる人には、わからない。山に入る者の掟だって言ってたね。」…


話をしながら当時の出来事を思い出したのか?少し身震いする先輩のグラスに、

私と同じサークルに所属する友人のTが、心得顔でビールを注ぎ、快活に訪ねます。


「先輩があった人?妖怪っすかね?何か名前はないんですか?」


ビールを一息で飲みほした先輩はしばらく黙り、ボソッと呟きました。


「モリの…モリノヒト。」…


以上がОB参加の“サークル飲み”席で、先輩が話してくれた内容です。ここからは私の友人“T”の話です。この話に大きく関心を抱いていた彼は元々、怖い話が大好きという事もあり、この後、渋る先輩から“廃村”の場所をしっかり聞きだしていたようです。


「ネットのストリートビューで見たら、本当にあるんだよ?その場所!しかもだぜ!!

何の開発もされてねぇ。先輩が行った時と、そのまんまの感じなんだよ。」


飲み会から何週か経った、ある日のサークル帰りに、その話は出ました。興奮気味で喋る

Tの目は爛々と輝いています。悪い予感がしました。


「ストリートビューで映ったって事は、人が入ったって証拠だろ?先輩の言ってた

“モリノヒト”だっけ?…何で出てこない?可笑しいだろ?そんなもんは、もうとっくにいなくなってるよ。だいたい俺らが、中坊くらいの時の話だぞ?何年前だよ?」


「きっと、隠れたんじゃねぇかな?大勢人が来たからビビってさ。どっちにしろ

面白いじゃん。」


このTという人物は夜中の墓地に友人数人と入って大騒ぎをしたり、立ち入り禁止の廃墟でサバイバルゲームをするような大バカ野郎です。次の言葉も、私が予想した通りのもの

でした。


「だからさ、一緒に行かね?先輩の話、確かめてみようや。」


「遠慮しとくよ。ゼミの課題もあるし、そういった所には、下手に足を踏み入れる

もんじゃない。」


「へっへ~、ノリ悪いな。まぁ、仕方ねぇか。」


Tの方も、私の答えを予想していたのでしょう。あっさり話を引っ込めました。

手際よい彼の事です。もう、メンバーを揃えている筈です。こちらも予想通りで、

彼はすぐに実行しました…


 「もう、村とか建物に住む必要は無いのな…」


そう語るTの顔は、恐ろしさを表情一杯に張り付けた様子でした。


以下は彼の体験です。私に話をした翌週、少し曇りがちな休日に朝から車を走らせたT達は、お昼前には先輩の話にあった“廃村”に到着したそうです。彼等は聞いていたものより、


更に朽ち果てた様子となった村の中に少し躊躇しながらも入っていったそうです。

メンバーは彼以外に4人でした。事前に詳しく話していた事もあり、懐中電灯にバット、


危ないやつはガスガンなんてものを持ってきていました。村の中には、すでに家屋を突き破って大きな木が生えている所や、舗装してあった道のほとんどが草木に覆われていたりで“モリノヒト”どころか、


パンデモーニアム(お化け園)のような様相を呈しており、何処から何が飛び出してきても、可笑しくない感じだったと言います。


30分程で、村の入れそうな家屋は一通りまわりましたが、家の中は床が抜けて、歩けませんし、先輩が言っていた“黴だらけの布団”も何処にもありません。緊張していたメンバーも、その内にふざける様子を見せ始め、ガスガンで家屋の腐っている部分を撃ち抜いて

