会話表現

自然な会話表現 間投詞を多用した言葉のキャッチボール

 会話はキャッチボールだと言われることがあります。

 確かに、日常的な会話では、一人が一方的に話すのではなく、話し手と聞き手が場面場面で常に入れ替わりながら続いていくのが大半でしょう。それがもし、一方だけが延々と話しているという関係なのであれば、何らかの上下関係やある種の権力関係が読み取れてしまうことすらあります。

 

 私たちは、日常の中でそれこそ全く意識することなく会話のキャッチボールをこなしていますが、では、いざ小説を書こうとしたときにはどうなのか。

 そう簡単にはいかないというのが正直なところではないでしょうか。

 会話は、日常的に行っている行為ではあっても、あまりに自動化されすぎているために、細部まできちんと覚えていることはほとんどありません。また、小説の中の会話は、日常の会話とは異なってもいます。

 

 ここでは、『第3種接近遭遇』より、p56~p65までの浅羽、西久保、花村の3人による取り留めもない会話の一部を抜粋して見てみましょう。注目したのは、会話の冒頭部分です。範囲内のページの全ての会話文から冒頭のみを抜き出しました。


『で?』『マジで?』『ばっかじゃねえの』『やっぱあれ?』『――部長が』『それに、』『え? じゃ』『まさか』『なんだっけ』『そうそこそこ』『けど行水って』『昼間はね』『要するに』『おい』『んだよ』『ごめん』『――だからさ』『死体を埋めに来た奴』『あ、でも』『園原基地は』『おれだって』『部長の受け売りだけど』『園原基地の近くで』『――部長の受け売りだけどね』『素直になれ』『な、なんだよ』『いいからいいから』『――さあ』『じゃお前は』『UFOマニアの間で』『じゃあさ』『そりゃお前』『――そうだ』『んーと、あったあった』『何だこれ』『こう』『今年のはじめごろに』『で、』『これ』『これ、たぶん』『――これ飛行機だろぉやっば』『まあ確かに』『ならねーだろ、戦争』『ならないかな、戦争』『でも、北への空爆って』『そんなのいつものことじゃん』


 どうでしょうか。

 一見して分かるのは、疑問詞、間投詞、接続詞が非常に多いということです。

 ここでは、恣意的な選別は可能な限り行わなかったので、会話文全体の雰囲気が残されていると考えてよいでしょう。

 すると、全体のおよそ70%の会話が、間投詞や接続詞、疑問詞で始まっているということになります。

 これは一見すると多いようにも感じますが、実際の私たちの会話もまた、このようなものなのではないでしょうか。

 会話をキャッチボールに例えるならば、まず、相手の言葉をキャッチし、それから自分の言葉を投げるというプロセスになります。

 このプロセスに上記の言葉を当てはめてみると、まず『で?』や『マジで?』などの疑問詞の多くは、相手の言葉を引き出すための、いわば受容のための言葉だと考えられます。

 また『んーと、』や『あ、』などの間投詞は、間をつなぎ、体勢を整えるための言葉。そして、『じゃあさ』や『けど』『要するに』などの接続詞は、自らの言葉を発信する際の言葉として機能していると考えられます。

 これらの疑問詞、間投詞、接続詞は、一見文章の骨子と無関係に思われる品詞であるために、書き言葉では軽く見られがちです。

 ですが、こと会話文においては、これらの品詞が非常に重要な役割を果たすことがここから読み取れるのではないでしょうか。

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