第31話 ぺテロ 誰が一番偉いか?

「あなた方は何を議論していたのですか?」

 こう尋ねたイエスは、ぺテロの家に集まった弟子たちがもめていたのを知っている。理由もご存じなのに、あえて弟子たちに答えさせるイエス。


「あなた達は何でケンカしていたの?」

 兄弟喧嘩の一部始終を見ていたのに、優しく問い正す母親のようだ。


 誰が一番偉いのかをめぐって議論していた弟子達。イエスの弟子としても、そして将来、天国での立場についても……めんどくさっ。

 

 仕方ない……弟子達は何事にも地位や身分を強調するユダヤ教の影響を受けていた。メシアであるイエスに次ぐ地位は重要だ。そこでやはり、鍵を与えられたぺテロは自分が一番だと考えちゃう。


 当然ですね。どの国もどの社会も、家族も組織されてますもの。お猿さんも、狼もボスがいます。群れを守るために必要な本能です。人間はそこに利己的な動機や優越感、差別などドロドロしたものが混ざる。残念。

 

 ぺテロだけでなく、ヨハネもヤコブも自分が一番だと考えていました。イエスは、どうしたでしょうか? 子供を一人呼んできました。そして弟子達の真ん中に立たせ、こう言います。

「心を入れ替えて幼い子供のようにならなければ、天の王国に入れません。ですから、幼い子供のように謙遜になる人が、天の王国で一番偉いのです。」キッパリ‼

 子供達は野心を抱かない。自分達の間の身分については考えない。同じ特質を持つ者が偉いのです。(ジャイアンも幼い頃はそうだったかもしれません。僕の物はのび太の物 )

弟子達はイエスの教えに納得。みんな子供のように謙遜になるよう努力した筈です。はずです……ハズっが……またやらかします。

 

 それは西暦33年の過ぎ越しを祝うため、エルサレムに行く道中で起きました。ヨハネとヤコブの母親が発端です。息子達の野望を知り、イエスに頼み事をします。

「この息子達が、あなたの王国で一人はあなたの右に、一人は左に座れるようにしてください」「お母さん、やめて!」ではなくそれはヤコブとヨハネの願望。それを聞いていた10人の弟子は「どうぞ、どうぞ」ではなく激怒する。

 

 目立った立場を得たいという欲求の根の深さにイエスもびっくりしたでしょう。またしてもイエスは優しく諭します。

「国の支配者は威張ったり、権威を振るいますが、あなた達はそうであってはなりません。偉くなりたい人は、奉仕者でなくてはならず、一番でありたい人は、皆の奴隷でなければなりません」キッパリ‼

 後日、 過ぎ越しの晩、食事をする家でイエスはその教えを実践します。旅で汚れた足を拭くのは奴隷の仕事。だから自分のやるべきことじゃないと考える弟子達の足をイエスはキレイに拭いたのです。ちゃっかり者のぺテロは頭も手も拭いてとおねだり。ぺテロは思った事をすぐに口に出しちゃう。そういうとこだぞ。でも私、キラいになれません。――弟子達は納得。奴隷になるよう努力した筈です。……はずです……ハズ。

 その直ぐ後にまた「激しい議論」勃発。何で?何で?何で?とイエスは悲しくなったでしょう。

 (こういう時って誰かが言い出すのかな?いっそ、イエスが、「私の死後はぺテロ君は社長代理です。ヨハネ君、ヤコブ君は取締役、部長はトマス君頼むよ!」って決めてくれたら争わないかも。キリスト教の全否定になる)

 ――イエスはまたもや辛抱強く弟子達を教えて、ユダ-イスカリオテ以外の全員と天国で共に過ごすことを約束されます。安心したねぇ。ぺテロ。

 しかし、先の事をご存じのイエスはぺテロにあることを言い渡します。心して聞くのだぞ、ぺテロ君。

 

 




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