第11話 アイを教えてくれないか

「わ、たし……。忘れてた。大事な事だったのに……」

 ぽろぽろとこぼれ落ちる彼女の涙が俺のコートを濡らした。

 事件のショックで記憶を失っていた君と、アンドロイドになる代償の為記憶を失った俺。運命のイタズラか、また巡りあい、重なり合った。


「私、もう離したくない」

 ぎゅっと強く握られる手。もはや「体温」など無くなった手に彼女の温もりが伝わってきて、じんわりとあたたかくなっていく。

「あの日もう逢えないと思った黒斗君とまた逢えたんだもの……。貴方と離れる以外、怖い事なんて一つもないわ」

 涙の残るまつ毛。まるで花のように笑う君。俺には他の選択なんて考えられなかった。


「行こう。……どこか、二人きりになれる場所へ」

 彼女の手を引く。彼女がうなづく。


 この永久に続くと思うような夜空にだって、明日は来る。君と何度離れようが、生まれ変わろうが。君を見つけて、俺はこう言うんだ。


「アイを教えてくれないか」と。


 本当の俺を見つけてくれた君となら、どんな暗闇の中でだって歩いて行ける。


 ……そう、信じてるから。


 まだ、暗い夜は明けない。それでも、俺達を応援するかのように、星達は輝く。小さくとも、懸命に輝くその光と共に、彼女と暗闇を駆けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイを教えてくれないか @yo-ru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