第84話 ヨセフ 兄たちを試す

 そんな条件を突きつけられて兄たちは口々に言います。ヨセフが自分達の言葉を理解出来るとは思っていません。しかしヨセフは聞いていました。

「これはきっと弟にしたことの罰だ。彼はすがりついてきたのに、私たちは無視した。だから今、こんな苦しい目にあうのだ。――今、彼の血の代価を求められているのだ」41:21~23


 兄たちは過去の罪を反省して、自分達を責めています。ヨセフはその言葉を聞いてすばやく席を外しました。――涙が止まらないのです。


 ヨセフは気持ちを切り替えて、シメオンを人質にとり、他の兄たちを家に帰らせました。その時、食糧袋にこっそりお金を戻しました。今度は兄たちの正直さを試すだめです。


 そんな事とはつゆ知らず、カナンに着いた兄たちは、父親ヤコブに事の全てを話しました。

「あなた達は私から次々と奪っていく。ヨセフはもういない!シメオンももういない!その上ベニヤミンまで連れていこうとするとは。どうしてこんな目にあわなくてはいけないのだ!」


 ヤコブキレます。怒りと涙と落胆とが混じって死んでしまいたいほどになりました。


 その落ち込みヤコブに長男ルベンは、必ずベニヤミンとシメオンを連れて帰る事を約束します。もし、連れて帰らないような事があれば、自分の息子ふたりの命を取ってくれるように頼みます。


 ヤコブにとったら孫を殺せという辛い言葉です。魂には魂という神様の原則に従うルベン、やっぱりあなたは長男です。


 ヤコブは断固拒否。しかし、飢饉がひどくなると、ベニヤミンをエジプトに連れて行くことを了解しました。族長ゆえの厳しい選択、決断です。


 兄たちはヨセフの前にベニヤミンを差し出しました。戻されていたお金も正直に返しました。


 ヨセフは正直者の兄たちの為に、自分の家で宴を開き、招待します。ベニヤミンに美味しい物をたくさん食べさせたかったのでしょう。


 兄たちは、ヨセフが怖くて仕方ありません。ヤコブから預かった贈り物を差し出してひれ伏します。怯える兄たちにヨセフはこう尋ねます。


「あなた達が話していた高齢の父親は元気でいますか?」「私どもの父は元気で今も生きております」


 そしてベニヤミンの方を向き、こう言います。

「神があなたを祝福してくださいますように」


 そう言うと、ヨセフは弟への思いが込み上げて、私室へと向かいます。泣くためです。


 涙が止まりません。母親が同じベニヤミン。同じ血が流れる唯一の兄弟。すぐに抱き締めたかったでしょう。

 私室でしばらく泣くヨセフ。震える肩を抱いてあげたい。

 

 ヨセフは涙をふき、宴の間に向かいます。最後のテストが残っています。ヨセフがんばれー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る