勇者さまがのっとり被害になったら!?

ちびまるフォイ

俺のヒロインがこんなはずがない

「忙しいですか? 手伝ってもらってもいいですか?」


「え?」


「ちょっと手伝ってくれませんか? 今困っています」


「勇者……? どうしたの、なんか変だよ」


「すごく困っています」

「それは聞いたよ」


「近くのアイテム屋でポーションを買うのを手伝ってくれないの?」


「ポーション? いいけど、一緒に行くの?」


「あなたに行ってきてほしい思います」


「なんで!? 自分で行けばいいじゃん」


「私は困っていますから」

「聞いたって」


「、、、、」


「……勇者? ホントどうしたの? 様子がいつもと違うよ」


「急用なんです。私はあなたに行ってきてほしい」


「きゅ、急用……」


ヒロインはその言葉に弱かった。

自分自身も以前に家にダンジョンパスポートを忘れて、

そのままクエストに行こうとしてギルドに止められた苦い経験がある。


急用という魔法の一言は、かつて味わった自分の経験と重なってしまう。


「わかったわ。ポーションを買ってくればいいのね?」


「はい」


「それじゃ……」


「3個をお願いします。いいですか?」


「3個? そんなに必要なの?」

「必要です」


「ケガはしてないように見えるけど……」


「貯蓄に使います」


「貯蓄!? 貯めるの!? 回復魔法あるのに!?」


「間違わないです。君に手伝ってもらいたいですけど、お願いします。

 すごく急いですから」


「う、うん……」


ヒロインはやや怪しみながらもアイテム屋さんでポーションを買って戻った。


「買ってきたよ。これでいいの?」


「ありがとうございます」


「ポーションを貯蓄っていっても、これ消費期限あるから

 今ケガしていないなら意味ないような気がするけど」


「後ろのパスワードを教えてください」


「パスワード!?」


「急いでます」

「わ、わかってるって!」


慌ててポーションが入った小瓶をひっくり返して番号を探す。


「せ、製造番号しかないよ!?」


「なんで答えませんか」


「ポーションに番号なんてあるの!?

 後ろに番号なんて見つからないんだけど!?」


「削ると出てきます」


「削るの!? 容器が割れちゃうよ!?」


「まっています」


「プレッシャーえぐいよ!」


ヒロインは小瓶のガラスを削るわけにもいかず、

ポーション容器の外側にあるラベルを削ってみた。


すると、それらしい番号を見つけることができた。


「見つけたよ、これね番号って」


「おしえてください」


「00078-1125……」


番号を読みあげるほど、心の中のもやもやは大きくなっていく。


「……ねぇ」


「なんですか」


「どうしてこんなことしてるの?」


「私は困っています。もし番号を教ぇくれたら、差し上げます。

 もしくは一緒に経営します。五分五分であげます」


「そういうことじゃないよ!!」


ヒロインはついに叫んだ。


「どうしてよ勇者! 困っているのに何も話してくれないじゃない!

 私達いろんな場所で戦ってきた仲間でしょ!?

 困っているなら教えてよ! 解決できなくても力になるよ!」


「友達からの頼みです」


「私は勇者にとってのなんなのよ!

 ずっと家族と思っていたのに!!」


ヒロインは勇者をひっぱたいた。

勇者は地面に倒れて叩かれたほうのほっぺを手で抑えた。



「あれ……!? 俺、どうしてここに……!?」


「勇者? 今、俺って……!」


勇者の目に光が戻った。

そこにさっきのアイテム屋の店主がやってきた。


「おーーい、お嬢ちゃん。ちょっといいかい。

 最近、人間を乗っ取る恐ろしい伝染魔法が流行ってるんだ。

 あんたもしかしてそれに巻き込まれてるんじゃないか?」


「乗っ取る魔法!? まさか、俺ずっと乗っ取られていたのか!?」


「ポーションを買ってと頼まれたけど……」


「テンプレじゃねぇか!」


人間を乗っ取りポーションを買わせて番号を教えさせる。

その手口を知っていた勇者は思わず頭をかかえた。


「くそ、まさか勇者の俺が乗っ取られるなんて思わなかった……」


「でもよかった。こうして戻って来ることができて」


「ああ、本当に助かったよ。ありが……」


お礼を言いかけた勇者はハッと気がついた。




「俺のヒロインは……俺を褒めて持ち上げるだけの

 ラッキースケベしかできない子だぞ!?


 俺が乗っ取られたことに気づけるはずがない!!

 お前、いったい誰に乗っ取られてる!?」


ヒロインはニタリと笑った。


「ポーションを買ってきてくれませんか?」

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