第2話
勢いよく光に向かって踏み込む・・・・が、
「お・・・うわっ!!」
突如襲ってきた浮遊感。
つまるところそれは・・・・落下。
何故かわからないが突然道が途切れていて、勢いよく突っ込んでそのまま落ちてしまう。
しかし、そこは持ち前の運動神経を使い空中で体制を整え見事に地面へと着地してみせる。
「10.0!!」
体操選手のように両手を水平に伸ばしポーズを決める。
「あ、あぶな~」
着地に成功したとはいえ、背中を冷たい汗が流れる。
「ん?」
そして、気づく・・・・目の前に人がいるのに。
「は、はろ~」
一応・・・挨拶をする。
何故、英語かというと・・・
目の前の人物―男はどう見ても日本人には見えないからである。
―しかし・・・強烈だな、いろんな意味で。
男は長身で長髪・・・しかも、かなり美形だ。
白い肌はツルツルで世の女子たちが羨みそうだ。
男の長髪なんて似合わないと思っていたが、目の前の男は顔が良いせいか何故か異様に長髪が似合っていた。
ただ・・・髪の色は、どうやって染めたの?と訊きたくなるぐらい真っ赤。
毛根が痛みそうだ。
そして極め付けが・・・男はなんと鎧を着ているのだ。
突っ込み所満載なのだが、人の趣味(?)にいちいちケチを付けると馬に蹴られて死んでしまうので、とりあえずそれは黙認することにした。
まあ、趣味は人それぞれだ。
うんうん。
「あの~」
先ほど挨拶をしたはずのだが、男は金色の瞳を見開いたまま呆然としていて何の言葉も発してはくれない。
金色の瞳なんて初めて見た、などと感想を抱きながらも目の前の男が何の反応も返さないのに気まずさを感じる。
もしかしたら怪しまれているのだろうか?
まあ、普通自分の家にいきなり知らない人間が入ってきたらそりゃ怪しむな。
しかし、ここはどこよ?
どう見ても日本家屋の造りではない。
どちらかというとアラブの宮殿のような豪奢な造りの部屋だ・・・無駄に広い。
しかも、何かすごいキンピカ装飾がされていて眩しいし。
「すいません。じつは道に迷ってしまってですねー」
再度、赤髪男に声を掛ける・・・が、
「あの~もしもし?」
声を掛けても男は呆然としていて反応は返ってこない。
―う~ん・・・どうしよう。
ここはやはり何気ない日常会話から入ったほうがいいかもしれない。
「その髪・・・地毛ですか?」
「・・・」
反応無し。
もっとフレンドリーにいくべきか・・・ナンパ風(?)に。
「イケてるね~その髪!地毛かい!?」
「・・・」
反応無し。
いかん。
軽すぎたか。
じゃあ、
「その髪って地毛でござりますか?」
「・・・」
使い慣れない敬語(?)を使ってみた・・・が、駄目だった。
う~む・・・手ごわいな。
ここまでやって駄目とは。
ならば・・・
「・・・・どうやって・・・ここに?」
次の手を考えていると不意に赤髪男が口を開いた。
らっきー。
日本語通じるじゃん。
「え?ああっ!!いや、道に迷ってしまいましてね~」
正直に答えるが、赤髪男はその答えを信じていないらしく不信そうにこちらを見ていたが、周囲に視線を配ると、
「馬鹿な!!・・・封印が解けてる!?」
驚きの声をあげる。
は?ふーいん?
何のことだろう?
赤髪男は驚きのあまり口をあんぐり開けて固まっている。
顔が良いだけにその画はすごく間抜けだ。
ププ・・・。
いかん。
笑いそうだ。
駄目だ。
いくらなんでも今日あったばかりの見ず知らずの人、しかもこっちが不法侵入しているんだから、それを笑ったらますます印象が悪くなってしまう。
故に、我慢するため赤髪男から顔を逸らす・・・
バァァン!!