みたり、


バットを振り回して玄関の引き戸に残っていたガラスを割ってみるなどの悪戯を

無人の村で大声をだしながら、始める始末だったそうです…


 「特に変わった事もないし、そろそろ帰るか?」


村に入って1時間程立ち、悪戯にも飽きたメンバーを見計らってTは声をかけました。

時刻は午後2時ちょっと前、元々、曇りがちな天気です。薄暗いドンヨリとした雲が、

急な雨の心配を抱かせるようになってきました。


「そうだな!だけど、車乗る前に、ちょっと用を足してきてぇ。」


友人の一人がそう言って、村の道を外れ、森の中に入っていきました。家の中は先程の様子でしたから、外でトイレをしようという訳です。Tと友人達は、彼の帰りを待つ

わずかばかりの時間をどう潰そうかと辺りを見渡していました。


「わあああああーっ」


突然上がった悲鳴に、全員が声の方向を振り向きました。悲鳴を上げたのは、森に入った

一人です。余談ですが、Tはこの時、彼がズボンをちゃんと穿いていた事に、


何故か妙に安心してしまったそうです。失礼しました。話を戻します。

こちらが「どうした?」と訪ねる前に彼が、掠れ、掠れの悲鳴みたいな声を上げました。


「1人じゃない。1人じゃなかった。」


その後もずっと「1人じゃなかった…」と泣きながら呟く彼の様子に、全員が鳥肌を

立てます。


「おいっ…あれ?…」


Tの隣の一人が、森の方を指さします。視線を移した彼は、大きく目を見開きました。


「森が動いてる…?」


先程までは静かだった森が動いています。いや、動いているように見えます。よくよく目をこらせば、人間大の大きさの植物…緑の塊が、いくつもこちらに向かって進んできているのです。先輩が見た“モリノヒト”は体中にキノコや虫が付いていても、それはまだ人間だと思える印象でした。ですが、これは違います。全身を植物で覆われた緑一色の怪物です。


「逃げよう。」


誰彼ともなしに呟くと、じりじりと車のある方向に後退しました。その意図が伝わったの

でしょうか?森を移動する“塊達”のスピードが一気に早まりました。


「うわああああーっ!」


全員が悲鳴を上げるには充分の光景でした。走り出した彼等ですが、放心状態で呟く一人を引っ張っていったのは言うまでもありません。見れば、村のあちこちから、緑の塊達が姿を現し始めています。もう、


喋る事も忘れたのでしょうか?無言で、全身を震わすようにして進むその姿は、不気味さを通り越して、嫌悪感を感じさせるには充分な異様さです。


1番先を走っていた者が車に飛び込み、エンジンをかけました。続いて乗り込もうとした

一人が悲鳴を上げます。


「道の方にもいるぞ!」


これから車が進む森の道にも、いくつもの姿が見えています。ですが、すぐ後ろから近づいてくる大量の落ち葉を箒で穿き進むような大轟音が、彼等に躊躇させる余裕を捨てさせました。


「いいから出せ!」


Tの叫びと同時に、全員が乗ったのを確認した友人が車をスタートさせました。

バックで道を下る車に、廃村を緑で埋め尽くした塊達が次々と追いすがり、草にまみれた

腕を振り上げ、窓を擦るように叩いていきます。


車内は彼等の悲鳴と草や植物がぶつかる大音量に包まれました。とにかく進める道を進み、気が付けば一般道の入口に出ていたそうです。悲鳴と滅茶苦茶に走らせた車が、


事故一つなく無事下山できたのは奇跡だったと言えます。車には緑の筋がいくつも走り、

草独特の青臭さと腐った食べ物のような臭いが、

ベッタリと纏わりついていたそうです。


「もう、人間っていうより、森そのものだった。あれは…あれは一体何だったんだ?」


山を下りた数日後、Tは私と会い、こう呟きました。後日談として彼が聞かせてくれた内容には、最初、塊に遭遇した一人は森で用を済ませ、立ち上がった所で“周りの森が急に動きだした事”に悲鳴を上げた話が追加されていました。


彼は目の前の光景とTの話から

“それ”が単体だと思っていた予想が見事に裏切られ、前述した「1人じゃなかった。」の言葉になったそうです。ただ、


この内容も、しばらく様子が可笑しく、会話もまともにできなかった彼が最近になって、ようやく語ってくれたものだったと言います。


数年前に先輩が遭遇した“それ”とTが話を聞き、再び訪れた場所にいた“塊達”は、

果たして繋がりがあるのでしょうか?何年も月日を重ねた“それ”が“塊達”になったのか?

どちらにも遭っていない私には、わかる筈もありません。ただ言える事は…


「モリノ…」

「?」

「“モリノヒト”だよ。」…(終)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

都市伝説…モリノヒト  低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る