転がっていたのは王女だったらしい
部屋にある唯一のテーブルに向かい合って座る俺と謎の女性。女性というか、少女? 何となく俺よりも年下というか、高校生くらいに見える。まあ外国人の年齢なんてわかりにくいから俺の主観でしかないのだが。
あの後縛られていた縄を外し(なんだか漫画とかでしか見たことないような複雑な縛り方だったが、何とかほどいた)テーブルに向かい合わせになるように座ってもらった。
少女は暴れたり叫んだりする様子もなく、おとなしく指示に従っていた。
いったい何者なのだろうか? 何故俺の部屋の押入れに縛られた状態で転がされていたのか。言っていることがわからねーと思うが、俺もわからん。
「それで……あー……」
今更ながらに思う。なんて尋ねればいいんだ?
「あなたは誰ですか?」「あなたは何者ですか?」「どうして俺の部屋に縛られた状態でいたんですか?」聞きたいのはこんなところだが、なんて聞けばいいのかわからん。ていうか言葉が通じるのか? 俺英語とかあんまりわかんないんだけど。
「言葉ならわかりますよ」
「え? ……そうなのか」
俺が言いあぐねていると、訛りの感じられない流暢な日本語が聞こえてきた。誰が喋ったのかなんて言うのは明白だ。この部屋には俺と目の前の少女しかいないのだから。
「英語なんてわからないからありがたい。じゃあ、このまま話させてもらうけど」
「はい」
「なんで俺の部屋にいたんだ? ていうか、誰? 少なくとも俺たちは知り合いじゃないよな?」
とりあえず聞きたいことを聞いてみる。
普通、自分の部屋に知らない人がいたらもっと警戒するべきだと思うが、何故だか俺は警戒する気にならなかった。というか、目の前の少女のことなんか知らないはずなのに
目の前の少女の返答はこうだった。
「部屋にいたのは……偶然です。私が望んだわけではありませんが、ゲートの出口がたまたまここにつながっていたのでしょう。そして、確かに私たちは知り合いではありません。私の名前はソフィー。ソフィー・ベルジュラック。こことは別の世界の国では王女をしておりました」
それに対して俺の返答はこうだった。
「……はぁ」
かわいらしい見た目してるし、日本語もこんなに奇麗に喋れるってことは頭もいいと思うのに、なんでこんな電波な感じになってしまったのか。非常に残念である。
「今、私を残念な人だと思っていますね」
「そう思わない要素がないというか」
ゲートとか、別の世界とか、王女とか。さすがに意味わかんないわ。ていうか俺の部屋にいたことの説明になってないし。ストーカー? ……いや俺にそんな熱烈なストーカーがつくなんてありえないだろうしなぁ。ていうか縛られてた意味が分からんし。自分では縛れないでしょ。
「ていうか俺の部屋にいた説明になってない」
「……それはそうなんですが。訳を話してもよいのですが、とても信じられないような話になっております。そして、この話をする前に、あなたに確かめておきたいことがあります」
「まだ何かあるのか……確かめたいことって?」
初対面の電波少女が俺に聞きたいことってなんだ? 全く想像もつかん。
「今日、なんだか違和感を感じませんでしたか?」
「違和感?」
またぞろ何を言い出すんだ、と思えば……。違和感と来たか。確かに感じていた。言葉に言い表せられない強烈な違和感を。なんだか、今日という日を体験したことがあるような感じがする。無理やり言葉にするならそんな感覚だ。
でも、わざわざそれを目の前の少女に言う必要はないだろう。そう思っていたのに、目の前の少女は俺の予想を超えて次の言葉を口にした。
「なんだか同じ一日を繰り返し体験しているかのような、そんな違和感を感じませんでしたか?」
「――!?」
思わずまじまじと少女――ソフィー・ベルジュラックの顔を見る。なんでそんなことがわかるんだ? 当てずっぽう? いや当てずっぽうで当たるような内容じゃない。それになんだか向こうは確信をもってそう言っているような気がする。
「……そんなことあるわけないだろ?」
俺が感じているような違和感も、普通ならありえないものだ。同じ一日を繰り返し体験しているような違和感、なんていうのは普通感じたりはしない。口に出したって昼前の忍みたいに茶化されて終わりになる程度の、厨二チックな感覚だ。
だから、とりあえず否定しておく。
けれども、ソフィー・ベルジュラック――フルネームめんどくさいな。ソフィーでいっか。ソフィーは断言するように言った。
「いえ、感じたはずです。そして、その違和感に従ってそこの扉を開けた――違いますか?」
そこの扉、とは押入れのことだろう。まさにソフィーの言うとおりだ。まあ、相手が自分から普通ならありえない違和感のことを指摘してきているのだから、これ以上白を切るメリットは特にないように思える。ていうか、まあ、どっちにしろ電波な内容なのだし。
それに、この違和感の正体を知っているかもしれないしな。違和感が気になって夜しか寝れないってわけじゃないんだけど、知れるもんなら知りたいし。
「――まあ、ソフィーさんの言う通りだけど」
「やっぱりそうでしたか」
うんうん一人で頷いているソフィー。
正直全く流れも意味も分からない。結局何一つ解決していないというか、そもそも解決する問題なのかとか。
全く分からなくてちんぷんかんぷんだが、ソフィーは話を進めることにしたようだ。いつの間にか話の主導権が向こうに移っている気がする。まあ話が進むんならどっちが持っても変わらないか。
「では、私が何故ここにいたのか。そして、その違和感の正体についても」
そう言ってソフィーは話し始めた。
全く現実的ではない、ありえないような話を。
「……つまるところ」
「はい」
「ソフィーは元の世界で
ソフィーの告げてきた内容を確認していく。正直意味が分からない。どこのライトノベルだって話で、よくこんな少女がそんな設定を思いついたもんだとも思う。
けれども、話している最中のソフィーの顔はすごく真剣だったもんだから、茶化す気にはならなかった。
「その通りです。縛られていたのは、私が逃げ出そうとしていたのがバレたためです。どうやって逃げ出したのかは、まあ、言っても魔術の知識がないとわからないと思うのですが……」
「あー、いいよ、わからないなら。それで、たまたま俺の部屋に来た、と」
「はい」
詳しく話を聞いたわけではないから概要だけしかわからないが、ソフィーがいた世界? で、
そして、この不老不死の呪い、というのがネックみたいで――
「不老不死? っていうのは呪いなのか?」
「はい。少なくとも私にとっては。そして、今の状況においては、あなたにとっても、です」
「俺にとっても、か」
それも話をしてくれたから何となくは分かるが。やっぱり、信じられない話だ。
「もう一度言いますが、そもそも不老不死とは何か? というところから話は始まります」
「だから、それはあれだろ? さっき言ってた、
「不老とは、つまりその状態のまま時間が止まっている、ということです」
「でも、時間が止まってたら、普通ソフィーは動けないんじゃないのか。止まってるってことは、氷みたいに固まってるってことだろ」
「ええ。ですが、この呪いは違います。この呪いの本質は肉体をそれ以上老いさせないことにある」
「んで、さっきの結論に戻ってくるわけだろ?」
「はい」
そう言ってソフィーは、両手で輪っかを作る。
その輪っかの間から俺の方を覗き見る。
「この輪っかのように、同じ時間を繰り返させることによって、それ以上の老いを止める。死んでもまた同じ時間に戻ってくる――つまり不死です。これが不老不死の呪い」
そう言ったソフィーの顔は、とても疲れているように見えた。
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