第176話 マタイ イエスの死と復活 1

 イエスの死と復活の目撃証人であるマタイさんに、イエスが裁判で有罪となるまでを語って頂きますね。


ハナス――レオナルド・ダ・ヴィンチでお馴染みの「最後の晩餐」、つまり過ぎ越しの夜に何があったかをお話下さい。


マタイ――はい。この日は朝から忙しかったのを記憶しています。ユダヤ国民にとって、とても大切な日ですから、食事を取るための場所を確保しなくてはいけませんでした。


ハナス――そうですね。あのエジプトから救出された事を思い出す日ですものね。柱に子羊の血をかけて過ぎ越され、殺されずに済んだ事への感謝ですものね。店の予約と違って大変でしたね。


マタイ――え~、まあ、けどイエス様が準備して下さいました。過ぎ越しの食事前に捕まらないようにイエス様は、ユダに場所を知られないように画策しました。


ハナス――ユダはイエスを裏切る機会を探っていましたものね。みんなは知らなかったんですよね?


マタイ――もちろんです。イエス様が「はっきり言いますが、あなたたちの一人が私を裏切ります!」と食事中に言うまでは全く知りませんでした。……みんなビックリしました。確かに直前まで誰が一番偉いかと争ってはいましたが、まさかイエス様を裏切るなんて……。


ハナス――ですよね。みんなイエスの弟子になるために犠牲を払いましたものね。


マタイ――私は仕事も捨てましたし、イエス様だけをみてきました。裏切るはずがありません。……イエス様は、「私と一緒にパンを鉢に浸す人が私を裏切ります」と言われました。……ってみんなそうやってパンを食べるんですから、容疑はまだ12人全員です。


ハナス――疑心暗鬼になりますね。


マタイ――はい。それで後から聞いた話ですが、イエス様の横に座っているヨハネに対して、ぺテロが合図を送ったそうです。誰が裏切るのかもっと詳しく聞けと。


ハナス――ぺテロらしいですね。自分では聞けないから人に頼む所、笑えます。あっ、五千人にパンと魚を食べさせた奇跡ですが、元となるパンを子供から取り上げたそうですね。笑えます。ぺテロのそういう所、嫌いじゃないですけどね。


マタイ――まあ、このあと、ぺテロは三度否認して失敗しますけど、笑えます。……で、イエス様は、「私がパン切れを浸して与える者だ!」とヨハネに言われたそうなんです。それで、イエス様はパンを浸してユダに与えたそうです。


ハナス――ストレートな答えです。ユダもビックリしたでしょう。「犯人はお前だ!」って言われたも同然ですから。パンを浸して与える事って友情や愛情の表現と聞きました。ボアズがルツにパンを酢に浸して食べさせた記述で勉強しました。ここだけの話、ライナスがパンをスープに浮かべて、ナザラにあげたんです。この行為は相手を思う優しい愛情表現なんですね。(サクヤ様勝手に引用すいません。ペコリ)


マタイ――ナザラ……?……、まっ、このイエス様の仕草から、ヨハネは裏切り者がユダだと分かったみたいですよ。けどイエス様のこの行為はユダに対して「私の許しを受けとりなさい!」というものだったらしいです。うっ、泣ける。最期まで弟子を愛されたんですね。このあとユダを去らせてから……パンとぶどう酒を回して、ユダ以外の弟子とイエス様の契約が結ばれました。


ハナス――「新しい契約」ですね。パンはイエスの体を、ぶどう酒はイエスの血を表し、イエスに信仰を持つ者が天に召されるんですよね。


マタイ――はい、そうです。ユダは残念ですね。彼はすぐに祭司長の所に行き、パリサイ派の人たち、ローマ軍の軍司令官、兵士を引き連れてイエス様のいる所に戻りました。……しかしもう私たちは移動して、ゲッセマネの園にいました。


ハナス――有名な場所ですね。そこにユダがオッサン連中引き連れて来て、イエスに口づけした場所ですね。ぺテロは兵士の一人の耳を削ぎ落とし、イエスは癒されましたね。……ぺテロ君めんどくさっ。……そのあとイエスが捕まると、みんな逃げたんでしたね。


マタイ――お恥ずかしい。やはり忠実なんて口先だけでした。イエス様に申し訳なく思います。


ハナス――きっと私も逃げたと思います。……イエスはこのあと、捕縛され元大祭司アンナスの所へ、そして現大祭司カヤファの所へと連れて行かれましたね。カヤファはサンヘドリンの法廷を開き、イエスを神を冒涜した罪に定めました。


マタイ――ええ。イエス様はサンヘドリンでは死刑を言い渡されましたが、ユダヤ人だけでは死刑の判決は下されません。ローマ総督ポンテオ・ピラトの所に連れて行かれました。


ハナス――ローマの支配下ですものね。けどポンテオ・ピラトもローマのヘロデ王も無罪にしましたよね。ではどうしてまた有罪となり、杭につけられる事になったのか、次回教えて下さい。


マタイ――辛いですが……頑張ります。


 マタイがんばれー!

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