武装して心霊スポット~持ち帰りしモノ~ 

低迷アクション

武装して心霊スポット~持ち帰りしモノ~ 

心霊スポットに“サバイバルゲーム”の恰好をして乗り込んでいく、友人“T”の話

です。兵隊の恰好にでっかいライフルを携えて、深夜の廃墟やトンネルを歩き回る、

下手すりゃ通報一歩手前の活動です。そんな彼等が、心霊スポットから帰る際に必ず行う“儀式”があるそうです…


 ホラー映画や投稿怪談の中で、心霊スポットや何か霊的な現象があった後に、

立ち寄ったファミレスなどで、人数分より“多いお冷(水入りのコップ)”をもらう事があり、「ゾっとする」場面があります。ホラーでは定番のネタですよね?T達はこれを

一種の“警報”として、利用できると考えました。心霊スポット探索後に何処かの

ファミレスに立ち寄り、店員さんが持ってきたお冷の数が人数分なら、何も問題はなし。もし、数が多ければ自分達が何かを持ち帰ってきた、憑いてきた可能性があると判断できる訳です。後者がもし起きた場合、どうするのか?そこまでは考えていないようですが、どっちにしろ、家に怖いモノを持ち帰る前に対処なり、何なりができると考えたのです。加えて、家に帰るまでに一息つく場所として、全国規模で展開するファミレスはとても

都合がよく、車を利用する身に、居酒屋は論外。更に言えば、活動の都合上、深夜まで、もしくは24時間営業のファミレスが最も都合がよく、これは郊外や他県でも営業している事が好都合でした。夜中や明け方近くにミリタリーちっくな服装(流石に銃までは持ち込みませんが)は、そんなに咎められません。人もまばらですし、彼等にとっては絶好の空間になっていました。今回はその“警報”に関する、お話しです…


 そこは、山奥の鉱山?炭鉱跡のような場所でした。ネットで、住所と心霊スポットと

いう情報だけを頼りにやってきたのです。メンバーはTを含めた3人、元々は4人が固定でしたが、色々あって(前回の“武装して心霊スポット”を、ご覧頂ければ幸いです。)

解散しました。なのでT以外はサバゲ趣味の新規メンバー、変な言い方ですが、

こういった体験に対しては“初心者”の友人達でした。そんな彼等の前に、音もなく佇む

真っ黒い鉄骨の群れがひっそりと建っています。Tとしてはライトで垣間見える

その風景が大好きなB級ホラーや、特撮で怪人とヒーローが戦うセットそっくりで、

とても楽しく感じたと言います。Tはニヤニヤしながら振り返り


「これ、ホラー映画のシチュ(シチュエーション)だったら、冒頭5分、化け物

引き立て役の配置だな。」


と仲間達に言いました。蛇足な補足で言いますと、よく、ホラー映画で、閉鎖された軍の研究施設に特殊部隊の兵士が調査に行って、そこに眠っていた怪物を蘇らしてしまう話と自分達の恰好をなぞらえて、こう言ってみたのです。随分、オタク的な発想ですが、そんな頭でもなければ、こんな所にこんな格好では来ませんね?考えてみれば…


ですが、Tの言葉に、少し緊張していたような2人は随分気楽になった様子で、「それなら」とお道化て、夏場の夜に暑さと視界不良が著しい中にも関わらず、持参してきた

ガスマスクを着けてみたり、皆で銃を構えて“特殊部隊っぽい”動きをしてみたりと楽しんだそうです。初めは全体で動いていた彼等も目が慣れてくるに従って、少しづつ

離れていき、最後は単独行動に近い形で動き回りました。友人の一人が


「一人で歩くのは死亡フラグだぞ?」


なんて笑って言いましたが、そもそも敷地内の広さも、ちょっと大きめの運動場といった具合でしたから、何かあればすぐに駆けつける事のできる距離を保っていました。

小一時間、実際は30分もたっていなかったと思いますが、虫の涼しい泣き声の下で

探索を終えた彼等は入口近くで合流しました。


「何も怖い事なかったけど、雰囲気あって良かったな?」


Tが機嫌良く切り出すと、他の2人も、笑って頷きます。後は“警報”を試すために

店へ寄るだけでした。


「なぁ、さっきさ!俺、こんなん拾ったんだけど?」


メンバーの一人である“S”が嬉しそうに、弾入れ用のマガジンポーチから何かを、

取り出しました。それはライトの光の中で、黒々とした姿を見せています。


「石?」

「原料はそうみたいだけど、石細工?何かを石に彫りこんだ像みたいな感じだな?」


Sともう一人が黒いものを弄り回します。どうやら石で出来た、小さな人の形をしたもののようでした。最初よくわからなかったのは、それが黒っぽい炭で塗ったようで、何だか得体の知れない感じがしたからです。


「仏様だべ?これ。」

「確かに人型だけど、どうかな?顔のとこなんか、だいぶ擦り切れて、のっぺら坊だぜ?」

「きっとあれじゃね?ここで働いたてた人が、持ってたお守りみたいなものじゃね?

