第30話

「君たちは人間と一緒に暮らしてるけど、大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」

カイトの質問が唐突だったのでゴフが聞き返した。


「心を奪われたり、その手前の、薬をやられたり、叩かれたり、ご飯が食べられなかったり、酷いことされてないの?」

ゴフはちょっと考えながら、答えた。


「私は、大丈夫よ。猫は自由に生きるもんだと思われてるからね。でも、バドはムチを使われたり、いろいろ道具を身につけられてる時があるわね。」

「バドは大丈夫なの?」

「ん?ああ、ムチといっても、山本さんは叩くためにムチを持ってないし、合図くらいにしか使わない。とっても優しい人だ。


以前、街外れの公園に馬のジャンプの大会があったんだ。

僕は山本さんと大会前のエキシビションで低い障害物を飛び越えるのをやったんだ。


低くても僕は一生懸命飛んだよ。そして周りの人たちはみんな喜んでくれた。

僕はとっても誇らしい気持ちになって、すごく楽しい気分だったんだ。

でも、そのあと大会を見てたら、馬をムチで叩く人がいた。

合図で叩くような優しいものじゃないよ。

本気で痛めつけるように叩いているんだ。


その馬は完全に怯えて走れなくなちゃったのに、それでも叩き続けてたんだ。

周りに人が集まってきて、叩くのをやめたから、その馬は落ち着いて、退場して行ったけど、目に輝きはないし、人の進もうとする方向を間違えないようにビクビクしながら退場して行ったよ。


僕は見てて怖くなって、山本さんに飼われてて良かったって思ったけど、あの子はきっといつも叩かれて、命令されてるんだろうなって思うと、悲しかった。

人間には、優しい人と、恐ろしい人がいるんだよ。あんな恐ろしい人間になるくらいだったら、馬に乗るのをやめればいいのに。。。。」

「でも、やめたらその馬は捨てられて殺されちゃうのよ。でも馬だけが可哀想なんて事はないのよ。私達猫も人間に気に入られな

かったら一緒よ。」

ゴフのツッコミにバドはムッとした。


「だから、優しい人間になって欲しいんだよ。なんで優しくなれないんだろう?」

「その馬は悪い子なのよ。だから人間に酷いことをされても、その子が悪いのよ。動物だけじゃないのよ。人間は自分が結婚した相手や、自分の子供でさえ、酷いことを平気でやるの。」

話を聞いていたカイトは、たまらずしゃべり始めた。


「そんなのおかしいよ!僕たち野生動物だったら、嫌なものから逃げることができるけど、君たちは、逃げることができないじゃないか。そんな酷い事するんだよ。」

ゴフは予想外のカイトの発言でびっくりした。

「私が酷いことをやってるわけじゃないのよ。話が刺激的すぎたかしら、びっくりさせてごめんね。」

たしかに、ゴフがやっている話ではない。カイトは反省した。

「また、やちゃった。僕、興奮するとついついしゃべっている人と、やってる人が混ざってわけわかんなくなっちゃうの。。。」

「カイトは心配すると、なんとかしなくちゃって気持ちが勝ってしまうから、許してやってくれよ。悪いやつじゃない。」ドトウが助け船をだした。

「それは私もわかってるよ。この子はいい子だ。バドと同じで、困っている人を助けたい気持ちが強い子だ。」

カイトはとりあえず話が落ち着いてホッとした。


やがて、バドとゴフの家、山本さんの家が見えてきた。

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黒が来る 別所高木 @centaur

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