菜子さんとふたりのプリクマ!
藤村灯
菜子さんとふたりのプリクマ!
晴れた昼下がり。大学の講義をさぼって河原をぷらぷらしていると、橋台の影でとんでもない光景に出くわした。
中学生くらいの少女ふたりが光に包まれ、ふわふわの毛皮とたっぷりのフリルに包まれた衣装に変身するシーン。このごろ話題になってる魔法少女か!?
気を抜きまくっていたせいで身を隠すひまもなく、ふたりの少女の視線が突き刺さる。
「極北を吹き抜ける烈風! くまポーラー!」
「森林に潜む血塗られた牙! くまグリズリー!」
「「ふたりはプリクマ!!」」
「なんでわたしに見得切ってんの? それになんでそっちの子そんなに血なまぐさい名のりなの?!」
もこもこの肉球付きグローブからは鋭い爪が生えているし、可愛らしい口元からは牙がのぞいている。
「前から気になってたけど、なんで白熊と灰色熊なの? 黒のほうが収まりよくない? マレーグマとか」
「くまマレーじゃママレードみたいでしまらないよ。小さくて弱いし……」
爪をなめながらつぶやくくまグリズリー。だからなんでそう戦闘力重視なんだ? 可愛いとかキレイだとかは判断基準にないの?
「正体を知られたクマ! はやく始末したほうがいいクマ!」
「グリちゃんどうする? 必殺技決める?」
肩に乗るくまのぬいぐるみに物騒なことを吹き込まれ、くまポーラーは相棒にさらに物騒なことを口走る。
「ちょ、まったまった! わたしも魔法少女。魔法の国から来たお姫様なんだから!」
「やだこの人魔法の国とか言ってるこわい」
「こわい……」
あわててカミングアウトするわたしに怯えた目を向けるふたり。そっちも同じでしょ!?
「くまー、知ってる?」
「くまたちの国、クマリーランドのことじゃないクマ。別の国の話かもしれないクマ」
そうそう。こっちの世界でもジンバブエの人とアイスランドの人が急に顔を合わせても話すことが出来ないわけだし。
「魔法使えるの?」
「もちろん。美容師さんに変身して恋の手助けをしたり、おまわりさんに変身して泥棒を捕まえたり――」
「変身だけじゃん……」
ぼそりと呟くくまグリズリー。
この……昔はいろんな職業体験できるのがトレンドだったんだよ!
「ドラマにもなったんだよ? 『秘密の菜子さん』知ってるでしょ?」
正体がばれたあと、魔法の国の王位継承権を捨て、ボーイフレンドの幹彦君を選んだことはずいぶん話題になったものだ。
……まあ、幹彦君の浮気が発覚して別れて以来、ずっと独り身だったりするんだけど。
「ご存じないですねえ? アニメなら見るんだけど」
ほほ笑みながら首をかしげるくまポーラー。
これだから悟り世代は!
「……やっぱり口封じ……」
くまグリズリーが爪をのばし構えをとる。だからなんでそう血の気が多いんだ!?
「そ、そうだ! コーチ! あなたたちのコーチになってあげる!」
「コーチ?」
顔を見合わせ首をひねるプリクマ。
「わたしの方が魔法少女の先輩。身分を隠すのには慣れてる。あなたたちみたいに、人に知られるようなヘマはしない訳よ。そう、わたしは魔法少女のOGとして、あなたたちのコーチを引き受けるわ!!」
起死回生の提案。この子たちにとっても、訳知りの大人の協力者はなにかとありがたいはず。
腕を組み、取り出したメガネを掛けドヤ顔でアピール。
「うざい……」
「押しつけがましい」
手を取り合ったふたりから、虹色のオーラが立ち昇る!
「すみません! コーチやらせてください!」
出来る女アピールより全力の土下座が心を打ったらしい。くまポーラーは深いため息と共に必殺技の構えを解いた。
「はぁ……分かったよ。あなたにも手伝ってもらうことにする」
「いいの?!」
「仕方ない。名誉コーチ扱いクマ」
「ありがとう!!」
名誉ってのが気になるけど、とりあえず助かった! ぬいぐるみの両手を取りぶんぶん上下に振り回す。
「コーチ、のど渇いたから飲みもの買ってきて……」
「分かったわ!」
「コーチ、おなかも空いたからマクノナルノのセットで」
「分かった! って、これコーチじゃなくてパシリだ!!」
ダメだ。命は拾ったけど、これじゃあいいようにたかられてしまう。
「ほら、黒がいないじゃない。3人目のメンバー、くまツキノワとかどう? バランス良くない?」
「年齢が厳しいです」
「月の輪熊は弱い……」
このう! 言いたいこといいやがって……
「3人目は中国からの転校生に内定してるクマ。くまパンダに変身するクマ!」
「熊じゃないじゃん!?」
菜子さんとふたりのプリクマ! 藤村灯 @fujimura
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