EPISODE Ⅱ 五十年前の真実

1

2020年1月某日。あれから半年の月日が経ち、巡査部長の末永健はだいぶ未解決事件特別捜査班での業務に慣れてきた様子だったのかテキパキと仕事をこなしていた。今の自分にはそれ以外にも警部補の明神光を監視するという上からの密命もあり、それは監視されている本人も自覚している事だった。

 朝からヤケに物静かな正田蓮介を明神光と末永健は【いつも明るくて飄々としている課長が元気無いなんて、気味が悪い】と同じ心中で見つめていた。南雲冴子なら飛びつく勢いで駆け寄るが自分達はさほどそうでは無い。だが,聞かないなら聞かないで更に面倒な雰囲気が続くのは痛た稀もない為、さり気なくだが聞いてみる事にした。

「あの、班長。さっきからどうなされたんですか?」

光が心配そうに聞いてくるのを待ってましたと言わんばかりに正田は勢い良く部下である光と健の両人に駆け寄った。

「聞いてれるの?君たち。」

【はい、触り程度なら】と言った具合に班長である正田の話を二人は聞こうとした。

「実はさ・・・、妻が家を出ていったきり、帰ってこないんだよ。」

その正田のカミングアウトに光と健は思わずポカンとなった。要は痴話喧嘩かと納得したものの、話の腰を折る訳にはいかないから続きを聞いた。かと言ってなぁなぁで聞くとそれはそれで正田の心象を悪化させるなと光は判断し,聞き続けた。

「奥様のご実家とかには電話したんですか?」

「あぁ,一応したんだが、コチラにも帰ってきてませんよと言っていたんだ。」

 すると健はある質問をした。

「奥様は確か大手企業の社長ですよね?何処かにご旅行に行ったとかは無いですか?」

「勿論、僕も警察官だから航空会社には身分を伏せて聞いてみたさ。でも、全く渡航歴が残ってないって言うんだ。」

 二人は正田の話を聞いてると事件の匂いがしてきたのか鋭く質問した。

「ちなみに奥様は何日ぐらい帰ってきてないんですか?」

「まぁ、彼女の場合だと3日間も僕に連絡を寄越さないのはザラだけど、今回は一週間だし、流石に変だと思って君達に相談してるんだよ。」

 身内【警察内部の関係者】の捜索となると先ずは刑事部の仕事ではなく、他の部署だと生安(生活安全部)だけでなく人事部の警務課にも相談しなければならない事案となる。しかし、正田のこの輝きが増してるかのような、乞うかの様な瞳に渋々、光と健は折れて自分達二人だけで捜査に当たる事になった。ー

 正田に教えられた通りの場所に足を運ばせた光と健は呆れた口が塞がらなかった。何とそこは更地に近い一等地だったのだ。ふざけるなよ、オッサン。とばかりに健は正田のスマホに電話を掛けた。

「どうですか?」と光は聞くが「いいえ、正田班長、出ません。」と答えた。困ったぞとばかりな表情の二人は近くに住んでいる農村の老婆に話を聞いてみた。

「すいません、此方に正田蓮介さんのお宅はありませんでしょうか?」

「あぁ、正田さんならつい最近、引っ越したんですよ。」

 二人はそれを聞くと驚いた顔になった。どうやら婿養子である正田は妻から実家の経営を手伝えと言われ、それが元で口論となり別居したらしい。光と健は顔を見合わせ要は痴話喧嘩かと呆れた顔でお互いに納得した。

 部署に戻ると光と健の両人は厳しい表情で正田に駆け寄った。

「もしかして、分かった?」

 すると光は持ち前の洞察力からなる調査能力で正田に書類で手渡した。

「恐らく、奥様はココにいます。早く行ってあげてください。」

 それを確認するとサッサっと正田は帰り支度を済ませ、『お疲れさん。』と言って事務作業を行っていた南雲冴子にもそう言って、立ち去った。

「それにしても明神主任、よく分かりましたね。正田課長の奥様の出身地。」

「門の前の置物ですよ。」

「置物?あぁ、確か獅子のような置物でしたね。」

「えぇ、あれは沖縄でよく守護神として祀(まつ)られているシーサーでアレの置物を主によく作っているのが沖縄の那覇市の陶芸工房だというのを雑誌で読んだ事があるんですよ。単にそれだけです。推理もあったもんじゃありません。」

