第5話 中枢都市

 電脳化されすべては住みやすいように完全の調節された選ばれた市民が住む都市といえばディストピアであると想像する人は過去にたくさんいたそうだが、実際に出来たその都市を見て感嘆こそすれど批判を寄せる者はほとんどいなかった。

 反対派も批評家もすべて洗脳と追放に処すれば誰も文句は言えなかった。人々が簡単に自分の思考を脳ごとネットの海に差し出していたこともその行為を手伝った。

 結果としてこの都市は急速にそれこそ魔法でも使ったかのような速さで生まれた、縦横無尽に張り巡らされた道路、鉄道などの交通網。碁盤上に所狭しと立てられたビル群。都市の出入り口に設置された生体認証装置。中央部にそびえ立ちそれらを総括し管理する管理塔。

「それでここにわたしの秘密がかくれていると」

「そうさ、ここがこの地域の全てを犠牲に作られた未来都市ルワロト。市長は世界に先んじた都市なんてうそぶいていたが」

 メトロが都市に近づき徐々に速度を落としていく、プラットホームが見えてくる。ここからが正念場だ。生体認証を通り抜け都市に入り、警戒厳重な管理塔に入り込まなければならない。

「よう、エー久しぶりだな」

「やあ、また世話になる」

 プラットホームは比較的警戒が緩やかであり、交換屋と呼ばれる物品の売買を行う密売が横行している。その一人、ローとは知り合いであり荷物の仲介を何度もしてもらった仲だ。

「金五gふむ、二万三千」

「せめて二万四千」

「分かった!二万三千五百!」

「よし、売った!」

 貰った金の交換は成った。これで何かあっても数日はしのげるだろう。

「また御贔屓に」

 ホームから降りて、生体認証の改札を通る。本来なら認証チップを持たない僕は通れないが彼女が先に通ることによって通ることができた。中枢システムの一部分であるというのは間違いではないらしい。


「久しぶりだな坊主」

「えっと外人街のおっさん!」

「覚えててくれて光栄だぜ!ここからは俺が案内しよう管理塔に行くんだろう?」

 外人街で襲ってきたチンピラのおっさんが管理塔までの案内をかって出た。目的は分からないが使えるものはすべて使いたい。申し出を受けることにした。


「さて、説明しよう」

 おっさんは管理塔に向かう車内で経緯の説明を始めた。

「うちのボス。まぁそこの嬢ちゃんの姉妹なんだが、親に挨拶してこいってことらしい。本来はなんとか製薬のが案内する予定だったんだが坊主が来た。まぁ嬢ちゃんも気に入ってるようだしいいんだが」

 隣で話を聞いていた。ミリが顔を赤らめる、かわいい。

「さて、そっちの話は後で聞くから今はとりあえずあれを見てこい、中身は知らないがすごいらしい」


 管理塔の裏に一か所不自然に色が違う場所があった。そこにアクセスキーをかざすと人が二人やっと乗れるほどの籠が現れた。乗れということか。

 暗いトンネルを垂直におり続けた頃。正面に巨大な金属の扉が現れた。それはゆっくりと開いていき中身を眼前に露出させた。

「ようこそ、我が娘よ。我が知の集合よ」

 巨大な脳?が魔法陣の上に配置された培養層に浮いている。こいつがシステムの中枢、この都市が急速に築かれたタネ。

「わざわざ、眠らせてまで人の手に託したのはやはりよかったようだ。施設に居た時にはなかった感情の発露が見られる。喜ばしいことだ」

「どうしてわざわざ私を呼んだの?離れさせたの?」

「疑問に答える前に私のことをまず話そう、私はかつて支配者だった者。死した後も生かされ続ける無様な者」

 聞いたことがある、かつてこの地球に存在した人ならざる支配者が人の手によって狩られたというおとぎ話を。

「少年が思った通りだ、そして今はこの都市の全ての管理者だ。この都市の技術はすべて私の模倣品に過ぎないためだ、故に娘たちには私の知らない人の世界を見せたかった」

 体があれば涙ながらに言ったのかもしれない。それは人ならざる者ながら親心であるように思えた。

「ありがとう。施設から出してくれて、私はそのおかげで様々な人と出会えた。さまよっていた私を保護してくれたフレア、なにも知らない私をここまで導いてくれたエー」

 思い出し噛み締めるように一つ一つ語っていく、ミリは神託を告げる巫女の要であった。

「よくわかった、我が娘よ。これからも彼の者と歩み見分を広げよ、我の役割が終わるその日まで」


「それでこれからどうするんだ?」

 律儀に管理塔の前で待っていたおっさんは開口一番聞いてきた。

「二人で旅をしようと思う、こんな都市はもうまっぴらごめんだからな」

 ミリと相談して決めた。あの支配者の望み通り見分を広げるために色々な場所巡っろうとこの都市のシステムが寿命を迎える時まで。

「そうか、寂しくなるな。まぁ何かあったらうちのアーケン商会を頼ってくれボスも喜ぶ」

 郊外まで送ってくれた、おっさんは名刺を渡しながらそう言ってくれた。

 さて、どこへ行こうか。


「我が娘よ、その肉体をもって眷属を増やし続けるのだ。いつか我が復活するその日まで…」

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魔電脳都市 河過沙和 @kakasawa

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