第14話 第一回透明化無効協議?

 何の変哲もない、いつものさくらおかさくらの部屋。

 しかし、ここはさっきまで桜ヶ丘の母親が号哭ごうこくしていた場所であった。

 そして、俺らは今からたった二人で会議を行う。


「じゃあ第一回透明化無効会議を始める」


 堂々と目の前の桜ヶ丘に対して会議開始の挨拶をした。

 この会議をすることは桜ヶ丘が透明化する前に決めていた。

 俺は今の自分の状態に不満しか浮かべられないのだ。

 目の前の桜ヶ丘とは違って学校休めるとか最高じゃん、とかいう発想は一切思い浮かばない。

 ただ妹である耀ひかりから視聴されたい。それだけだ。


「わーい! じゃなくて何それ!?」


 そうだった。桜ヶ丘にはこんな会議やること伝えてなかったっけ。


「俺ら二人の今の状態を無効化させるための会議だよ」


 まあ、これは会議というか話し合い? なのだろうか。

 人数二人の会議とか聞いたことない。

 それでも議題さえ決めれば会議となるだろう、そう思って俺は議題を発表しようとする。


「議題は······えっと······」


 五秒程の沈黙を隔ててから桜ヶ丘は言う。


「あー、そんなもん要らないわよ。まず、会議とかそんな大層な名前にしなくてもいいの。これは話し合い」


 自分がさっき心で思っていたことをそのまま桜ヶ丘が口に出した。


「······まあ、そうだな」


「ええ、そうよ」


 そして、俺は改まって開始の挨拶をする。


「では第一回透明化無効協議を始める」


『第一回透明化無効話し合い』だと、変なので話し合いの部分を一番しっくりくると思われる協議、という言葉に変換させて初めの挨拶をした。


「協議······ねえ。私は幽真と協力するなんて言ってないけど?」


 予想外の言葉に俺はダメージを受ける。


「会議も話し合いもする奴らの意思は『協力』を示すだろ。何でこのタイミングで否定的な意見を入れるんだよ!? 否定するなら初めに否定しろよ」


「その時は否定の言葉を入れるのも面倒だったのよ」


 こいつ、面倒くさがり屋にも程があるだろ······。

 俺は桜ヶ丘に知識を一つ植え付けてやってから協議を進める。


「何か、透明人間になった原因とか分かるか?」


 俺が訊くと桜ヶ丘はにっこりスマイルを浮かべて答える。


「分かりません!」


 その笑顔と敬語がマッチングしていて俺の唇は思わず緩む。

 いかん、いかん。桜ヶ丘のことを可愛いと思ってしまったじゃないか······まあ実際可愛い方だとは思っているけど長年ぼっちをやってきた俺が惚れるわけがない!


「そっか、じゃあ俺ら二人と共通している何者かの魔法によって俺らはこうなったのか」


 頬が朱に染まっている自分の姿を見られるのは嫌なので何となく話題をらそうとした。


「いや、それはないと思うよ。幽真、魔法とか出てくるファンタジー系のラノベ読みすぎなんじゃない?」


 現実と理想の区別がついていない俺を哀れんでいるのか桜ヶ丘の目は憂いを帯びている。

 いや、冗談で言ったつもりなんだけど。

 ほら、協議とか会議とかって緊迫した空気嫌じゃん? その配慮っつーか。なんつーか。

 まあ、本当の理由としては今の自分の表情に疑問を持たれたくないからだけど。


「お前も俺の冗談に気付けないんだな。もっと人に対する観察力を鍛えた方がいいぞ」


 上から目線でアドバイスをする。

 そんな俺も実は観察力は相当少ないが、そこは棚に上げておこう。


「冗談だとしても幽真が現実と理想の区別をできていないのは事実でしょ?」


 イラっときた。

 言われていることは紛れもない事実だからだ。

 だけどなんでそんなこと桜ヶ丘が知っているんだ。おかしいだろ。エスパーか何かかよ。


「確かに俺は魔法とか異能力とか大好きだ。昔は自分で詠唱を唱えたりもしていた。俗に言う中二病ってやつだったんだよ」


 俺がそう言うと桜ヶ丘は本気で引いているのか俺との距離を空けていく。

 何で、そんな視線で見てくるんだよ。俺の心が傷付くじゃねえか。

 ぐはっ。今の視線変化でダメージ七百。


「変態で中二病って······幽真まじやばい」


「いやいや! 中二病は過去形だから! 過去形!」


 俺は変態ということについては否定しなかった。


「変態ではあるんだ」


 蔑んだ視線で桜ヶ丘は言ってくる。だけど、実際俺は変態だ。自分でも分かっている。


「ああ、変態だよ」


 立って胸を張りながら言った。


「それ、胸を張りながら言うことじゃないと思うよ······。幽真まじやば」


 桜ヶ丘は俺との距離をさらに空ける。大股三歩程度だ。


「さすがに俺もそんなに引かれると困るな······」


「だって実際キモイもん」


 辛辣な言葉が俺の胸に突き刺さる。

 今のでダメージ千。中ボスぐらいはやられるぐらいのダメージだろう。


「はいはい。俺はキモイですよ」


「とうとう自分でも納得しちゃったわね!?」


 どこか驚いた表情を桜ヶ丘は見せた。俺が否定すると思ったことを肯定されたからだろう。

 そんな他愛のない会話ばっかをしており、俺の脳内から協議という二文字は消えていた。


「しまった! 今までの会話『協議』というか『談笑』じゃねえか」


 俺は気が付いた。

 話がいつの間にかずれていたことを。

 もう、何か普通に桜ヶ丘と談笑してるだけでめちゃ幸せな時間を感じるんだけど。

 顔も可愛いし、性格も悪くないし······。

 何故だろう。

 この感情。

 ――とても不思議で初々ういういしい。

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透明な俺でも人と関わりたい 刹那理人 @ysistn

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