視点に関する基礎知識

今回は、視点についてです。


 視点、という言葉には実は2種類の意味があります。

 つまり、「見ているのが誰なのか」ということと「見られているのが誰/何なのか」です。

 

 専門的には前者を視座と呼び、後者を注視点と呼びます。

 

これは、いわば視線という矢印の始点と終点であり、この場合、始点が視座に相当し、終点が注視点となります。

 カメラマンがカメラワークを行う際には、この視座と注視点の両方に気を遣う必要があります。『どこから』『何を』撮影するのか。それを確定させなければ、完成する映像は決まらないでしょう。

 小説の描写とは、いわば目隠しをした状態の人に言葉だけで情景を説明するようなものです。

 その際には、何が見えるかという注視点だけではなく、どこから見ているのかという視座についても気を配る必要があるでしょう。


(1)視界がぼうっとぼやけて、気がつくと涙がこぼれていた。


(2)一つ二つと枕木を辿って徐々に視線を上げていけば、地平線の向こうまで続く一本の道が完成する。


(1)は、視座に重きをおいた技法です。

 情景を描写しならがらも、実際に描き出そうとしているのは、その光景を見ている人物の内面です。

 このような技法を使うことで、押しつけがましくなく感情移入を促すことができます。


(2)は、注視点に重きをおいた描写です。

 枕木を一つずつ辿ることによって動きを表し、果てしなく続く線路を描き出しています。


 次は、現在形と過去形の表現効果を取り上げます。

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