第9話 立てば竜胆、座れば百合、君見る姿はひなげしの⑨
私はあまり、本を読む人間ではない。
言い訳に聞こえるかもしれないが、現代人で本を読む人は確実に減っていると思う。
スマホを日常的に見ることで、暇な時間ができることもないし。
きっと、本を読むのはスマホに適応できていない、旧時代の人間なのだろう。
私は、そんな勝手な印象を読書する人たちに思っていた。
つまり、何が言いたいかというと、私はこの学校に入学してから図書室に数えるほどしか来たことがない。
まず、教室から遠い特別棟にあるという段階で、わざわざ足を向けることもなくなるという。
それに、調べたいことは大体スマホで調べがつく。
本を探す必要もないのだ。
あーだこーだと色々考えていたが、つまるところ、図書室という空間に足を踏み込むことに躊躇している。
私のキャラに合わないって思うのもある。
そんな訳で、図書室の前で逡巡している。
周りを見渡す。
誰もいない。
だれかがくる気配もない。
右よし。
左よし。
は、入ろう!
-ガラガラガラ
スライド式の扉を引き、中をのぞく。
図書室の中は静かで、書架がずらりと並んでいる。
人も少なく、私は怖気づきそうな気持ちに喝を入れ、図書室の中を探す。
奥の窓際に机が並び、図書室内でも本が読めるようになっている。
見つけた。
その窓際の1番端っこの席に1人。
彼はそこに腰をかけ、本を読んでいる。
私からはちょうど横顔が見える。
窓からはまだ夕方に差し掛かったばかりの日差しが、大きな茶色のカーテンで遮られていて、その隙間から時折光が差し込む。
彼の視線は本に集中していて、そのページが読み終わったのか、ぺらりと捲られる。
静謐の只中に、彼の存在感を感じる。
私はゆっくり、忍び足で彼に近寄る。
彼に気づかれないように、自然体な様子で歩く。
1つ間を空けた隣の席の椅子を引き、そこに横向きに座る。
高槻君の前髪は少し長めで、本に向かって視線を落とすと鼻にかかるくらいだった。
読書する彼をみながら、私はなんて声をかけようかと悩む。
話をしようとここまで追いかけてきたのに、いざ本人を前にすると、なんていうか、何を話していいかわからない。
高槻君のこと、あまり知らない。
でもなんだか、図書室の中で静かに本を読む彼の姿があまりに様になっていて。
そんな雰囲気の中で、私は静かに彼を眺めることにした。
彼がこちらを向いて、目が合うまで。
空想恋愛 はなまる先生 @shino616
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