第30話 ぺテロ 性急に話す

「私の後ろに下がれサタンよ」――この言葉キツい。きつすぎる。私なら固まる。そのあとぽろぽろ泣いちゃう。

 これはぺテロがイエスから言われた言葉だ。しかも背中を向けられてシャットアウトされた。

 ほんの少し前まで、ぺテロは仲間とイエスの話を聞いていた。イエスはその当時の宗教指導者達、パリサイ人とサドカイ人に奇跡を見せるよう挑発されていた。奴らは神を冒涜するものとしていつでもイエスを捕縛したいと願っているのだ。イエスは挑発にはのらない。

「パリサイ人とサドカイ人のパン種に気をつけなさい!」イエスに警告される弟子たち。

 聖書の中で、パン種は腐敗を意味する。つまり、人々に悪い影響を与えるパリサイ人とサドカイ人の教えに注意するよう警告した。合点承知の助とばかりにみんな頷く。そしてイエスは弟子達の信仰を確かめるためこう聞く。

「あなた方は、私の事を誰であると言いますか?」イエスの質問にぺテロは一番に答える。

「あなたは、キリスト、生ける神の子です」

 ドヤ顔?こういう人いるよね。クラスに必ず一人いた。ぺテロはそういうタイプです。

「この問題出来る人?」「はぁい!はい、はい」手をあげ黒板に殴り書きして正解。

「良くできました!」の誉め言葉。ぺテロもイエスからお褒めの言葉を頂く。そして王国の鍵(象徴的)を与えられる。この鍵とはイエスの死後、ユダヤ人だけでなく、諸国の人を弟子とする権威の事だ。そしてあなたは、幸福な者だと是認までされた。ぺテロ、今あなたは承認欲求満たされましたね?もしかしたら弟子の中で、トップだと思ってませんか?だからこのあと失敗するのです。優越感に浸るって恐い。


 イエスはそのあとすぐ、自分がエルサレムに行って、苦しみ辱しめを受け、殺されて3日目によみがえらされる事を弟子達に示した。

 キリストは杭にかけられ死ぬ事を知ってましたよね?それがイスラエルの神様の目的だということも。……ぺテロ、その行動はダメ。


 ぺテロはイエスをわきに連れていき、こう言ってしまうのです。厚かましくも叱るのです。

「主よ、ご自分を大切になさってください。あなたはそのような運命にはならないでしょう」

 耳疑いますよねぇ。人類の為に天から遣わされた意味?神様のご意志を無視して上から目線で語ってますね。動機はいいんです。大好きなイエスに死んで欲しくないのです。弟子みんな同じ意見でした。性急に話したばかりに、ぺテロはサタン呼ばわりされちゃうのです。


「あなた達の気持ちはありがたい」「そういう気持ちがうれしいですが……」「その気持ちだけ頂いておきますね」イエスには前置きなんていらない。(どこかで読んだフレーズだわ)

「私の後ろに下がれサタンよ」の前は、現代人風に「ぶっちゃけ」くらいかな?


 ぺテロは言い返さなかった。ここがぺテロの素晴らしい特質だ。謙遜に師の叱責を受け入れて、気持ちを切り替える。神様の考えではなく人間の考えを抱いた自分を反省する。イエスはぺテロの心を読んで岩塊になること期待する。


 なのにまたやらかします。ぺテロ頑張れ。

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