第16話 掛けまくも畏き
翌朝早く、吉野に戻る玄斎と寛太を、宮子は父と共に見送った。
昨日、宮子はあのまま屋上で眠りこけてしまい、父に背負われて家に帰った。目が覚めたのは、真夜中だった。
怒られるのを覚悟していたが、「明日、玄斎様と寛太君を見送るから、お風呂に入ってもうひと眠りしなさい」と普通の口調で言われただけだった。宮子が謝ると、「友達のためを思うのはいいことだ。でも、もう少し、お父さんのことも信用して欲しかったな」と、父が少し寂しそうに笑った。
「まあ、宮子も少し大人になった、ということか」
正直、宮子は体のだるさが取れていなかったが、玄斎の後ろに控えている寛太は、大きな荷物を背負いながら、疲れた様子は微塵もない。
玄斎が、真言を唱えながら数珠で宮子の頭と肩に触れ、加持をしてくれる。ふっ、と体が軽くなり、視界が鮮やかになる。空気の流れまでもが目に見えるようだ。
「精進なさいよ」という言葉に、宮子は力強く「はい」と答えた。
寛太が近づいてきて、気まずそうにささやく。
「言っとくけど、
母親を殺した犯人を呪うために、修法を研究していると言ったことだ。ハッタリという言葉こそが、ごまかしという可能性もある。けれども、沙耶を送るのを手伝ってくれた寛太なら、きっと大丈夫だ。
宮子は、祈りをこめて寛太に微笑んだ。光の方へ、迷わず進みますように。
「わかってるって。……修行、がんばってね。鈴子が、ちゃんと録画しとくから絶対また来てね、って言ってたよ」
本当は、また来て欲しいと思っているのは自分なのだけれど、それは言ってはいけない気がして、宮子は言葉を呑み込んだ。
「ん。サンキュ。必ず来るよ。鈴子ちゃんによろしく。お前も、がんばれよ」
寛太が一瞬だけ笑って、小さく手を振った。つくろったところのない、素の表情だ。
玄斎と寛太が一礼し、砂利を踏む音を響かせながら出立する。二人の後ろ姿が、朝靄にかすみ、見えなくなる。
「さて、私はこのまま朝拝する。宮子はもう一度寝てきていいぞ。まだ五時だ」
「ううん、私も一緒に朝拝する。明日も、明後日も」
父が、そうか、と言って何度もうなずく。
気持ちを引き締めて、宮子は神殿に入った。ひんやりとした空気の流れに、額の中央がうずく。お
これが、母が感じていた世界なのだ。
父が、神殿の正面に座る。所作が見えやすい位置に、宮子のための座布団をしいてくれる。畏怖の念から立ちすくんでいた宮子は、意を決してそこに座った。
失礼のないよう、父の所作をしっかりと見て、お辞儀の角度まで合わせる。礼は二回、続いて、右手を少しずらして二度手を打ち鳴らす。
毎日のように親しんでいたはずの
「
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