それが作業中に落っこちて、真っ黒けってな感じで。」

「そうだな。確かに!さっき、そこら辺の鉄骨見たけど、文字が右読みだったぜ?いつの時代かと思った。絶対古いよ!ここ。」


「それ捨ててきた方がいい…」


「えっ?」


2人の会話にTが低く…ですが、強い様子で割り込みました。普段ノリの良い、彼に

しては珍しい対応です。


「捨ててくるって、何で?こんな小さいもん持っていっても問題ないよ。怒られる事ないし。」

「何処で拾ってきたか知らんけど、持ってくのはよそうぜ?その黒いのだって、何か変だし、汚ないよ。」

「そうかなぁ?せっかくの記念だけどなぁ。」


諦めがつきかねるといった様子のSに、雰囲気が不味くなるかと思ったのか、もう一人が

加わりました。


「まぁまぁ、そういや確かに汚れてんな。てかあれだよ?Tも言ってたけど、最初の

決め事で、何も持ち帰らないって話だったな?いいんじゃねぇの?そんなもん、わざわざ

持ってかんでも。」


Tの様子ともう一人の説得もあり、Sはそれを渋々といった様子で投げ捨てました。元々、そんなに拘らない性格の奴等ですから、特に引きずる様子もなく、一行は車に乗り込みました…


 「店員さんの間違いじゃね?…きっと。」


メンバーの一人が無理に明るく喋りますが、声は震えています。廃坑のあった山を下り、40分程で見えたファミリーレストランに入り、女性店員さんの好奇の目に晒されながらも、人数を告げ、彼等は席に着いていました。先程まで歩きっぱなし、車内では揺られっぱなしが、ようやく腰を落ち着けたといった所です。深夜帯の時間は客も少なく、冷房もちょうど良い風を送ってきます。問題なのは、運ばれてきた水の数です。いち、にい、

さん、よん…4つあります。T達は3人…明らかに数が一つ多いのです。彼等が面白半分に行っていた“警報”が文字通り、役に立ってしまった結果でした。


「店員さんに確認する?」


Sが不安そうな様子でTに聞きます。心霊スポット巡りを何回もこなした彼に意見を求めている様子です。しかし、聞かれているTにしても、正直…想定外の状況でした。今までこんな事はなかったのですから…勿論、対処法なんて考えていませんし、知りもしません。少し考えた後、彼はハッキリと言いました。


「いや、やめとこうや。向こうの間違いかもしれないし、水が一個サービスで

ついたくらいに考えよう。」

「そうかな?何か、ヤバいんじゃないかな!」

「大丈夫じゃね?平気だよ!てか面倒やん?そんなん、深く考えるなよ?それより俺、

腹減ったしさ。何か頼んでいい?」


Tの言葉に、もう一人が乗っかった形で、Sの杞憂を丸め込みました。それ以降は話題を変え、いつものように盛り上がった後で集まりを終わりにしたそうです。Sは笑顔で会話に交じっていましたが、何かを考えている表情が時々見えていたそうです。また、Tも支払いを済ませるため、レジに向かった際に、妙な事を耳にしていました。以下は厨房と

フロアの店員さんが奥で小さい声で話していた内容です。


「5番卓のお客、あれ見た?兵隊の恰好なんかして、オタクって奴だよね?」

「見たよ。ただ変なのはさ。お前、水持ってった時、数合ってなかったよな?

一つ多かったぞ?」

「ああ、あれ?いや私も間違えたつもりなかったんだけど、何か黒っぽい恰好の人がさ?

忍者コス?違うな?ほら、機動隊の恰好かな?とにかく黒っぽいのがなんかワチャワチャいたからさ。まぁ、周りもそんな感じの連中だったから、数入れて、向こうは3人って言ってたけど、一応ね~。まぁ、特に何も言ってこなかったしさ~。見間違いだったわ。」