「・・・へ?」
顔を逸らしたと同時に、背後から音が聞こえる。
そして、続いて部屋中に響き渡る音の群れ。
何事かと背後を振り返れば、最初の音はおそらく悪趣味な金色の扉を開ける音、そして続く音は・・・
「・・・・わぉ~」
別にふざけているわけではない。
驚いているのだ。
・・・・目の前に現れたたくさんの兵士たちに。
兵士。
こちらを囲むようにしている彼らは、そう表現する以外ないような気がする。
鎧を着て槍や剣を構えている。
どう見ても警備員には見えない。
コスプレ大会・・・というわけでないようだ。
槍や剣は本物のようだし、何より部屋の中に漂う殺気は冗談では済まされない。
「******!」
「***!!***」
先頭に立ち構えている男が何か叫ぶが・・・・なんて言ってるのかわからない。
一体何語だ?
「***!!」
「****!!」
また何か言うが、やはりわからない。
言葉がわからないので黙っていると、段々と雰囲気が険悪になってくる。
しかも包囲網が徐々に狭まっているような気がするんですが・・・。
もしかして・・・・やばい状況?
いや、もしかしなくてもヤバイ。
どうしようかね。
身の危険を120%感じる・・・・。
抵抗しようにも、丸腰だし。
「・・・号名しろ」
「は?」
何ですと?
突然背後から声が聞こえる。
もちろん発したのは赤髪男だ。
「封印を破ってそなたは我が元まで来た・・・我はそなたを新しき契約者に選ぶ・・・名をつけろ」
振り返ると、赤髪男は真剣な瞳でこちらを見下ろしている。
チッ!
背高けえな、こんにゃろー。
などと心にどす黒い感情を抱きながらも、赤髪男の言葉を反芻する。
よく意味はわからないが、ええと、つまり、名前をつけろって・・・ことか?
「いやいや、兄さん。そんな拾ってきた犬や猫じゃないんだから・・・簡単に人様に名前つけるわけにはいかんでしょうが。っていうか、兄さん名前ないの?」
「・・・・・ああ」
赤髪男が頷く。
・・・この兄さん・・・きっと何か複雑な家庭の事情があるんだ。
目頭の奥が熱くなるのを感じる。
何はともあれ、こんな若者が自分を頼っている。
ならば、それに応えてあげるのが人情というものではないだろうか!
「そうだね・・・赤い髪・・・・赤は、血の色・・・命の証・・・赤は、火の色・・・輝く命の灯・・命火(めいか)というのはどうかな?」
名を告げた瞬間、男が眩い閃光を放つ。
いや、冗談でもなんでもなく本当に男が金色の光を発したのだ。
『!!!』
その場にいる全員が目も開けられないほどの光の中、男の姿が金色の光の粒子に霧散する。
そして、輝く光の粒子は再び集まり、やがて一つの姿を作る。
現れたのは黄金の剣。
優美な弧を描いた刀身は向こう側が透けるほど透明な黄金色。
柄の中心には、一片の曇りもない深い紅い輝きを放つ宝石が嵌め込まれている。
剣は地上から数センチ離れた空中にふわふわと浮いている。
『我を手に取れ、新たなる主にして覇王よ』
突如、剣から声が響く。
聞こえてくる声は赤髪男と一緒の声。
ということは、これは・・・剣=赤髪男、となるわけだ。
ミラクル。
というか、これは現実か?
主とか覇王とか・・・なんかすごいことになってるような気がするんですが・・・、
「えっと・・・まあ、いろいろと突っ込むところはあるけど・・・・まあ、いいや」
武器が手に入ったし・・・・。
剣を手に取るが、その軽さに驚く。
重さはほとんど感じない。
誇張でもなんでもなく、本当に木の小枝をもったぐらいの重量しか感じない。
すっ、と剣を横に薙いでみると、その軽さが実感できる。
剣を振るうと、キラキラと黄金の光の粒が尾を引いて地面に落ちる。
何回か剣を振るい手にある剣の質感と手応えを確かめると、目の前―囲んでいる兵士たちに視線をやる。
ざわっ、と辺りの兵士たちがざわめく。
囲んでいる兵士たちが、明らかに恐怖しているのが見て取れる。
先ほどの威勢はどこにやら、全員びびり腰である。
一歩踏み出すと、それだけで包囲網が崩れる。
悠然と歩みながら、ふと、思い出したように手の中にある剣に語りかける。
「ところで・・・ここってどこ?」
命火 エル @EruWaltz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます