第3話 理由
倉庫を出る、逃げはしたがそれ以上の計画はない。だが、頼る場所はある。都市の開発計画その初期段階で放棄された埋め立て区画がありシステムに様々な理由で省かれた人々が住んでいる。そこであれば彼女を匿いつつ今後の計画を立てる時間も確保できる筈だ。
「ねぇ、少し私の話を聞いてくれない?」
港湾施設から船を出して二時間程度で着くはず、船は漁師のおっさんに出してもらうか。
「聞いてるの?ねぇ聞いてるの!?」
「ごめん聞いてなかった、何?」
「分かったわ王子様。もう一度言うわね、港の施設に難民保護施設が併設されてる。そこの職員に知り合いがいるの彼女から支援を受けましょう?」
驚いた、さっきまで眠っていたはずなのに彼女の言葉に迷いはなく思考も済んでいるように思えた。まるですべてを知っているような尊大さも伴ってはいたが。
それに魅力的な提案でもあった。保護を一時的にでも受けれるのはありがたかった。
「それでいこう、案内してくれ」
税関のすぐ横、四方にバリケードを張り巡らされた白い長方形の建物。そこが目当ての施設だった。警備をしている兵士をどうやって撒こうかと考えていた矢先、さも当然のように僕の手を引いて彼女は近づいて行ってそのまま通り過ぎてしまった。兵士たちは何も見ていまないかのように微動だにもしなかった、その目には明らかに異様な色が浮かびハッキングを受けているようだった。
「なにをじろじろと見ているの?早くいくわよ」
彼女は何者だろうか?通りすぎるだけで人間二人をダウンさせる彼女は一体…。いや、今考えても仕方のない事か彼女が何者であれ今は逃げることが優先だ、それには彼女の協力が不可欠でもある。
長くここに拘留されて疲れ切った顔を浮かべている難民たちを尻目にどんどんと施設の奥に進みやがて医務室と看板が掲げられた部屋の前で止まりドアをノックする。
全て慣れた手つきで行いしまいには勝手にドアを開け放ち声を彼女は中にかけた。
「フレアいる?」
「なに?なんか懐かしい声がするけど誰?」
部屋の奥からは白衣を着て赤い髪を適当に後頭部に束ねた、若い女性が出てきた。フレア・バートンそれが彼女の名前だ。難民支援の為、母国を離れはるばるこの国まで来て医者をやっているよく言えば正義感あふれる人、悪く言えば破天荒それが彼女だと聞いた。つまりは変人なのだと。
「それでミリ、久しぶりに顔出したと思ったらどうしたのその服?そんなので男の子連れてて面白いわ」
「なにそれ嫌味?嫌味なのね?大体そういうのなら服を貸しなさい!」
親し気な様子で話す二人は喧嘩しているようでもあったが微笑ましかった。というか名前で呼び合われても知らない僕には肩身が狭い。
「彼は誰なの?」
やっと気づいた、何度声を掛けても聞こえてないようだったし仕方ないかな。
「えっと」
「僕はアダン・栄。スラム街を中心に運び屋をしているんだ、成り行き上彼女と一緒にいる。以後よろしく」
自己紹介がまだだと思い至り、自己紹介をする。というか名前すら聞いてなかった。
「はい、ありがとう。私はフレア・バートン。ここで医者をやってるわ、それとこっちは夕霧 美里。言いづらいからミリって呼んでるわ」
成り行きだったとはいえ彼女の名前も知らずに連れまわしていたと考えると少し恥ずかしくなる。
「その顔だとなにも知らなかったって顔ね。まぁ人見知りな子だし仕方ないか」
「そんなことより服を貸してよ!着替えてくるから」
「奥の棚に予備の服が入ってるから適当に着ればいいわよ」
彼女は許可をとって服を着替えに奥に消えていった。それを見計らってフレアが話しかけて来た。
「君の荷物、それ少し貸してくれない。心当たりがあるの」
倉庫から逃走する際、必要なものだと感じて持ち去ってきた。荷物は少し封が解けて中身が露出していた。緑の液体?カプセルに入っていたものと恐らくは同じものが封入された機械が頭を覗かせていた。
「やっぱり、これシステム中枢へのアクセスキーだわ。ミリとこれ…なるほどね。あなたにも説明するわ、ここだけの話ね?」
荷物の中身を確認していたフレアは会得がいったという顔をした後、唐突に説明を始めた。夕霧 美里 彼女の事について。
ある時期からシステム中枢に異常が発生するようになった。寿命である可能性が高いと判断されたそれの代替として生体を用いた分散型の管理システム、発案者の名前を取って夕霧システムが考案され製造された。その一つが彼女であるという。そして既存のシステムに対するアクセスキーが荷物の中身である。
「これらが成り行きとはいえ貴方の手の中にあるということは貴方はあれの会いに行く資格があると認められたということ。彼女を連れて管理塔へ行くのよ、道は彼女が開くわ」
唐突に言われたその状況が理解できなかった。システムの寿命?夕霧システム?管理塔?彼女を連れていく?何もわからなかったが、しなければいけない使命感のようなものがあった。
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