日記

一週目 発覚

1/18 0日目 ジェネレーター出力70%低下

2019年1月18日


「うーん、心臓が三分の一しか動いとらんですわ」


 手首と足首によく分からない機械を巻きつけられて拘束された私の胸元を、これまたよく分からないぬるぬるする棒でまさぐっていた医者は、困ったような口調でそう言った。




◆◆◆




 これは体調不良の原因を確かめに医者に行ったら割りとショッキングな事を言われたので、自分一人で抱え込まない為にメモ書きも兼ねて書き連ねる物である。

 誰かに知ってもらいたいが無闇に話せない内容を文章で吐き出す精神的な安息と、もしかしたら急激に悪化してヴァルハラに召されるかもしれない自分の地上での最後の記録を残そうという物であり、そういう自慰行為が苦手な方は見られない方がよろしいだろう。




 始まりは昨年の11月。

 空咳と少しの運動で息切れがするようになり、若干の腹の膨れを感じた。

 この時は冬前の花粉症か寒暖の差による体調不良だと思い耳鼻咽喉科に通っただが、これがなかなか治らず、それどころか翌月の12月に入る頃には横になると呼吸困難になる程に悪化した。

 更には仕事中に座っていても立っていても足がむくむようになり、ふくらはぎだけでなく太股や尻までその範囲は広がった。


 流石にこの頃になると体調不良の原因はむくみにあるのでは無いかと思うようになり、耳鼻咽喉科に通うのは止めた。

 後で知ったのだが、自分が通った耳鼻咽喉科の医者は評判が悪い医者だったようで、あそこに通うぐらいなら薬局の薬剤師に相談した方がマシらしい。

 どうりで内視鏡があんなに苦しいわけだ。一番近い場所というだけで選ぶのはよくないな。


 この頃はむくみの解消のために岩盤浴に通って汗を流したり、普段より多目にウォーキングや筋トレをして早急に筋肉を付けて水分を外に出そうとした。

 腹の膨れで量を食べる事は難しかったが下痢はしていなかったので、食事も筋肉を付けるために蛋白質を多目にした。

 特にステーキをよく食べた。某ステーキ屋のマイレージカードはゴールドになった。


 そして、これが間違いだったのだ。


 水分を出す努力をしているのに日に日に呼吸が苦しくなっていくのをおかしく思い、ようやく一日フルの休みが取れたので内科に通ったところ、エコーの検査の最中に冒頭の事を言われた。




 人は心臓が三分の一しか動かなくても死なないのだな。




 どうやら心臓がむくんで水が溜まっており、そのせいで収縮が通常の三分の一しか行えていないらしい。

 つまり血液が通常の量の三分の一しか体へ送れておらず、内蔵にも筋肉にも脳にも体中全てに影響が出ている。

 そんな状況で心拍数の上がる岩盤浴や筋トレをしたらどうなるか。余計に心臓に負担がかかるだけで、下手すれば心臓が止まってしまう所だった。

 更には腎臓と肝臓の活動が鈍っているようで、血液検査と尿検査の結果は最悪だった。数値上では高血圧と糖尿病を併発している。

 心臓がむくんでいる事で肺を圧迫しているので呼吸も苦しければ咳が出るのも当たり前で、ついでに肺に水も溜まっているらしい。


 笑えるぐらいに体中がボロボロだ。

 よく死んでないな自分。びっくりだ。


 病名としては『心不全』になるそうだが、そもそも心不全とは心臓が正常に動いていない場合を指すので原因も症状も幅広くて特定できない。

 心臓が正常になれば諸々の症状も治る可能性があるので、まだ高血圧も糖尿病も確定ではない。

 分かっている事は心臓に水が溜まっていて、通常の三分の一しか血液を送れていないという事だ。


 とりあえずは心臓と肺に溜まっている水分を抜くための利尿剤と、諸々の数値を正常にさせるための薬を貰ってきた。

 本来ならば安静にする為に入院が必要らしいのだが、仕事が休めないための投薬治療だ。

 一週間の投薬の後に再検査をして数値を見て、その結果次第では大きな病院を紹介して貰うという事になった。





 これが昨日の事。

 これから一週間、こうして日記形式で食べた物や体調のメモを取る。

 心臓がやばい割りには苦しさはそんなに無いので危機感は余り感じていないが、万が一という事もあるのが怖いところだ。


 出来れば二、三日で正常化して欲しい。

 リトルワールドの世界のチーズフェアに行きたいんだ。頼む。

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