私は九歳まで鳥取県で過ごし、それから家族と共に高知県に引っ越した。一度上京したがまた戻ってきて、それからずっと高知県民である。
今は亡き司馬遼太郎先生のご作品は、『竜馬がゆく』と『馬上少年過ぐ』しか明確には読んでない。しかし、前者は非常に大きな影響を私に与えた。
そんな訳で主人公には大いに共感できる。交通の便が決して良くない高知県で、空港から土佐市まで進むのはかなりな難儀だったろう。たっぷり二時間近くかかる。それだけの苦労を経ただけに、浜辺でのひとときはまたとないご褒美だったに違いない。達者な筆さばきで主人公の心の動きが手に取るようにわかる分こちらも清々しくなった。
ただ……『高知式接待法』には注意されたい。今はずっと穏やかになり誰でも受け入れられるようにはなったのだが。
春のせせらぎが聞こえてくるような高知県の土佐にある浜辺を舞台に、高校生活を振り返る女子大生 舞の心情を描いたお話です。
高校生の時は仲良くしていた友達や異性のことを思いながらも、今の自分を振り返る舞の姿がとても印象的です。高校生だった頃の思い出と大学生の今の心境、双方にゆられながらも前を向いて歩く姿を繊細かつ丁寧に表現しています。
誰もが経験した高校生活の友情と失恋を丁寧に書いた『春の浜辺』だからこそ、読者の心をよりつかむ物語が出来るのではないかと思いました。
約4,000文字前後の短編小説ではありますが、読み終えた時の充実感は長編小説に匹敵するほどです。読者の脳裏に青春時代の一コマが蘇る……そんな素敵な魅力が凝縮された『春の浜辺』を、私は一人でも多くの方に読んでいただきたいと思います。