ごちそうさま

 一目見たときから、君に夢中だった。

 だから私は、君を欲した。

 そして君は私を受け入れてくれた。


「たいがたべたい」

 私がそう言うと、彼は快諾してくれた。


「ふふっ、ありがとう。優しいね」

 君が愛おしすぎて、つい甘い声を出してしまう。

 同時に、『大好きだよ』と心の中で愛の言葉を贈った。


 せっかく許可を貰ったのだから、早くいただいてしまおう。

 最後に、もう一度。


 大好きだよ、大河君。


 そう心の中で言いつつ、鈍器で君の後頭部を思い切り殴る。

 君は勢いよく前方に倒れ、しばしの間痙攣し、そして止まった。


 君という存在が生命活動を終えた瞬間、私は急がねば、と思った。


 できるだけ、急がないと。


                 〇


 数時間後。


 ステーキも、トマトシチューも、フライも、全て食べ終えた。

 机の向こうにいる君は、首から下を失いつつも穏やかな笑みを浮かべている。


 「君はいつも優しいね」

 と私は言いながら立ち上がり、彼に近寄る。

 やっぱり一番食べるべきはこれだよね。


 私は彼に一度口づけをし、ナイフで彼の頬をそぎ落とす。

 血液がぽたりと数滴、涙のように垂れた。それを舌で舐め取る。

 うん、美味。


 ナイフに乗せた肉片を口に入れて、味わう。

 これもまた、非常に美味だった。


                  ○


「ごちそうさま」

 何もかもがなくなった机の上を見回し、手を合わせる。


 彼が私の腹部を満たす。彼が私の一部になる。

 そうすることで、ずっと彼と一緒にいられる。


 そう思うだけで、心の中が温かくなる。

 一目見たときから、君に夢中だった。


 どうしても君が欲しかった。

 なぜならば。


「大河君、美味しそうだなって思ってたけど、やっぱり美味しかった♡」


 そう独りごち、恍惚の表情を浮かべる。

 満腹で、満足だった。

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たい。 眼精疲労 @cebada5959

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