 健はそう謙遜する光をニンマリした笑顔で見た。

「何ですか?末永さん。」

「いえ、何でも。」

 すると未解決事件特別捜査班宛てに一本の電話がかかってきた。それは先程までのお遊びの捜査ではない、本物の事件の捜査の始まりだった。--

2

 捜査一課長に呼ばれた光と健は重々しい特別捜査本部、通称=特捜本部に入室した。すると捜査一課刑事で警部補の山萩憲太郎は同じく警部補である光に詰め寄るように近付いてきた。

「明神警部補、我が捜査一課始まって以来の大惨事です。」

「山萩さん、一体何があったんですか?」

 そう聞く光に山萩は苦々しい,強張った顔付きになり口は沈黙へと閉ざした。代わりに捜査一課長が答えた。

「警察官による,未解決の猟奇殺人事件がまた発生したのだ。」

「警察官による連続猟奇殺人事件で,未解決ッて、それって・・・」

 光にはその事件に心当たりがあった。

「あぁ、千代田区婦女遺体損壊事件だよ。」

 捜査本部は一課長のその言葉に戦慄を一気に覚えた。すると一人蚊帳の外な健が

山萩に尋ねた。

「あの、何ですか?その【千代田区婦女遺体損壊事件】ってて・・・。」

「お前、何年刑事やってんだ?その事件は我々捜一はおろか警視庁全体でも有名,いや,俗に伝説化してるヤマ【事件の隠語】だよ。」

「伝説化しているヤマ?」

 そう言われても事務作業に所轄勤務時代は没頭してきた健はその方面の情報に疎かった。見かねた光は更に補足説明を健にした。

「・・・その事件は僕がまだ、千代田区の所轄で係長【所轄勤務の警察官の場合、警部補の階級にある警察職員は係長の、警部は課長の役職を任命されている。】を勤めていた頃、2年前に発生した事件です。被害者はその近辺を生活拠点としている

女子大生の深見創子さん、20歳。」

「深見創子、、、もしかしてあのSNS界の女王?」

「えぇ、フォロワーの数は二年前と二年後の没後になっても尚、1億は優に超えている人気インフルエンサーです。その彼女はインターネットで知り合った警察官と男女の仲になり、その警察官に性的暴行を加えられた上で殺されています。」

 その一言を光が説明を終えると捜査一課係長の藤枝一角は自身が座っている机の椅子に握り拳で上に振り上げ、ソレを叩き付けた。それほど身内が起こした犯罪には

警察は警察官殺しの事件と同じ、いやそれ以上にナイーブに扱う案件なのだ。健はその様子を見つつも光に続けて質問した。

「・・・それで、その深見さんを殺した犯人の警察官は?」

 光は飄々とした何時もの惚(とぼ)けた顔では無く、真剣な,神妙な顔付きになって答えた。

「警察庁長官,能登川(のとがわ)樹警視監のご子息、能登川廉警部補、43歳です。」

「能登川って、あの?」

「えぇ、組織犯罪対策4課で検挙率ナンバーワンの実績を持ちつつ,何かと黒いウワサの絶えない、悪徳刑事です。しかし、彼がその事件の犯人であるという証拠や確証は何一つ出てきていない。それが何を意味しているか、分かりますか?」

 光にそう聞かれた健は瞬時に推測し、言った。

「父親によって、事件の捜査で得た証拠が全て、隠蔽された・・・」

 山萩は追加事項で付け加えて言った。

「能登川警視監だけではない、警察上層部7名がこの事件の隠ぺいに手を貸している。」

 その言葉に衝撃を受けたのは健や光だけではない、捜査本部にいる捜査一課刑事及び警察職員全員だった。--

【2021年01月20日一部公開】

3

光が健と共に未解決事件の捜査資料を探しに捜査資料室に赴くといつものように無愛想そうな資料室の管理人と鉢合わせた。

「何の資料をお探しで?」

 健は『えーっと、そうですね。』と慌てているのに対し、光は真っすぐな面持ちで

答えた。

「【千代田区婦女遺体損壊事件】の資料をお願いします。」

4

5

6

7

8

9

10

EPISODE Ⅱ 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光―HIKARU―~警視庁未解決捜査官~ 林崎知久 @commy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