第5話
カーラジオをつけた。やはり証拠を提供しておくことは大事だ。速やかな戦闘に移行できる。
私を追う一台のパトカーをバックミラーで確認する。
歩道に乗り上げて何人かにぶつかった。まるでコンクリートに根をはるようにして沈み行く人を助手席側の窓からみた。それでも速度を緩めるわけにはいかない。いま捕獲されても、私たちはまだサザンドラになれない。
放置自転車やコンビニの前に置かれた吸殻入れやそこにいた人をぐちゃぐちゃにしていく。私たちは車道の方が走りやすいと気がついた。そうして、法廷速度のとおりに進む自家用車の一台をクッションにして後退、ハンドルを完全にコントロールすることで車線に復帰した。哀れな自家用車のおかげでパトカーが減速した。その隙に、私たちは加速する。
信号が赤だからといって止まれない型破りな事情があるからマイペースにならざるを得ない。後方で車の砕ける音が聞こえた。
カーラジオから流れる情報によればもう私が逃走中の犯人だとして紹介されていたしかし犯人とは私たちのことであり私の単独ではないしまさかあの女性を刺したときの犯行をさすのだろうかそんなはずはないあれなぞ彼女は私に一矢報いらんとシガーライターで胸を焼こうとしたおかげで刻印のようなやけどで痛み続けており瀕死の間際の抵抗に出したおにびのようなものに打ち負かされたということだろう。
助手席には逃げ出した男の車からくすねた粉の袋を開封して鼻を押し当てることとま唾で濡らした指を差し込みまとわりついた粉を歯茎になすりつけることで頭の働きのすばやさが何段階も上昇したようで世界を認識するために拵えた私という存在が殻を破り月の光が神々しく時報伝えるラジオが時の咆哮というべき威圧が耳に響く。
――時刻は9時をまわったところです。それでは――
美しい声に耳を傾けていると、あの踏切の向こうに兄が見える。兄だ。ようやく。再会が。できた。かれがひとりになれば助手席に私あるいは兄がいれば。私たちはサザンドラになれる。私は梢氏だけを狙ったつもりだった。
――それではラジオネーム燃えよ狂暴どらごんさんから頂きました――
未熟な私を許してほしい。いまからでも私は自分を捨てる覚悟ができている。
――あぁ、そういうことってありますよね。かくいう私もマナーモードに設定してたはずなのに――
いや、すでに私は私たちになっているのだからこの道を歩むだけいいのではないだろうか。私たちはサザンドラになれるのだ。
この灯りは進化のきざしなんだ。兄さん
――ええ、それでは、つづいてのお便り、とその前に緊急速報です。たった今、先程から繰り返し報じておりました男が――
サザンドラの夜 古新野 ま~ち @obakabanashi
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