Tはこの事を誰にも言いませんでした…


 それから1週間後、Tは不動産をやっている友人の“F”と食事兼飲み会をしました。先に店に入っていた彼は仕事上がりのFに廃坑と、その後のファミレスの事を話しながら、

杯を進めましたが、彼は黙って話を聞くばかりで、料理はおろか、酒も頼みません。元々、Fもこの手の話は大好きですから、熱中して聞いてくれているかと言えば、

そうでもなさそうです。それどころか表情は険しくなるばかり、色々堪え切れなくなった

Tが水を向ける前にFが口を開きました。


「そのSって奴は今、どうしてる?」

「…?…いや、元々、サバゲー好きのダチの紹介で集まった面子の一人でよ?特に

その後は…一応、連絡先は聞いてっけど。」

「何も起こってないなら、いいけど。」

「何もって?何か問題あんのか?確かにファミレスの件はきびワリいけどよ。」

「まぁ、聞けよ。」


Fの言葉にTはおとなしく耳を傾けました。言葉は荒いですが、こーゆう素直なところが彼の良いところだと思います。


「お前等が行った場所がそうだとは限らないけどな。ネットとか、昔の投稿怪談、怖い話でよくあるだろ?そーゆう場所のモノを持ち帰るのは良くないんだよ。」

「そんくらいはわかってんよ?だから、何も持ってきてないよ。Sがちゃんと捨てたのを

見たし…」

「そいつが拾ったのは、それ一つだったのかな?レストランで心配な様子があったって言うじゃないか?もしかしてもう一つ持っていたとか。コップの数が多かったのも辻褄が

合うぞ?」

「・・・・」

「何かの話で聞いたけど、昔の炭鉱とかで作業する人達は堀った穴の中で、それこそ

真っ黒になるまで働いてさ。中には事故とかで、そのまま亡くなる人も多くいたらしくて…ただ、工期の都合もあるから、ちゃんとした葬式もしないで、そのまま埋めたりなんて事…もちろん噂だし、実際はちゃんとしてると思うけど、そういった人達の依り代?供養として石とか木彫りのモノを埋める話もあるらしい。それで安らかに…日の光も届かない、家族や恋人にも会えずに死んだ人達の無念を、一身に吸って真っ黒になったモノを…」


TはFの会話を途中で遮り、慌ただしく携帯を取り出し、Sの番号を呼び出しました。

数回の着信音の後に留守電メッセージの音声…出る様子はありません。番号を切り、

携帯を耳から離したTは、画面にショートメッセージのマークが出たのに気づきます。

差出人は件のSでした。


「い今、廃坑にイる」


短く、たどたどしい文面ですが、背筋が寒くなるには充分です。Fの話があった後は尚更の事でしょう。


「やべぇ、おいっ、車出せるか?酒飲んでないよな?」


こーゆう時のTは思いっきりが良い事で評判でした…


 「そんなものは役に立たないと思うぞ?」


ハンドルを握ったFがミラー越しに呟きます。Tは答えません。車に乗って1時間半、

彼等が最初に来た時より、だいぶの短縮が出来ていました。Fの運転とルートの選択が

適切なおかげです。ですが、辺りはすでに暗闇に包まれていました。


「MP5(短機関銃)…駄目だ、小さすぎる。おい、この間、俺が自慢してた奴、車に

積みっぱなしか?」

「映画でシュワちゃんが使ってた奴だろ?もちろん、今日持っていってもらう予定だった。」

「良いタイミングだ。ライトはあるよな?即席部隊としちゃ悪くねぇ、マジ

おっかねぇけど。」

「…着いたぞ。」


Fのブレーキで、つんのめりそうになったTは、エンジンを止めるのを待たずに外に飛び出しました。Fもライトを持ち、車を下りてきます。


「彼は?」

「わからんが、奥じゃないか?さっきから電話しても、何も反応がねぇ。」

「車も無いのに、どうやってここまで?」

「歩いてきたんだよ…」


Tは足元を自身のライトで照らしました。よろめくような足跡が廃坑奥に続いています。こんな山奥まで歩いてくるのに、どれくらいの時間がかかったのでしょう。普通の靴ではケガをしていたっておかしくありませんし、それ以上は正直考えたくはありません。

Tは背中にタンクを背負い、



車から“ガスガン”と呼ばれる種類の大型軽機関銃“Ⅿ60”を取り出しました。

背負ったタンクから供給されるガスで強力な弾を文字通り、雨のように降らす事のできる代物です。普段は重いし、かさばるので、Fの車に乗せたままにしておいた代物でした。


「本当に持ってくのか?」

「避妊薬と同じだ(某モンスター映画の台詞です)行こう。」


二人が静かになった所で、Sを探す手間が省けました。廃坑奥から、土を掘る音が

ゆっくりと聞こえてきたのです…


 「出さなくちゃ、出してやらなくちゃ…」


普段着姿のSは全身泥だらけ。靴はボロボロで、ライトに時々赤く映るのは、足から

血が滲んでいるようです。彼は何処からか持ってきたスコップで、憑かれたように土を

掘っていて、T達の姿にも気づかない様子でした。携帯はT達のすぐそばに放り投げられています。ブツブツ呟く彼の目からは涙がこぼれ、まるで手だけが勝手に動いているようでした。「一体何を掘っているんだ?」というTの言葉の前に、Fが黙ってSの足元を指さします。


