第4話 都市へ
「ねぇ、着替えてみたのどう?」
色々な事情とは無関係に服を見せて喜ぶミリを見るのはうれしかった。あんな状態にあったことを考えるとこのまま二人で逃げたいとも思うが、彼女がこの都市の中枢システムの一部であることを考えるとそれも難しいだろう。システムから分離する方法を考えなければ、そのためには原因であるシステムにアクセスするのが一番簡単だろう。
「あら、かわいいわね。エー君はどう思う?」
「かわいいと思う!」
白いシンプルなワンピースだったがミリの白い肌と髪にはぴったりとあっていてその美しさを際立てていた。体の線が出るのはいささか気になるところではあるが…。
「何を話していたのか知らないけれど纏まった?」
「ああ、危険だと思うし僕はシステム中枢に一人でアクセスしてみようと思う。その間ミリを頼みます」
「私はいいけど、あなたはそれでいいの?」
「駄目よ、私も行く」
危険だと思った、今まで一人で生きてきた僕は単独行動なら得意だが人を連れての行動はあまりしたことがない。それに渦茂製薬の目的がミリとアクセスキーであるならその二つが同時に存在しているのは彼らの目的達成を早める手伝いをするだけだ。
目的が分かっている以上はそれに対する対策はしなければいけない、だが彼女は断りついてくるといった。
「どうして?」
「あなたは私のために命を懸けた、だから次は私が貴方のために命を懸ける番。それに私のためにしてくれるのに待ってることなんてできない」
そうだ。彼女のためにするのだ、だからこそ一人で行こうとも考えたのだ。彼女を守るためにここに置いていこうとも考えたのだ、だが彼女が敢えて自ら飛び込もうとするのならそれを止めることは出来ない。
「わかった。行こう」
「うん」
「お二人さん盛り上がってるとこ悪いけど早く出てってくれない?お客さんがお待ちみたいよ」
そういって覗き込んでいた画面をこちらに向けてくれた、そこには見覚えのあるコートの男が立っていた。
「世話になりました。ではこれで」
「またくるわね」
「またねー、あっこれお土産」
出ていこうとする僕たちに物が入った袋を渡してくれた。中には爆弾、拳銃、金の小粒そういったものが入っていた。
「終わったらまた来てねー」
おもしろい人だった。
人払いがされた、ゲートの前に彼は立っていた。腕は新しいものに交換され、先程は隠し持っていたショットガンを堂々と構えていた。
「待ちわびたぞ少年と少女。決着を着けるために待っていた、命令は少女を再び確保することだが少年に興味がある。もう一度戦わないか?君が勝てば見逃そう」
「今どき奇矯な人だね。いいよやろう、どうせ逃がしてはくれないんだろう?」
腰に下げたスモークの確認、予備のナイフと袋から拳銃を取り出す。今回ばかりは逃げることは出来ない、であれば少しでも勝率の高い方法をとるだけだ。
「栄、勝算はあるの?あれは相当強いわよ」
「やって勝てないことはないとは思うが、まぁやってみるさ」
彼女を遠ざけて、構えをとる。急所をついて動けなくするくらいしか思いつかないが何しろ相手が何を使うの分からないのだ。臨機応変にするしかない。対策できるのはいま構えているショットガン位だ、詳しいことは知識がないが義体を使用しているということはあるべき反動はないこと、散弾で広域への攻撃が可能であるということか。走り回って避けるにも限界がある上に素人目にもわかるほど切り詰められた銃口は取り回しが簡易であり近接戦闘にも対応できることが伺える。
格闘に持ち込んで、急所を突く。単純だが慣れた手法でやろう。それにあの口調からは武器を他には持たない主義であるだろうことも推定出来る。
「よし、始めよう!」
「来い!少年!」
拳銃で射撃、直後に突貫、距離を詰めて急所を切りつける。義体に任せて防御、散弾を射撃、距離をとって構える。
想定内、スモークを投擲、位置を変えての射撃、敵の発砲音に合わせてナイフを頭めがけて投げつける。
「同じ手は食わん!」
銃口でナイフを跳ね飛ばす、予測移動場所に射撃、それと同時に接近。
「終わりだ」
設置した爆弾を起爆。
「あははは、負けた。俺の負けだ」
体のあちこちが傷だらけになりながら彼は笑っていた。自分がやったとはいえ辛いものがある。
「じゃあ、僕たち行くから」
「待て、名前だけ教えてくれないか?」
「アデン・栄。次あった時にはエーと呼んでよ」
「ああ、また会えたならな。エー」
彼だけが刺客だとは思えない、だが一難去ったことにひとまずは安堵すべきか。ミリは複雑な顔をしていたが進むことを覚悟した以上は進むしかないのだ。
都市に出るため北を目指す、港に直通のメトロが出ている駅があるはずだ。それに乗ればまっすぐにつけるはずだ。本来システムに弾かれる僕も恐らくはミリがいれば都市に潜り込めるはず、通行料も貰った金の換金で足りるだろう。さて、生まれて初めての都市に乗り込むとしよう。
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