第177話 マタイ イエスの死と復活 2

ハナス――ピラトとヘロデが無罪にしたにもかかわらず、なぜイエスは死ぬ事になったのか、マタイさんに語ってもらいたいと思います。お願いします。


マタイ――はい。ピラトはイエス様を釈放しようと群衆に何度も働きかけたんです。祭司長たちが妬みにかられてイエス様を引き渡した事に気がついたからです。


ハナス――でしょうね。祭司や、サンヘドリンの構成員はイエスが憎らしくてたまらなかったからでしょうね。サタン悪魔、蛇、まむしらの子孫だとイエスにディスられてたし。笑えます。


マタイ――ピラトは、最後の手段として、凶悪犯バラバかイエス様の釈放、どちらにするか群衆に尋ねました。群衆はバラバの方を選び……イエス様に十字架刑が課されました。


ハナス――十字架刑ですね。私、この刑について調べて来ました。話してもいいかしら?辛かったら耳を塞いで下さいね。ハナス少しサイコパスになります。まず、この刑は古代ローマで行われた一番残酷な刑で、ローマの市民権のある人には執行されません。外国人の犯罪者、特に反逆の罪を犯した人に、むち打ちから始まる刑です。


マタイ――そうです。……むちって何で出来てるか知ってますか?革ヒモです。それに鉄の破片や羊骨が所々にくくりつけてあるんです。それで打たれると、皮膚は裂け、血が流れるし……。


ハナス――マタイさん、大丈夫ですか?……ひどいと骨まで達して気を失う人もいるんですよね。また打つ回数が三十九回と決められてますが、大量出血で死者も出るとか。……イエスはそんな鞭打ちだけでなくイバラの冠も被らされましたね。


マタイ――ええ、イバラの棘が頭皮を突き破り、深く突き刺さって……そこからも血が出てました。


ハナス――よく耐えましたね。その鞭打ちが終わると処刑場まで自分の十字架となる木を運ぶんですね。縦の棒と横の棒合わせて九十キロもあるんですね。囚人は横の棒を強制的に運ばされたんですね。横の棒だけでも三十キロあると聞きます。拷問を受けた体では、触れるだけでも痛かったでしょう。


マタイ――イエス様は何度も倒れ、何度も動けなくなりました。ローマ兵は途中で死なれたら困るので、通りかかったクレネ人シモンに運ばせました。彼は過ぎ越しに行く途中だったそうです。


ハナス――ローマ兵、自分で運べよ。(怒)けどこのシモンという人クリスチャンになったようですね。この後、パウロがシモンの息子の名前を聖書に書いてます。……てか、何で弟子が誰もそばにいないんですか(怒) 女性の弟子はずっとイエスのそばについてゴルゴダの丘までついて行ったのに!泣きながら付いて行ったのに!マタイさんの意気地無し。


マタイ――返す言葉もありません。


ハナス――まあ、見つかったらあなたも十字架刑ですものね。……ゴルゴダの丘に着くと、ローマ兵は暴れないように沒薬もつやくを飲ませて、手足の釘打ちをするんですね。動脈ぶっさすので激痛でしょう。


マタイ――それでも麻酔効果がある沒薬をイエス様は口にしませんでした。……最期まで正気を保って忠実を保つ為なんです。イエス様は杭につけられ、亡くなる寸前まで意識をはっきりさせておかなければいけなかったのです。預言の成就の為です。


ハナス――そうなんですね。イエスは立派です。私、痛いの嫌いだからすぐ鎮痛剤飲んじゃうんですよ。……十字架刑で死に至るまでには時間がかかりますよね。私は銃殺刑がいいな。即死。


マタイ――銃殺?っていずれにしても不謹慎(怒)


ハナス――すいません。でも激痛とめまい、全身けいれん、外傷性発熱、大量出血による渇き、肺に二酸化炭素が充満して、息が出来なくなるんですよね。そのうち血中酸度が起こり、心拍異常、心臓圧迫で窒息死です。そんなの耐えられません。


マタイ――イエス様は苦しい目にあって亡くなったんです。なのに、両脇にいる囚人に優しい言葉をかけ、ローマ兵を許す祈りをしています。


ハナス――でしたね。神様にローマ兵は何も知らなくてやっていると擁護し、許しを与えて欲しいと言われた時、確かに神の子だと思いました。……両脇の囚人はバラバの一味の可能性がありましたね。本当はイエスの杭にはバラバがいたはずなのに。許せませんね。マタイさん、あなたもそう思いませんか。


マタイ――けど、イエス様はご自分の命を捧げるために地に来られたのです。私はイエス様の覚悟を、決意を、ご意志をずっと聞いてきました。……辛いけど、悲しいけど、イエス様は旧約聖書の預言を成就させなくてはいけませんでした。

 サタンにかかとを砕かれなければ、サタンの頭を砕けません。かかとですから致命的な死ではなく、人間としての命を砕かれただけです。イエス様はこのあと、サタンの頭を砕く為に天の霊的な命へと復活するのです。


ハナス――そっ、そうでした。イエスの死は私達のためでした。そして救世主である事を死ぬことで証明されたんですね。……あっ、マタイさんの死後、あなたの名前が入ったオペラが生まれました。とても切ない詩なので、最後にお伝えしますね。……マタイさん、イエスの復活についてまた教えて下さいね!今日は辛いことを思い出させてしまってごめんなさいね!




▣   ▣   ▣


 おお、神の子羊 

 罪をなくして、十字架にほふられたお方よ

 あなたはすべてのとが

 背負って下さった

 そうでなければ、私たちの望みは絶えたに

 違いない


 彼は私たちのためにいけにえとして捧げられ

 私たちの罪の重い荷を背負われた

 

 愛の御心から救い主は死のうとされます

 罪一つお知りになりませぬのに

             マタイ受難曲より

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