「多いな…」

 

思わず呟くほど、地面には、あの黒い人型の像が散らばっていました。Sはそれを

土の中から、1体、また1体と掘り出しているのです。


「こんなに掘り出してどうする気だ?おいS?」


Tが怖さを振り切るように大声を出しました。Sの肩が「ビクッ」と震えます。そして、相変わらず手だけを動かし、首だけが不自然にこちらに動きました。


「出さなくちゃ、出してやらなくちゃ!」


絶叫に近いSの悲鳴に呼応するように、突如としていくつもの音が辺りに響きました。


「T…見ろ…」


Fの声に、Tは彼の指さした方向をライトで照らします。Sの足元だけを照らしていた

ため、気づきませんでしたが、彼のすぐ横に大きな採掘用の穴が空いていました。音はそこから聞こえています。それはまるで


「足跡だ。それも複数の…」

「ああくそっ、おっかねぇ。Sを頼むぞ。」


Tは怖れを振り切るように去勢を張り、穴倉に向かってⅯ60を掃射しました。ガスをフカした音と共に数十発のBB弾が穴蔵に吸い込まれていきます。ゆっくりとよろめき、あるいは這いずるような音が、その連続した轟音にかき消されていきました。その間にFは、Sを動かそうと、肩を掴んで引っ張っていきます。しかし、彼は石になったように動きません。その内に穴蔵の足音が急ぐようにスピードを上げてきました。機関銃の掃音に負けないくらい、勢いのある轟音が出口に向かって近づいてきます。


「おい、どうする?ヤベェぞ。」


半分悲鳴のようなTの声に「ハッ」と気づいたようにFがポケットから何かを出し、Sに振りかけました。その瞬間、あれほど動かなかった彼がよろめきました。すかさずTが、その両脇から腕を入れ、後ろに引きずります。


「走れ、走れ!!」


吠えるように叫ぶTは、機関銃を携え、後に続きます。穴蔵の音を気にする余裕は

もうありません。Sを助手席に放り込み、Tが後部座席に飛び込んで、すぐにエンジンをかけました。廃坑跡から飛び出した車は、そのままのバックで200メートルほど、道路を走り、前触れなく急停止します。


「何で止めんだよ?」


Fは何も答えず、放心状態のSを外に連れ出し、叩くように体を揺さぶっていきます。


「やっぱりあった。」


Fは彼のポケットから取り出したモノを道路に放りました。いくつかの乾いた音が響きますが、それが何か?聞くまでもなく、今のTにはよくわかりました。車に乗り込んだ3人は、しばらく黙って、山を下る事に意識を集中します。やがてTがぽつりとFに尋ねました。


「さっき、Sに何をかけた?」

「ウチの社長は信心深くてね。事故物件の帰りとかには、撒いとけってよく言うのさ。」


落ち着きを取り戻したといった感じのFは低く笑いながら、手元の小さい食塩入り

ビニール袋をTに投げて渡します。それを目元にぶら下げた彼も、ため息一つに呟きました。


「とりあえず、ファミレス行こう。」…


 

 今度はちゃんと人数分のコップが出たそうです。Tは、そこでSから詳しい事情を聴きました。彼はやはり、あの黒い像を一つ持ち帰っていたのです。拾った場所は、穴の入口でした。その後の1週間はどうにも意識がボンヤリとし、よく覚えておらず、気が付いた時は自分が誰かに引きずられていたとの事です。喋り終えたSは思い出したように体の痛みを気にし、その日の内に、病院に行きました…


 以上で今回の話は終わりとなります。ただ最後にTはとても気になる事を話していました。別れ際に、Sは


「あいつは大丈夫かな?あいつは持ち帰ってないのか?」


と、しきりに参加メンバーのもう1人を気にしていたとの事です。Tはそれ以上の事を訪ねませんでした。さらに言えば店員の会話にあった「後ろにワチャワチャ…」は一人が

蠢いていたのか?複数をさしていたのか?気になります。考えてみれば、あの時、積極的に会話を変えたがっていたのはTより彼の方でした。勿論、その時の店員を探す事は出来ます。ですが、肝心のもう一人は確かめようがありません。何故なら、彼の連絡先は、

かけても繋がらず、番号変更のアナウンスが流れるばかりだったからです。

この話を読んだ方で、最近、友人と一緒に店に入ると“お冷”を多く出される方はいないでしょうか?Tはいない事を切に願っています…(終)




 

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