第6話 ダビデ 逃亡生活

 「義なる者のあう災いは多い」

ダビデは自分の逃亡生活を振り返り、詩編三十二編と五十六編でその時の心情を綴っている。


 サウル王に執拗に追い回され、命狙われて逃げるなんて考えなかったよね。


 サムエルのもとにも避難した。見つかりそうで逃げる。全国指名手配された人のように隠れて生きる。ダビデ、義なる者なのにね。残念。


 よりにもよって、ゴリアテの郷里ガトにも足を踏み入れる。この町の英雄を殺してしまっている。敵国に入ったら死刑間違いない。


 あろうことか、ゴリアテの剣持ってるし。そんなの捨てなさい。今度は、あなたがその剣で首チョンパされちゃうよ。


 敵の僕に見つかるダビデ。ガトの王様、アキシュのもとに引きずり出された。


 ダビデ、逃げるために考えた。顔はまだアキシュ王には知られていない。


 よだれをひげにたらし、門の扉に十字印をつける。正気なのを偽り、狂気のように行動したのである。まあ簡単にいえば、基地外(きちがい)になったふりをした。

 

 これがイスラエルの英雄であるわけがない。アキシュ王はダビデをガトから追い出し、僕にこんな者を連れてくるなとご立腹。


 ダビデ、逃げるために必死だったんだ。


 タモリがテレビで言ってた事を思い出した。


 痴漢に襲われそうになったら、公園に誘い、クシをくわえて月に向かって叫べと。

 誰か助けてとか、防犯ブザーより効果があるらしい。ヤバイ奴には手を出さないだろう。

 満月なら狼女に変身するかもしれない。


 ダビデは強いだけじゃなくて、知恵も知力も持ち合わせた賢い男。


 洞穴に隠れて泣いた事もあるでしょ。ガトで捕まった時の事をこう記述している。


「死すべき人間がわたしにかみつこうとした。私を虐げつづけます。私は神に信頼を置きました。私は恐れません。私の涙をあなたの皮袋に入れて下さい」  詩編五十六編


 なんて繊細で正直な人。純粋で美しい信仰心も示している。神様がいたら、かわいくて助けたくなるでしょ。

 

 皮袋とは水や油、乳、バターやチーズ、ぶどう酒を入れる容器。神様の皮袋という例えが詩人ですこと。


 そうだ! そうだった。

 詩編を書いたダビデは、優れた詩人なのだ。美しい詩をたくさん残している。


 文武両道。片思いしてきた男の子は、ほとんどこのタイプ。

 

 だから私はダビデに恋した。


 

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