【支援!】E.G.コンバット出るかも記念 アンカーとトリガーの使い方

よしみる先生のtwitterで動きがあるようです!

https://twitter.com/yoshimiru_SS/status/1232929198810877953


もちろん、よく訓練された瑞っ子は、ツイッターどころか、電撃文庫の新刊予告にタイトルが掲載されても簡単に信じたりはしないものですが。


しかし,

これは、ぜひ支援せねば、と力が入っています。


支援するなら当然E.Gコンバット論を書くべき、と思うのですが、


そして、書くのならば最初に扱うのは2巻のラスト、と決めてはいるのですが、


E.G.コンバットが非常に分析が難しい作品だということを痛感します。


E.G.コンバットは、ライトノベルとしては読みやすい作品ではありません。

文章のこなれ具合、という意味では、イリヤの方が確実に上でしょう。


しかし、その熱量は、秋山先生の作品群の中でも突出しており、これでもか、という程の熱い描写が展開されていきます。


そして、その描写の奔流に飲み込まれそうになりながら必死で分析を試みるたびに思うのです。

分析不能……。化け物か、と。


ただ単に、私の精神がE.G.コンバットの前に五体投地してしてまって、分析を拒否しているだけなのかも知れません。


しかし、何も語れないのではコラムの意味がないので、なんとか、不可能に対して挑戦をしてみようと思います。


ここで取り上げるのは、E.G.コンバット第2巻になります。

イリヤと違い、未読の方も多いかと思います。

ネタパレを回避したい方はご注意ください。


以下ネタバレあり

EG.コンバットの2巻の最後のシーンは、月の中心部を通る自由落下坑ブラジル・エクスプレスからの脱出のシーンです。

双脚砲台に搭載された流体脊髄GARPが、ルノアたちに最後まで嘘を突き通して自身を犠牲に自爆をし、爆風で落下坑からの脱出を成功させるシーン。


人間に作られた人工知性であるGARPが、人間以上に人間らしい自己犠牲をするシーン、そう語ると陳腐になってしまいますが、このシーンを成り立たせている裏には、様々な伏線が貼られています。


まず、前提としてGARPが作られた存在であり、ルノアたちは軽んじているわけではないものの、どこか人間と同格ではないように扱っている側面が描かれています。

例えば以下の場面。


 違う。GARPはよくやってくれた。

 ルノアもそれは、心の底ではわかっていた。GARPの計算がなければ、自分と五人は月の中心点を通過することもできなかっただろう。しかし、ルノアへの専用接続を設定することもせず、誰にでも聞こえる通常回線でGARPが計算結果を喋ったことに、ルノアは身体の震えるような怒りを感じた。

 しょせんお前は黴菌頭だ。

         秋山瑞人(1999)『E.G.コンバット2nd』p329



 黴菌頭、というのは光学菌糸集積によって情報処理をしている流体脊髄に対する蔑称です。

 しかし、ルノアが感じたこの怒りすら、GARPの自己犠牲の一貫だったことが後でわかります。

 本編にいきましょう。



 ①幻覚かと誰もが思った。

 ②GARPにはもう、あんなマネをするだけの推進剤も電力も残ってはいないはずだったから。

 ③一秒ももたないと、GARPはそう言った。

 ④うそ。

 ⑤全員がGARPの真意を理解した。⑥GARPがなぜ、電源機関士の目をごまかしてまで、推進剤と電力を隠し持っていたのか。⑦最後の最後に、絶対に必要になるから。⑧隠しておかなければ、最後の1グラムまで、最後の1アンペアまで使い尽くしてしまうであろうから。⑨嫌になるほど繰り返した<起動演習>。みそっかすにされたGARPはふてくされ、ふてくされながらもルノアのすべての説明を一言一句漏らさず聞き、五人すべての一挙手一投足を見ていた。アイが散々繰り返した失敗――パッテリーのゲートロックのタイミングを外し、安全機構が作動して処理が強制的にシャットダウン。⑩これは、万が一安全機構が作動しなかった場合には、システムがオーバーロードしかねない危険ミスだ。

 ⑪ある手順で、意図的に、これをやれば。

 ⑫そして、全員のゴーグルに出力されていた”+6”が消えた。

 ⑬GARPがヘッドギアに仕込んだプログラムが、短い文章を吐いた。


 ⑭ご武運を。あなた方の行く先に、いつも温かな空気エアがありますように。⑮あなた方は素晴らしいチームでした。⑯一緒に過ごせて楽しかった。⑰私は、あなた方のハミングロウルであったことを誇りに思います


