プロローグ 廃部の危機
「「「「「「廃部!?」」」」」」
その場にいた4人は、口をそろえて同じ単語を発した。
本日、猫坂学園始業式前日の美術部は雲一つない晴天の下で活動していた。明日から始まる新年度。その次の日に行われる新入生部活動勧誘会に向けて作品制作を行っていた6人に、突如として息を切らした水城先生が美術室に飛び込んだ。
「え、いや待ってくださいよ水城先生。俺たち明後日の勧誘会のために今作品を作ってるんですけど、それどーすんですか?」
最初に口を開いたのは、パイプ椅子に座ってペンタブをいじっていた森坂 涼介。森坂はいじっていたペンを机に置き、水城の前に立つ。彼自身今作っている作品は自信作らしい。
「今日の教員会議で言われたんだけど、生徒手帳に書いてある通り、鈴村さんたち5人以外の別の学年の生徒がいないと、部として成り立たないのよ。」
それを材料カタログを見ながら長谷川 孝弘は、胸ポケットから青いカバーの生徒手帳を取り出した。めくりめくり、生徒手帳ページ半分くらいに、その事は書いてあった。長谷川の周りには、宮本 叶とシェイラ=シントロールが集まった。
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猫坂学園校則(2018年度改訂)
第8条 クラブ活動
第2項
各[部]は毎年4/31までに、『部員数10名以上』もしくは『複数に股がる学年を1名以上』を維持しない限り、[廃部]又は[同好会及び愛好会]に降格する。
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「コウスケ。この文字[廃部]はなんて読みます?どういう意味?」
「あーシェイラ、後で教えるよ。」
「分かりました。」
そう言ってシェイラは持っている日本語辞典で意味を調べ始める。すぐ出ると思うが、シェイラはなかなか見つけ出せない。
と、同じく一緒に長谷川の生徒手帳を読んでいた宮本が水城に振り向く。
「と言うことはミズ。明後日の新入生部活勧誘会で、一人以上の新入生部員数を確保しないといけないってこと?」
「That right.!!」
「じゃあ簡単だね!アタシ勧誘会で頑張るよ。」
「いや宮本さん。例え明後日で一人集めても、その次の年はどうする?僕的には十人居ないとキツイかな?」
「あ、そうか...。」
「「「「「「........................」」」」」」
逆に張り切っていた宮本に、冷静にツッコミをする長谷川。宮本は椅子に座って落ち込んだ。
確かに、今回の勧誘会で十人を集めるのはキツイ。この学園に入学する半数以上の生徒は、超人気の吹奏楽部に入部する。吹奏楽部はたいへん多くの実績があり、今じゃテレビや雑誌にも紹介される。ので、美術部のようの部活は基本入部数が少ない。過去にも廃部したケースもある。学園内では吹奏楽部を恨んでいる生徒もいる。
昨年度の美術部は中学三年生だった六人と、二人の高校二年生の計8人だけだった。当然高校二年生だった二人は、大学受験のため引退した。
一際離れた美術室の角で、一人の少女 鈴村 智美 が座っている。彼女は5人の集団にも目もくれず、ただひたすらに目の前のキャンバスに油絵を描いていていた。だかその彼女の姿にも、どこかしら悲しげな様子が見える。
新入生部活動勧誘会の二日前、美術部は早くも廃部の危機に直面していた。
キャンバスライフ @nukolet
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