第7話 ダビデ アビガイルとの出会い

 ダビデは、逃亡生活中、六百人の戦士と共に荒野に住んでいた。食料は狩りで得た羊など。決して他の羊飼いの羊には手を出さない。むしろ、略奪者からの防護壁として働いた。


 ダビデは、それら六百人の為に、その土地で裕福なナバルという男に援助を求めた。このナバルという男、ケチで粗暴で大酒飲みで、いつも威張り散らし皆に嫌われていた。


「貴重なパンや水、動物の肉をなぜ、分け与えなければならんのか」怒鳴り散らす。


「各々自分の剣を帯びよ!」ダビデも怒ってナバル家の皆殺しに出撃。


 そんな時に、アビガイルが登場する。ナバルの妻である。容姿端麗、思慮深く、知恵や勇気を示した女性だ。


 ダビデが夫の命を奪うことを知って、贈り物を持ってダビデのもとに向かう。パン二百個、ぶどう酒、お菓子など持参し、復讐しないようにダビデに嘆願する。ダビデが流血の罪に陥るのを思いとどまらせるためだ。


 ダビデは、贈り物を受けとり、血の罪を犯させないよう行動したアビガイルに感謝した。


 ナバルみたいなおじさんいるよね。名前も『無分別な』とか『愚鈍な』という意味がある。残念。


 アビガイルは、謙遜で識別力もある女性。ナバルが酔った時は大切な事は一切話さず、素面になるのを待つという賢さだ。

 

 ナバルが死んだ後、ダビデに結婚を申し込まれている。ずっとダビデを支え愛された女性。

 

 拉致された時にはダビデに救い出された事もある。

 

 ダビデは、思慮深く勇敢な女性を愛し、一生大切に守るジェントルマン。


 私もアビガイルのような女性になる。単純な私はそう決意した。その特質を表す機会があった。

 

 ♢♦︎♢♦︎

 十年前の暑い夏の昼間。夫の運転で買い物に行った。道が狭い。隣を走るスクーターのおっさんと何度も接触しそうになる。


 「邪魔だ、どけ!」夫が怒鳴る。おっさんキレてスクーターを車の前につけて私達を停めた。夫が悪いから謝らなきゃと思った次の瞬間、夫は、車を降りてまた怒鳴る。おっさんもヒートアップして夫の胸ぐらを掴む。


「私はアビガイルになる」自分に言い聞かせ車を降りて二人の元へ駆け寄った。


「コノヤロー、殺すぞ!」おっさん怒鳴る。

<コロス>私の地雷を踏んだおっさん。夫には、お前は手を出すなと指示し、近くに鉄パイプでも落ちていないか探した。正当防衛にしておっさんに殴りかかろうという衝動が起きた。


「俺は家に帰ればピストルがある。この若造いつか誰かに殺されるぞ!」

 おっさんが私に怒鳴る。


「だったら早く家に帰ってチャカ持って来て、この男殺っちゃって下さい」

 一応敬語。

 喚き散らす私に、おっさんも夫もドン引きして冷静になったらしく、夫は私をなだめるし、おっさんは呆れて帰って行った。

 

 その後も怒り収まらず、夫の胸にあるおっさんの爪痕の傷に、マキロンをぶっかける私。


「今度けんか売ったら離婚だからな!」


 私はアビガイルにはなれなかった。粗暴で、無分別で愚鈍なナバルのようになっていた。私が血の罪を負うところだった。

 

 ダビデに愛される特質ゼロやないか。


 でもやっぱりダビデが好き。


 

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