 ⑱突然、すべてがつながった。

 ⑲闇と真空の中で、闇と真空を裂くような声で、ルノアは絶叫した。

 ⑳やめろOEDIPAエデイパ――と。

         秋山瑞人(1999)『E.G.コンバット2nd』p345


 このほんの短いシーンですが、多くの描写が他の箇所との関係性を持っています。①~④までは、数ページ前のGARPとの会話を受けています。

 

 そして、⑤~⑧まででは、やはり直前の箇所、アイが「急に推力が60%になってしまった」と騒ぐシーンと繋がります。


 そして、⑨から⑪までは、1巻のp175の初めて起動演習を行ったシーンと接続します。その箇所では、『ある手順で意図的にこれをやれば双脚砲台を自爆させることすら可能であったりする』と書かれています。⑪のあとには、「自爆」という言葉が入りますが、それが省略されることによって、絶妙な行間を生み出すことができていまず。

 このシーンでは同時に、みそっかすにされたGARPがルノアに絡む様子も描かれており、GARPが人間と同等の知性と感情を備えた存在だということを示した印象的なシーンになっています。


そして、⑭から⑰です。

ここは、2巻冒頭のルノアの訓練生時代の様子と接続します。

流体脊髄は、実は、訓練生が卒業するたびに記憶を消去されて使い回されており、ルノアが訓練生時代を共に過ごしたOEDIPAは、ルノアとの別れの際に⑭~⑰と全く同じセリフを言ってルノアを送り出しています。


 戦争のために人を教育し、殺戮者として鍛え上げることの罪深さ。それでも一個の存在としてチームを誇りに思う。2巻冒頭のこのシーンが、ここで、連想され、展開はクライマックスを迎えます。


 かつて共に過ごしたOEDIPAが、GARPだった。

 そして、そのGARPは今、まさに自分たちのために命を犠牲にしようとしている。クライマックスを特異点として、それまでのシーンで培った伏線を総動員して物語を盛り上げています。


 小説では、情報の密度を高めて描写の質を上げるために、

 様々な場所に情報を埋め込んでおき、短い言葉でそれを想起させる、ということがしばしば行われ、私は『アンカー(錨)』と『トリガー(引き金)』と呼んでいます。


 E.G.コンバットのアンカーとトリガーは、イリヤほどわかりやすくもなく、短い言葉で想起というよりも、シーンそのものを重ね合わせて表現しているという印象を持ちます。

 しかし、読み取りの困難さが上がる反面、重ね合わされた情報の熱量には恐るべきものがあり、E.G.コンバットのファンたちの心をいつまでも揺さぶり続けるのです。


 と、いつもの調子で分析をしてきたものの、

 このE.G.コンバットは、それぞれのキャラクターの言い回しや語り口調そのものが格好良く、この格好良さはどこから来るのかということを分析せねば、何も語れていないようにも感じてしまいます。

 なので、今回の箇所に絡めて、一つだけセリフ分析もしてみたいと思います。


 このシーン周辺のGARPのセリフです。

『アマルスさん、あなたならできます。夜中にこっそりハニーアントを持ち出して、内緒で外郭回廊をぶっ飛ばしていたのを、私がただ無目的で見逃していたとでも思っているんですか? 「訓練だよ」って、あなたそう言ってたじゃないですか』

(中略)

『さあ、いつまでたってもあなた方を信用しないあのイカれた教官に、カッコいいとこ見せてやりましょう』



 行儀よく真面目になんてできなかったアマルスが、羽目を外す時に使った「訓練だよ」という言い訳。

 GARPの言葉には、「怖がって縮こまっているなんてあなたらしくない」というエールも含まれているのでしょう。

 「私がただ無目的で見逃していたとでも」というセリフは、理性が最優先される流体脊髄が言うからこそ深く、それでいて、人間的な愛情に満ちています。



 そして過保護なほど、訓練生たちのことを考えるルノアを「いつまでも信用しないイカれた教官」と呼ぶ。

 それは、落ちこぼれだった訓練生たちが、一人前に至るための叱咤として最高に心を震わせられるセリフです。




いつかまた、こうした台詞回しを分析できればと思います。


その時こそ、本コラムが、本当に「秋山節」を分析したことになるのでしょう。


では、今回は、ひたすらテンションがおかしいですが、瑞っ子としての日々の信仰の告白を地対空ミサイルのように叫んで終わりたいと思います。


E.G.Fマダーーー〜〜〜〜〜ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!


 からり、と。

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