第11話 「この場合、幼女を襲っても合法である」
「うわぁ……」
夜の森を幻想的に照らしている物体を屈んでよく見てみると、それは何とも美しいきのこだった。
「ヤコウタケさん達です。このきの娘の方々はとても明るい光を発することが出来るので、夜の間はこうやって道標を務めてもらっています。この道を真っすぐに進めば、集会所に着きますよ」
ヤコウタケによって照らされた道の先をみると、そこには確かに、火のようなオレンジ色の光が滲み出ている大木がある。きっとあそこが集会所なのだろう。
「ん? ちょっと待て。今このきのこの事を『きの娘』って呼んだか? 若干アクセントが違っていた気がするんだが……。すると、お前らきの娘っていうのは、人間タイプときのこタイプの二つのパターンがあるのか?」
「いえ、違いますよ? ふふっ。だって、きのこタイプのきの娘がいたら、それはもうただのきのこじゃないですか、ぷふふっ」
クスクス笑いながら椎菜は話し出した。
なんだろう、めっちゃムカつく。
あと、俺が話を振ったくせにこんなことを言うのもなんだが、お前きのこきのこきのこきのこうるせぇな。たけのこ派の俺に喧嘩売ってんのか?
椎菜はようやくクスクス笑いを収め、俺に説明を始めた。
「ちょうどいいですから説明しておきましょうか。私たちきの娘という種族について」
いいですか、と確認するようにこちらを覗きこみ椎菜は続ける。
「きの娘というのは、読んで字のごとく『きのこ』でもあり『娘』でもあるんです。つまり私たちは、必要に応じて人間フォルムときのこフォルムを使い分けることで生活しているのです。だからどのきの娘達も皆自由に変身できるはずですよ。例えば……」
そう言うと、椎菜は近くにいたヤコウタケに屈んで何やら話しかけた。
すると次の瞬間、そのヤコウタケはさらに強い白色の光を発したかと思うと、うにょうにょと巨大化し、後光を伴ったまま人間の姿かたちをとっていた。
椎菜はこちらに向き直ると、隣にいる人型の何かの説明を始めた。
「こちらは、ヤコウタケの
そう言われて、隣の子に目を向けると、ようやく光が収まって顔がよく見えるようになった所だ。
眩しさに細めていた目をきっちり開くと、なんということだろう、そこには絶世の美少女がいた。
椎菜よりも少し小柄なその娘は、妖精を具現化したらこんな感じなのではないかというほど、美しく儚げだ。透き通るような白い肌に、わずかに緑がかった美しい白髪。セミロングで切り揃えられたそれはツヤがあり煌めいていた。
俺がジロジロと眺めていたからだろうか。光、と呼ばれたその人物(菌物?)は俺から目を逸らし、椎菜に助けを求めるような視線を送っている。
「ほら、光ちゃんも自己紹介して! え? あーこの人はこの間の……そうそう! 森の後継者さん! だから目つき以外は怖くないよ? 安心して」
それを聞くと光ちゃんは安心したのか、どうやら目つきの怖いらしい俺に自己紹介を始めた。
「あ、あの……わ、わたしは…………ひかりです……。そ、その……よろしく……おねがいします…………」
やたらとか細い声で顔を赤らめながらそれだけ伝えると、椎菜の背中に収まってしまった。
可愛い。
あらかじめ言っておくが、俺にロリコンの癖はない……たぶん。
しかし、そんなノーマルな人間の俺ですらアブナイことを考えちゃいそうなほど可愛い。
犯罪的だ。
久々に癒された気がする。今日一日で唯一の癒し要素だったといえるだろう。いやはやここに来てよかったよかった。そうか、椎菜が俺に見せたがっていたのはこの娘だったのか。謎は全て解けたなぁ。
グフグフと笑みを浮かべる俺を、汚物を見るような目で椎菜が見ている。
「幸樹さんが幼女好きなのはわかりますが、ちょっとは自重してください。ほら、光ちゃんも怖がってるじゃないですか」
椎菜の背後を覗くと、ぷるぷると小刻みに震える小動物チックなマイプリンセスが、濡れた瞳でこちらを見つめていた。その、なんというか、そそられ……ないですすいません黙ってます。
「はぁ……。もうなんでもいいです……。とりあえず説明続けますね。きの娘達はそれぞれ、種族によって異なる能力を持っています。例えば光ちゃんのようなヤコウタケの皆さんは、きのこフォルムの時は発光能力を、人間フォルムの時は暗視能力を使うことが出来ます」
なるほど。どうりで光がこの暗がりで俺の危険な視線にいち早く気づくわけだ。……自制します。
「きの娘達の能力は、それぞれの祖先のきのこの種族の形質に依存します。光ちゃんの場合は、暗い所で発光するヒカリタケとしての性質が能力として発現しているというわけですね」
「なるほどな。ちなみに椎菜の能力は何なんだ? まあ、人間フォルムの能力はある程度予想出来てるけど」
「それもこの際なのできっちり説明しておきましょうか。幸樹さんは私の力を予知能力か何かだと思っているようですが、厳密には違います」
なんだかさっき家の中でもそんなようなことをぼそぼそ言っていた気がするが、空耳ではなかったのか。
「私の能力は『予知』ではなく、ほぼ正確な『予想』に過ぎません。ですから、稀に外れることもありますし、あまり過信できないものなのです」
え、まじ? こいつの言っていることが事実だとすると、俺は簡単に予想できるようなテンプレな発言しかしていないことになるんですがそれは……。うわー薄っぺらいなー俺。
いや違うな。こいつの予知、もとい予想能力の精度が高すぎるだけのはずだ。実際、今までの会話を振り返ってみても、俺の発言が百パーセント読まれていたわけでは無いようだしな。うんうん、きっとそうだ! この俺が平凡で凡庸で無個性なわけでは断じてないはずだ!
そんな俺の心の動きすらも読み切っているかのように、俺の脳内で椎菜の能力についての結論が出てきたあたりで、ちょうど椎菜は再び口を開いた。
「まあそういうことです。……でも実際幸樹さんは他の人たちよりは予想しやすいですけどね」
「うっ……」
なんだか面白みのない人間だと言われているようで辛い。
というかこいつ、ときたま吐く毒が強力だな。悪意によるものではなく、ポワポワ頭から出てくる純粋な言葉だから、さらに攻撃力が増している。
「……? でもなんでシイタケと予想能力が結びつくんだ?」
シイタケが未来予知してるとか聞いたことないぞ。
「あー……やっぱりそれ気になりますよね……」
あまり言いたくない話なのか、椎菜は珍しく口をごにょごにょさせる。
「……まあ、その、シイタケであることが直接的に予想能力に関与するわけではないんですよ。どちらかといえば予想能力は副産物でしょうね」
「というと?」
相変わらずはっきりしない言い方に、つい急かしてしまう。
すると椎菜は息を吐き、少し間をあけて再び口を開いた。
「普通なんです。シイタケって」
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