傘おじさん

小川貴央

第1話 傘おじさん


「傘おじさん」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


毎週末に欠かさず近くの低い山の

ブナ林の大木相手に突き、蹴りの

荒行鍛錬をしていた。


見る見る暗雲が立ち込め、土砂降り

になってきた。


スタスタスタ・・、トコトコトコ・・


目の前の小さく狭い屋根だけ掛かった

雷除けの避難場所に小さな女の子を

連れた母親がずぶ濡れになりながら

駆けこんで来た。


「ママー寒いよ、濡れたよー」


「ああ、よしよし、ごめんね、急に

土砂降りなるなんて・・・」


止みそうにないくらいの激しい雨脚に

小さな女の子は半べそを掻いてのが

見えた。


思わず駆け寄り、予備で持ってた大きい

傘を差し出して「コレ、使って下さい!」


母親は「いえいえ、あなたが濡れますよ

そんな見ず知らずの方にそこまで申し訳

ないことなど・・・」


「いいから!そんなことより女の子が

風邪をひいたら困るでしょ!」


「本当にいいんですか?ではお言葉に甘えて

家に着いたら、直ぐお返しに来ますから!」


「いや、その坂道を登り下ると直ぐ県立高校

の白い建物が見えて来るから、俺の母校です、

卒業生に頼まれたからと預けておけば良いから、

天気の良い日にね!」


「すみません、すみません、本当に・・・」

母親が何度も頭をペコペコ下げてる時に、


小さな女の子が「傘おじさん、ありがとう!」


母親は「コレ、変な事言わないの、すみません」


「ハッハッハ、傘オジサンか、初めて言われたよ、

嬉しいよお嬢ちゃん、でもな、それ言うならな

傘兄ちゃんって言ってくれよ」


女の子「はあ~い!」と片手を上げて返事をした

その仕草の可愛らしかったこと。


今でも、土砂降りになると、そんな事が想い出され


仄々と心が温かくなってくる。



そういえばもう二年も前なのに、母校には未だ傘を


取りに行くのを忘れたまんまだった・・・

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傘おじさん 小川貴央 @nmikky

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