第11話 変化
あの嵐以来、自分は少し変わったかと倭は思う。
ずっと定まりきらなかったものがすとんと定まったというような、何かが有るべきところに落ち着いたような感触がたしかにあった。
結局倭にできることは、ただひたすらに祈る事だけなのだ。
ひたすらに神に仕え参らせる事を祈り、ひたすらにただ神に寄り添うという事以外に、倭のなすべき事はない。
あの嵐はその事を、はっきりと倭に示した。
他の巫たちがいかに思おうが、葛城がどれほど通って来ようが、考えてみれば倭の在り方とは関係ない。
山賤も漁夫も、あるいはいかなる賤の女も、時に神に祈るだろう。その祈るという事そのものを禁じる手立てなどあるはずもない。
倭が神に仕えさせ給えと祈る事そのものは、本来なら倭と神とだけの間の事なのだ。
倭は、神に仕えるために生まれた。
だからただ、仕えさせ給えと祈ればいい。
倭は潔斎し、神に祈るようになった。
例え葛城が通ってき、潔斎が途切れても、また身を清めてただ祈る。
祈るべき神は数多おわすが、倭がもっとも心を砕き、仕えさせ給えと祈るのは、あの神剣の御霊にだった。
本来は荒々しい御霊である神剣は、違う社にいつまで鎮まっているかわからない。
もとの熱田に戻すのも、神剣の怒りを思えばためらわれる中、荒れ狂う神威に寄り添い仕えた倭は、このまま仕えさせ給えと願う。
かつてやまとひめがそうあったように、荒ぶる神にただ仕えることこそ倭の望み。倭がありたい自分の在り方だ。
「何があった。」
久方ぶりに現れた葛城の問いに、常盤はいかに答えたものかと迷った。
あの嵐以来、倭はいっそう清くなった。
もともと人の妻であるというのが嘘のような清らかな女性《にょしょう》であったのが、もはや自然と頭を垂れたくなるような気品にまで高まっている。
この方が例え御門のとはいえど、人の妻であるはずがない。
倭を目にする事があれば、誰もがそう思うだろう。
その変化はさしもの葛城さえもたじろがせるほどであったらしい。
「特には何も。皇后さまは常に変わらず行い澄ませておいででございます。」
結局、そう言うより他になかった。
そもそもが「やまとひめ」として育てられた倭の日常は、当たり前のように念入りな禊と祈りによってできている。そういう意味では確かに何も変化していない。
いや、常盤が今更実感しただけで、やはり倭は「やまとひめ」であり、聖別された皇女であったのだろう。もしそうなら、生まれたのはまわりの実感だけで、倭自身は確かに何も変わったわけではないと言えるのだった。
「…そうか。」
納得はできていない顔で、それでも葛城はうなずくと、その日も倭を手折って帰っていった。
やまとひめ 真夜中 緒 @mayonaka-hajime
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